天海祐希・香取慎吾ら芸達者15人が「100役」演じ分け、最後はじんわり…三谷幸喜「新宿発8時15分」
乗っていた電車が人身事故で止まったら。
誰もが巻き込まれかねないアクシデントを、三谷幸喜(作・演出)と荻野清子(音楽)がコメディータッチのミュージカルに昇華させた。ドタバタ群像劇ながら最後には心の深いところをじんわりと温かくしてくれる。
足止めにあった客や、運転再開に向けて奔走する駅員ら約100人に上る役を、天海祐希=写真左=や香取慎吾=同右=、浅野和之といった芸達者15人が演じ分け、同時に進む様々な場面が次々に入れ替わっていく。
シンジュク駅を午前8時15分に出発したカマタマ線の電車が緊急停止する。少女に接触したと思われ、現場では、車掌や警察が少女とその父親の行方を捜し始める。
輸送司令センターでは、センター長(天海)が制服姿にヘッドセットをつけ、モニターをキビキビと確認する。視線と手の動きで颯爽(さっそう)とするが、その後、ダーリン思いの料理研究家役になると、乙女のような笑顔を見せる。さらに腹巻き姿まで披露する奮闘ぶりだ。
車内では、車掌(ウエンツ瑛士)が「列車が遅れますことをおわびいたします」というお決まりのアナウンスがだんだんと歌に。車内で起きるハプニングは、乗客たちがユーモラスな連係プレーで乗り切る。
浅野は「遅延ラプソディ」を緊張感なく歌う駅長をはじめ、絶妙な間合いで客席の笑いをさらう。駅長に殺気立って詰め寄る人々も彩り豊かだ。朝の生放送のニュースキャスターを演じる香取は妙に気取った振る舞いが秀逸。ミュージカルのオーディションに向かう役者には尾上松也。名作演劇を彷彿(ほうふつ)とさせる楽曲を歌い上げる姿に華がある。急いでなさそうな地質学者を演じる新納慎也はたたずまいだけで不思議な空気感を作る。コンビニの雇われ店長の面接を受けに行く男役の小林隆は斜め掛けバッグに手をやり、背中を丸める姿に哀愁が漂う。
一見すると、はちゃめちゃだが、荻野の楽曲は演歌にタンゴ、ブルースと、それぞれの人生を描き出す。終盤、警官役のシルビア・グラブの歌声が心に染み入る。特急並みの勢いで飛ばす100分だ。
物語は思いも寄らない終着駅へと向かう。偶然、ある場面に居合わせた人々は、名前も知らない誰かに感化され、感化している。電車が止まったら、「カマタマ線」を思い返し、気持ちを落ち着けることにしよう。(武田実沙子)
――26日まで、東京・外苑前の日本青年館ホール。
