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内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、65歳以上の就業者数は年々上昇しており、21年連続で前年を上回ったそうです。そのようななか、65歳の林山翔平さんは「十数万円の年金だけでは生活に余裕がない」と危機を感じ、雇用延長の途中から「定年バイト」の就活を開始しました。そこで今回は、林山さんの著書『年金だけじゃ生活できない!「定年バイト」奮戦記』より一部を抜粋し、定年バイトの実態をお届けします。

【書影】現在65歳の著者が数々のバイトの面接に潜入取材を敢行!林山翔平『年金だけじゃ生活できない!「定年バイト」奮戦記』

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立ち食いそば店の“深夜ワンオペ”は命がけ 敬遠されるのも無理はない

「回転寿司で賄い飯をたらふく食おう」と食い意地を張って面接に臨み、「有料で3割引き」と宣言された。

当てが外れたことになる。それでも私はタダ飯に未練タラタラ。そこで立ち食いそば店の深夜勤務に応募してみた。

訪れたのは都内のそばチェーン。店長の近藤氏(仮名)は、40代の温厚な人物で、

「人手が足りなくて困ってるんです。はっきり言って切羽詰まってます」

と話してくれた。

今は近藤氏が昼間をやりながら、無理して深夜勤務もこなしているそうで、火曜、木曜、土曜の深夜担当者を求めている。

立ち食いそばとはいえ、店には常連客がついていて、午前、午後、深夜とそれぞれの時間帯に「腹減ったぁ」と立ち寄ってくれる。ところが人手が足りないため、曜日によって深夜は閉めざるをえない。すると客は「あそこは深夜営業をすべてやめた」と判断し、その後は他の曜日の夜中に店を開けても来店してくれなくなる。

一度去った客は容易に戻って来ない。そのため店全体の売り上げが落ちているそうだ。

「だから深夜に店を任せられるスタッフが欲しいんです。だけど深夜勤務の募集をかけても全然応募がありません。林山さん、あなたは久しぶりの応募者です」

夜11時から翌7時までの8時間、店を切り盛りして欲しいと言う。

深夜はさまざまな事態が持ち上がる

とはいえ、私は立ち食いそばの経験はない。それでもいいのかと聞くと、

「まずは昼間働いて仕事を覚え、慣れてきたら深夜を担当してください」

近藤氏はこう言って深々と頭を下げ、

「健康面は大丈夫ですか?」

と聞いてきた。大丈夫と答えると、さらに、

「病気を抱えていませんか?」

と言う。彼が健康面を気にする理由は面接の終盤で判明した。それは後述する。

深夜勤務はワンオペ、つまりスタッフ1人だけの作業となる。理由は売上額から計算して、2人分の給料を払う余裕がないからだ。2人分払ったら、赤字になってしまうのである。

当然ながら、深夜はさまざまな事態が持ち上がる。たとえば酔っぱらいが「味がまずい」とクレームをつけてくるケース。

「深夜のお客さまはお酒のせいもあって、支離滅裂の人が多い。何でもいいから、文句を言いたいみたいです」

そばで満腹になった酔客が食後に眠ってしまうこともある。その場合「お客さま、起きてください」と注意するのはいいが、怒鳴ってはいけない。あくまでも耳元でささやく程度にとどめる。客の肩をゆすったり叩いたりなど体に触れる行為は厳禁だ。

「警備会社に連絡し、警備員に来てもらいます。出動した警備員がお客さまを店外に移動してくれるので安心です」

客が鍵をかけたままトイレで熟睡することもある。その場合も警備員がドアを開けて客を店外に連れ出してくれる。

好条件なのに、なぜ人が来ないのか

時給は昼間は1300円だが、深夜は割り増しで1625円に跳ね上がる。

午前3時から45分間休憩が取れ、その間に店の料理を食べていい。


(写真提供:Photo AC)

「ワンオペなので、外の看板の灯りを消し、店を一時閉店にして休憩します。何を食べてもかまいません。そばとカレーのセットでもいいし、かつ丼のセットでもいい。お腹が減っていたら大盛りを食べてください。すべて無料です」

なんと無料食べ放題! しかもうれしいことに休憩中も時給が支払われる。つまり丸々8時間分のギャラがもらえるのだ。

単純計算でひと晩(8時間)で1万3000円稼げることになる。回転寿司よりずっといいではないか。

そんな好条件なのに、なぜ人が来ないのか。疑問をぶつけると近藤氏は、

「牛丼屋でのことが影響しているようです」

と教えてくれた。

牛丼屋でのこととは名古屋市のすき家で起きた死亡事故だ。2022年1月、深夜ワンオペのバイト女性(58)が勤務中に死亡。死因は心筋梗塞とされた。女性は午前5時半ごろ厨房で倒れたとみられている。交代のために出勤してきた従業員によって発見されたのは3時間も経過した8時40分だった。ニュースになったから覚えている読者も多いはずだ。

中高年や高齢者には「何かの発作で倒れたとき、助けてくれる人がいるか」と心配する人が少なくない。かくいう私もこの1年ほど後頭部に鈍痛を感じ、病院で診察を受けたことがある。厨房の奥は客席から見えにくいものだ。昏倒し誰も気づいてくれなかったら、死の危険性が高まる。だから深夜ワンオペは敬遠されるのだ。前述したように近藤氏が私の健康状態を気にしていたのはそうした事情だったのである。

立ち食いそば残酷物語

私の顔に困惑の表情が浮かんだのだろう、近藤氏は、

「当チェーンには60代の人が3人働いてます。誰でもできる仕事です」

「深夜とはいえ、昼間に比べてそれほどハードということはないんです」

とフォローにかかった。

彼には申し訳ないが、私は自分の健康と命が気にかかる。60代の深夜バイトは命がけと考え、後日、丁重に断らせていただいた。

時間が余ったので、立ち食いそば業界についてさらに話を聞いた。そば粉の重量が30キロあるため、不用意に持ち上げるとぎっくり腰になるそうで、近藤氏は、

「私もなりました。ぎっくり腰は一度やってしまうとクセになる。たぶん完治しません」

深夜のワンオペだと店の食材をこっそり持ち帰る不届き者がいるのではないかと思うが、近藤氏によるとそうした犯罪的な行為は棚卸しのときに発覚する。同業の立ち食いそばチェーンでは防犯カメラの映像から食材を盗んでいた犯人が見つかり、警察沙汰にはしなかったもののクビにしたケースがあるという。

また、立ち食いそば業界は会社によって待遇が大違いで、サラリーマンの間で名前が通っている某社は、

「正社員でもボーナスがわずか1万円。良くてもせいぜい10万円です」

まさに立ち食いそば残酷物語。ワンオペの危険性も相まって、面接は自分の健康状態などを勘案して決めなければならないと肝に銘じたのだった。

※本稿は、『年金だけじゃ生活できない!「定年バイト」奮戦記』(秀英書房)の一部を再編集したものです。