プライベートでも息子とハイキングを楽しんでいる。この写真は田代島(石巻市)へ次男と歩きに行った時のもの(2020年10月)

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 岩手県の小さな町、三陸町(現大船渡市)越喜来で生まれ育った。

 入り組んだ半島と三陸の海に囲まれた町だ。海の幸が豊かで、季節ごとに表情を変える海を見て育った。森の中や知らない土地に行くと、つい海の方角を探してしまうのは、三陸生まれの性(さが)なのかもしれない。

 子どものころの私は、この場所を「何もない田舎」だと思っていた。18歳で大学進学のため関東へ。ようやくここから出られる。そんな思いで故郷を離れた。

 東日本大震災のあと、私は2人の息子を連れて故郷へ戻った。久しぶりに見た町は、18歳まで見ていた風景とはすっかり変わっていた。新しい防潮堤ができ、海が見えなくなった場所もある。かつての道路の形も、お気に入りの店があった場所さえ思い出せなかった。

 それでもそこには人の暮らしがあった。店を続ける人、海に出る人、学校へ通う子どもたち。そして20年ぶりに戻ってきた私を笑顔で迎えてくれた地域の人たち。そういう人たちと語り合ううちに、私は少しずつ、この土地の魅力に気づいていった。

 2015年に環境省のアクティブ・レンジャーとして働き始めたのが、みちのく潮風トレイルとの出会いだ。海沿いの道を歩きながら地域の人と話を重ね、学ぶ時間は、私にとって故郷を知り直す時間でもあった。この地で生まれた私だからこそ、この道のためにできることをしようと、地域の人と、訪れたハイカーたちと、語り合ってきた。

 たくさんの人が歩いてこそ、ハイカーと地域の人の出会いが生まれる。この道が、人と人をつなぎながら未来へ続いていってほしい。地域の声がきちんと届き、その魅力が歩く人へ手渡されていく道であってほしい。そんな思いを胸に、昨年度からみちのくトレイルクラブの一員となった。

 歩いてきたハイカーが「素晴らしい景色ですね」と言うと、地元の人が少し照れながらうなずく。そんな光景を、私は何度も見てきた。ハイカーの言葉が、地域の人の誇りをそっと呼び起こしていく。

 私にとっても、この故郷を見つけ直す道だった。