社会運動とSNS、実は相性が悪い?

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 昨今、重要文化財級といわれるモダニズム建築の取り壊しの是非を巡っての議論が活発になり、全国各地で保存運動も起こっている。筆者は建築関連の記事を多数執筆している縁もあって、これまでに貴重な建物の保存運動を取材してきた。その経験から、成功している運動には一定の法則があると感じるようになった。【取材・文=山内貴範】

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社会運動の主催者が守るべき4箇条

 先に筆者の結論を提示してしまうと、建築物の保存運動を成功に導くために主宰者が守るべきことは以下の“4箇条”だと考える。

(1)SNS(特にX)は“可能な限り”やってはいけない。
(2)関係者は暴言を吐いてはいけない。
(3)ネットよりもまずは身内に仲間をつくり、輪を広げていく。
(4)異なる意見の人を排除してはいけない。

社会運動とSNS、実は相性が悪い?

 これは、取り壊し目前だった建物の保存運動を行い、成功に導いたA氏が実践していたものだ。A氏の運動は地味で草の根的であり、そもそもSNS時代に逆行するかのような手法だし、マスコミに大々的に取り上げられることはほとんどなかった。異論のある読者も少なくないかもしれないが、A氏の運動は実際にうまくいったのである。そして、筆者が見る限り、成功している保存運動は(1)〜(4)のうち、3個以上が当てはまっているように思う。

 SNSを中心に、大きく盛り上がっている社会運動を見てほしい。(1)〜(4)のすべてと真逆のことをしているケースばかりだ。SNSで、反対意見を述べる人をバッシングするなどして盛り上がりこそするものの、実際には何一つ目的を達成できていない例が多いのではないだろうか。

 A氏は地域の人たちから地道に寄付を募り、政治家や建物の権利者と交渉を重ね、貴重な建築の保存に繋げた。その建物は取り壊しの計画があったことが嘘だったかのように、地域の人たちが集まるサロンとなり、遠方から訪れる人もいるのだという。成功に至った要因を聞いた。

SNSをやらないほうがいい理由

――建築物の保存などを求める社会運動はSNSや、クラウドファンディングをはじめネットを駆使するイメージがあります。そんななかで、AさんがSNSをやらなかったのはなぜでしょうか。

A:SNSはちょっとしたことでも炎上するケースが多すぎて、今の時代はマイナスにしかならないからです。特に、SNSでは運動のリーダーが、強い口調で発言したり、反対する勢力を攻撃したりするケースが当たり前のようにあります。これは絶対によくありません。また、普段は大人しい人も、なぜかネット上だと暴言を吐いてしまうことが多いのです。

 社会運動を成功させるためには、ライトな層の支持をいかに集めるかにかかっています。一部の政治家を攻撃したり、思想的な部分を前面に押し出したりすると、今の時代は人がついてこないんですよ。「ヤバい人たちだ」と見られてしまったら、それでおしまいです。行政や政治家を味方につけたい場合はなおさらです。

――とてもよくわかります。

A:カリスマ性が高いリーダーが、強い口調で支持を集めるケースはよくあるじゃないですか。リーダーの考えに近い過激な思想の持ち主は、ついて行きやすくなるかもしれません。しかし、結局、過激な人同士が仲良くなるだけで終わってしまうため、マイナスにしかなりません。

 そのためには、SNSをやりたい気持ちはわかりますが、敢えて、やらない。運動に対して否定的な意見があると、強い口調で言い返したくなるじゃないですか。それだと誰もが失言をするリスクがあるし、何を隠そう、私が一番それをやりがちなタイプです(笑)。昔から熱がこもると感情的になりやすい性格なので、SNSをやらなかったんですよ。

――温厚そうなAさんでもSNSではカッとなりやすいというのは意外ですが、ご自身の性格を冷静にみたうえでの判断だったわけですね。Aさんは、SNSをやらないかわりに、身内や友達の繋がりを重視したそうですが。

A:SNSをやるくらいなら、身内や、近所の人を説得することに時間を割いたほうがいい。会社なら、職場の人を丁寧に説得していく。特定の技能者団体などであれば、仲間内を説得するのです。建物の保存運動などは、ネット上の不特定多数よりも、むしろその建物を身近に感じている近所の人と良好な関係を築くほうが大切だと考えています。

異なる意見を排除しない

――そしてこれが、運動をやるうえでおそらくもっとも難しいと思うのですが、異なる意見を排除しないことですね。主催者や幹部は、何かと自分に逆らわない人で周りを固めたがる傾向にあります。

A:他の運動を見たところ、内部の人がものすごくワンマンで、自分の考えに従わない人は許さないような運営をしているケースがありました。少しでも異なることを言っただけで、裏切り者扱いされてしまうような。それでは、風通しの良い組織にはなりませんよね。

――私はある運動を抜けた人に話を聞いたのですが、内部の人たちが主宰者に「こう改善したほうがいいのでは」とアイディアを出したら、「俺に逆らうのか!」と言われたそうです。結局、運動は空中分解したようですが……。

A:常に相手の反応ばかり意識してしまい、内部で何も声を上げることができない空気感は、よくないですよね。

 あと、身内は言うまでもありませんが、対抗勢力になっている政治家など、意見が異なる立場の人を攻撃しないことも大事です。一般人に対して、「こんなこともわからないのか」「この建物の価値がわからないなんて、文化的民度が低い」みたいに言う人って、ネットにたくさんいるじゃないですか。

――いますね。

A:そういう上から目線だと、ライトな層は見下されているかのように思ってしまい、運動に参加しようなどとはゆめゆめ思わないでしょう。繰り返しますが、最終的にはライトな層の支持を集めないと、どんな社会運動であってもうまくいかない。自分たちはインテリなんだ、という雰囲気を出さないことは大事です。

組織の風通しをよくするには

――話が少し戻りますが、先ほどのお話に出た、風通しの良さは組織運営のためにもっとも大事だと思いました。

A:私も運動をやってみてわかりましたが、頭数を揃えるだけじゃダメなんですよね。メンバーも自分の意見を聞いてもらえないとフラストレーションがたまってしまい、熱心に活動しなくなるでしょう。企業でも同じことが言えると思いますが、上の人に忖度して意見を言えない組織はうまくいきません。

 どんな意見でも闊達に言い合える組織にしたほうがいいんです。異なる意見を言う人を排斥するのではなく、そういった人の意見こそ有益と考えるなど、ポジティブな感情を持つことが大事だと思います。運動は楽しくできることが一番なのですから。

――みんなで楽しみながら運動すると。

A:もともと、運動を始める人たちって、社会全体からするとニッチな存在だと思います。だからこそ、加わったメンバーは全員仲間だし、仲間内での小さな声を拾い上げることは大事だと思います。そして、組織の雰囲気は、暗いよりも楽しいほうがいいですよね。

――目からうろこです。個人的には、Aさんがもっと表に出て、この成功体験を伝えてほしいと思うのですが……。

A:それは勘弁してください。私はあくまでも地元の建物が好きなだけの一般人です。活動家やコンサルとして有名になろうなどとは考えていませんし、表に出て、議論をしたりすることは好みません。ましてや、ネット上でバッシングを受けるのは嫌です(笑)。

 だから表に出ることはしませんが、私の話が、これから社会運動を始めようという人の役に立てばいいな、と思っています。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部