【GW明け公開の注目作】実写ミステリー映画がヒットする2つの理由、なぜ今「本格ミステリー」が若者に刺さるのか?

(写真:Rawpixel.com /Shutterstock.com)
ゴールデンウィーク明けは、日本のミステリー作品を原作とする映画の公開ラッシュだ。5月8日が湊かなえ原作の「未来」、15日が小川哲原作の「君のクイズ」、22日は深水黎一郎原作の「ミステリー・アリーナ」と毎週のように新作がスクリーンに登場する。6月には、4つの主要ミステリーランキングを総なめにし、直木賞も受賞した米澤穂信「黒牢城」の映画化作品の公開も控える。近年の国内ミステリー映像化作品人気の背景を探った。
2025年、アニメが席巻する中で、ミステリー3作品がトップ20入り
昨年に公開され、実写邦画の興行収入記録を塗り替えた「国宝」が、日本アカデミー賞で監督賞や主演男優賞など10冠に輝いたのは記憶に新しいが、その前年に強敵「キングダム 大将軍の帰還」などが並ぶ中、監督賞、主演男優賞を受賞したのが藤井道人監督、横浜流星主演の「正体」だった。
「正体」の原作は染井為人の同名小説。一家3人の殺人で逮捕され死刑判決を受けた若者が脱獄し、建設現場や雪深い街など次々に場所とキャラクターを変えながら潜伏生活を送るというストーリーだ。刑事の追跡、過酷な環境をかいくぐり、果たさなければならない目標へと突き進む主人公を横浜が鮮烈に演じ、藤井監督特有の映像美の世界で彼を取り巻く環境や人々の変化が丁寧に描かれている。
近年、実写映画で日本のミステリーが存在感を高めている。
2025年の興行収入ランキングでも、「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」「名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)」「チェンソーマン レゼ篇」「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」など強力なアニメ勢が記録を伸ばす中、3作品がトップ20入りを果たした。
13位の「爆弾」(興行収入31.6億円)は『このミステリーがすごい! 2023年版』と『ミステリーが読みたい2023年版』で1位に輝いた江戸川乱歩賞作家・呉勝浩の同名の小説が原作。酔って微罪で連行された正体不明の男が爆破事件を“予言”したことから、連続爆破テロを阻止すべく、捜査一課の刑事が取調室で男との壮絶な心理戦を繰り広げる。男に扮した佐藤二朗の怪演が話題を呼んだ。

映画では佐藤二朗の怪演が話題を呼んだ呉勝浩の『爆弾』
17位の「ブラック・ショーマン」(興行収入24.0億円)では、原作・東野圭吾、主演・福山雅治が、「容疑者Xの献身」「真夏の方程式」「沈黙のパレード」のガリレオシリーズに続いてタッグを組んでいる。原作は20年刊行の『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』。類まれな人間観察力を持つ超一流のマジシャンながら金に細かく噓つきの変人を、福山が高いテンションで演じた。
20位の「#真相をお話しします」(興行収入21.2億円)の原作は、雑誌『小説新潮』に発表された結城真一郎の短編小説集。ビルの警備員・桐山は暴露系チャンネルで秘密を話し、投げ銭で一攫千金を得ようとしていた。それを見守る謎の男・鈴木。連続空き巣やパパ活といった現代の闇が語られ、最後の話し手となった鈴木から驚くべき話が開かされる--というストーリー。主演に人気バンドMrs. GREEN APPLEの大森元貴とアイドルグループtimeleszの菊池風磨を配し、SNSによる大胆なプロモーションで若年層の心を掴んだ。
映像技術の進化の好例は、『十角館の殺人』のドラマ化
日本のミステリー小説の映像化作品がヒットした理由として、ある書評ライターは「ミステリー作品の多様化」と「映像技術の進化」を挙げる。
謎解きの舞台は嵐の孤島、吹雪の山荘、孤立した客船といった“クローズドサークル”主体から日常生活にも向かい、一方で、SFやホラー、ファンタジー、歴史物といった分野との融合も進む。結果としてターゲット層が広がり、ミステリーを通して心を震わすヒューマンドラマや壮大な時代劇を作ることも可能になっている。
前述した「正体」の原作者の染井は芸能マネジャーや舞台演劇のプロデューサー出身であり、さらに、長寿ドラマ『相棒』シリーズの脚本を手掛ける太田愛、放送作家の小西マサテルなど、映像に近い場所にいる作家が増えていることも映像化しやすい作品が増えている一因だろう。
書評ライターが映像技術の進化の好例と評すのが、映像化は不可能と言われていた綾辻行人による新本格ミステリーの金字塔『十角館の殺人』を、24年に動画配信サービスのHuluがドラマ化したことだ。
ネタばらしになってしまうので仔細は伏せるが、ドラマを成立させたのは作品世界を忠実に再現する丁寧な絵作りと、ある俳優の好演。重厚で謎めいた館で進行する狂気の惨劇が、新本格派を知らない若い世代から人気を博した。
“考察ブーム”も人気を後押し
Huluでは「十角館の殺人」と同じ江南孝明と鹿谷門実コンビが探偵役を務めるドラマ「時計館の殺人」も今年2月にリリース。さらに、4月17日からは綾辻と同じ新本格派の旗手・有栖川有栖原作「スイス時計の謎」、法月綸太郎原作「リターン・ザ・ギフト」、麻耶雄嵩原作「メルカトル・ナイト」もドラマ化、3週連続で独占配信を行った。
前述の書籍ライターは、ドラマの世界で新本格派の作品が再評価される背景には近年の“考察ブーム”もあるという。
日本テレビの土曜や日曜のドラマ枠(「あなたの番です」「良いこと悪いこと」など)、TBSの日曜劇場(「VIVANT」「リブート」など)でこうしたドラマが週末の夜を彩り、ネットの“考察班”が盛り上がる構図が生まれている。
「エラリー・クイーンを筆頭にアガサ・クリスティやジョン・ディクスン・カー、コナン・ドイルらの影響を受け、謎解きの論理を重視する新本格派原作のドラマは、“考察班”にも刺さるのではないか」(書評ライター)
ゴールデンウィーク明けの公開を待つミステリー映画の原作は新本格派のようなクローズドサークルではないが、それぞれ個性と魅力を持ち、謎解きも楽しめる。
連休明け公開の注目作品
「未来」の原作者の湊かなえは放送作家でもあり、「映像に近い世界」の住人だ。人間の心の闇を炙り出す「イヤミスの女王」湊の作品は、映画「告白」、ドラマ「Nのために」など既に多くが映像化されている。
「未来」はその湊の集大成との声も高い秀作。母親の恋人から虐待を受ける少女・章子に届く「20年後のわたし」からの手紙を軸に物語が展開する。章子に寄り添う教師を黒島結菜、母親を北川景子が演じる。
「君のクイズ」の原作者は、多彩な作風を持つ直木賞作家の小川哲。小川作品では人類が火星に住む100年後に起きる事件を描いたSF「火星の女王」がNHKでドラマ化されたばかりだ。
「君のクイズ」は、クイズ番組の決勝で対戦相手が問題を1文字も読まないうちに正答して姿を消し、自分もやらせに加担したと思われたことに憤慨した“クイズ界の絶対王者”三島が真相に迫るミステリー。三島に中村倫也、対戦相手の本庄に神木隆之介、怪物プロデューサーにムロツヨシと演技派が顔を揃える。
「ミステリー・アリーナ」もテレビのクイズ番組を舞台にした作品だ。国民的推理クイズ番組「推理闘技場(ミステリー・アリーナ)」は難解な問題に正解する者が現れず、賞金が100億円までアップしていた。当日の問題は「洋館で起きた連続殺人の真相」。しかし、早押し形式で解答者が次々説得力のある推理を述べても司会の樺山のジャッジは「不正解」ばかり。
実はこの番組には恐ろしい陰謀が隠されていた。原作者の深水黎一郎は読者の予想を巧みに裏切る“頭脳戦”を得意とする。樺山役は唐沢寿明、堤幸彦監督と「20世紀少年」以来のタッグを組み狂気の司会者を熱演している。
映画の前に原作小説を読む手も
「黒牢城」の原作者・米澤穂信は、今最も注目されるミステリーの書き手の1人。作品の舞台は安土桃山時代の摂津有岡城。歴史好きの人ならすぐにピンと来るであろう、荒木村重が織田信長に謀反を起こして立て籠もった有岡城の戦い(1578〜79年)が繰り広げられた場所だ。
籠城中に難事件に見舞われた村重は地下の土牢に囚われの身となっている“知恵者”黒田官兵衛に解明を要請し、官兵衛は応じる。黒牢城が壮大な謎解きゲームの舞台となる形だが、2人の英傑の鬼気迫る対決は時代劇としても面白い。村重に本木雅弘、官兵衛には菅田将暉と世代を代表する名優がキャスティングされている。
ゴールデンウィークは普段はあまり読まないジャンルの本に手を伸ばすチャンスでもある。映画を見る前に原作に目を通しておけば、多少難解でもストーリーの迷子にならずに済むし、映像化の意図や工夫も把握しやすい。より集中して映画が楽しめそうだ。
筆者:森田 聡子
