「白いスポンジ」がなぜか頭から離れない…後発だった「激落ちくん」が2億個売れるNo.1ブランドになった"秘密"

■累計販売個数2億個のロングセラー
コーヒーを飲んだ後のマグカップの茶渋、シンクや蛇口まわりについた水アカなど、頑固な汚れがどうしても落ちない……。そんなとき頼りになるのが、丸い目と太い吊り上がり眉毛がトレードマークの白いスポンジ「激落ちくん」だ。洗剤なしで汚れを簡単に落とす。
日用品メーカーのレックが1999年11月に発売した「激落ちくん」は口コミ効果で、右肩上がりに売れ続けている。約26年間で、サイズ違いの激落ちパパやママ、キングといった「家族」も登場し、スポンジの激落ちくんシリーズは総勢19品目、直近の年間販売個数は250万個に上る。
シリーズ全体の累計販売個数は2億個を突破し、今や押しも押されもせぬ同社のトップブランド商品となった。
茶渋やシンクの水垢、ステンレス鍋の焦げ、スニーカーの汚れなどに活躍する激落ちくんだが、なぜゴシゴシこすらずとも水だけで落ちるのだろうか。

■使えば使うほど小さくなっていく理由
企画開発を担当する開発統括本部ハウスホールド部部長兼キャラクター推進部部長の竹下真由美さんは、こう説明する。
「白いスポンジはメラミン樹脂を発泡してできたもので、細かなミクロの網目構造をしています。通常のポリウレタン樹脂のスポンジとは違って、網目構造がとても細かく硬くて崩れにくいため、汚れの間に入り込んで、汚れを掻き出す作用に優れているのです。
ふわっと軽くて柔らかい材質に見えますが、実は強力なパワーを備えていて、削って汚れを落とす研磨剤のような働きがあります。『激落ちくん』が使うたびに小さくなっていくのも、汚れが落ちると同時に削られていくからなのです」
■「あの大きな目に見られている気が…」
消しゴムのように汚れを削り取るメラミン樹脂のスポンジは、当時、劇的に落ちる清掃用品を企画していた同社にとって理想の商材だった。すでに複数のブランドが流通していたため、自社商品に存在感を持たせる見せ方を工夫し、商品を打ち出した。
それが、「激落ちくん」という覚えやすいネーミングと、インパクトのあるキャラクターデザインだった。
「販売製造している当社のことは知らなくても、あの大きな丸い目と太い眉毛の激落ちくんのキャラクターについてはご存じの方が多いかと思います。当初、デザインとネーミングに関しては社内で否定的な意見もあったようですが、『おもしろい企画はまずやってみよう』というのが当社の姿勢なので、そのまま発売まで進めたという経緯がありました。
商品のキャラクターが非常に立っているので、お客様に手に取っていただける好機につながっていると思います。ホームセンターで買い物されているお客様からは、あの大きな目に見られている気がして、素通りできず商品の前で立ち止まって買ってしまうという声もいただいています」

「激落ちくん」は後発組だったが、口コミで徐々に広まり、複数の先発ブランドを抑え業界で5割以上のシェアを獲得するまでに成長した。
■「激落ちくんなら損しない」と思わせる
一度見たら忘れられない訴求力のあるイラスト、強力な洗浄パワーを連想させる商品名という、際立った商品の独自性が、「激落ちくん」を同社の看板商品に押し上げたことは明らかだ。
そして、もう一つ、激落ちくんという強いブランド力を作るうえで重視したのが、「商品に対する信頼の醸成」だという。
「先行商品が無数にある清掃用品市場で、『激落ちくん』はメラミンスポンジという素材だけで勝負しなければなりません。その分、性能や機能の良し悪しがよりダイレクトに伝わるので、高品質を維持することは必須です。これを実践することで、結果的に『激落ちくんを買っても損をしない』という商品への信頼につながり、数字に反映されたのだと思います」

「激落ちくん」をはじめ、さまざまなメラミンスポンジが販売されているが、洗浄力や耐久性といった性能にそれぞれ差がある。消しゴムのカスのようにボロボロしてすぐに消耗してしまうスポンジは、内部の骨格の構造の強度に問題があり、洗浄力や耐久性が弱い。
「激落ちくん」は汚れ落ちが良いうえに、価格は定番タイプで250円(税込)と手ごろだ。消費者が欲しい商品価値が「激落ちくん」には詰まっている。それがロングセラーたる理由といえる。
■認知度90%だからこその危機感
業界ナンバーワンシェアを誇る「激落ちくん」だが、販売から約26年間にコマーシャルを打ったのは1度だけで、基本的に口コミだけで認知度を伸ばしてきたという。5年前よりSNSの影響が顕著に表れ、認知度は80%に達した。そこから徐々に90%まで上昇し、ほぼ誰もが知っている国民的ブランドの地位を獲得した。
この域に到達すれば、販売努力をしなくても売れるのではないか、と問うと、竹下さんは首を振り、「むしろ、90%の認知度だから難しいのです」と話す。
ここ数年、わずかだが認知度が下降傾向にあり、業界トップの座から追われる立場としてプレッシャーや危機感を抱いていると、竹下さんは話す。
「売れ行きを左右する理由として、住宅環境の変化も一つあります。掃除やお手入れがラクなように、トイレの便器や洗面所のミラー、フローリングなどに艶出しや抗菌剤などがコーティング加工されている住宅が増えています。『激落ちくん』はコーティングされている部分に傷をつけてしまうので、そういう住宅には使えないのです」

■100均の「消しゴム」で子どもに照準
トップブランドの激落ちくんであっても、「食品と同じように、鮮度がないと売れない」という。完成品の「激落ちくん」を、今以上に売れる商品にする難しさ。さらに住宅環境の変化だけでなく、顧客層の高齢化という課題もある。方策はブランディング戦略の見直しだと竹下さんは話す。
「消費者を飽きさせないことが大切なので、パッケージのキャッチフレーズや棚に陳列する方法を工夫して、商品の見せ方を随時変えていっています。また、これまでターゲット層は40、50代以上の女性が中心ですが、若年層にアプローチしていくことも積極的に取り組んでいこうと考えています」
同社が開発し、100円ショップで販売している「まとまる消しゴム(激落ちくん)」は、若年層をターゲットにした製品の一つだ。小学生の間で人気の商品で、激落ちシリーズの最初のタッチポイントとしてロングセラーとなっている。

「当社に入社する新入社員に聞いても、消しゴムは使っていたけれども、掃除をしたことがないので、激落ちくんのメラミンスポンジは使ったことがないと答える20代が大半です。若い世代も自活すれば掃除をしますよね。彼らにどうやって『激落ちくん』を使ってもらうか方策を考えているところなんです」
■「激落ちくん」はスポンジだけじゃない
激落ちシリーズをはじめ日用品全般の企画開発を担う中心人物は、約8〜10人の女性チームだ。彼女たちは日常的に自社製品を使って家事をこなしながら、アイデアを練る。と同時に、SNS上の口コミを拾い上げ、商品企画に活かしているという。たとえば「激落ちスニーカー・上履き用」は、消費者のアイデアから生まれた。
ほかにも、マイクロファイバー、ワイパー、アルカリ電解水スプレー、洗濯槽クリーナーといった清掃商品を企画開発し、激落ちシリーズとして販売している。いずれもスポンジと同じく「強力な洗浄パワー」が売りで、シリーズの品目数は約70まで増えている。

そのなかで、久々の大ヒット商品が2024年秋に誕生した。ホコリを劇的に取るモップの「トレループ」だ。2025年にはプレミアムシリーズも登場した。
「名もなき家事を減らす」のコンセプトが功を奏し、「トレループ」は瞬く間に女性たちに「バズモップ」と呼ばれ、人気を獲得した。売上本数は150万本を超え、シリーズ10品目を合わせて400万本に迫る勢いだという。

■「第2の激落ちくん」生み出せるか
激落ちくんシリーズは好調な売れ行きだ。今後もシリーズの新企画を打ち出すこと、メインの激落ちくんを売り続けることを目標として継続していく。加えて、「激落ちくん」を超える新キャラクターを生み出すことも目指すと、竹下さんは話す。
市場に新しい日用品を出し続けるという同社の方針から、1日平均3品目の新商品が企画され、取扱品目は約1000種に上るが、激落ちくんに匹敵する個性の強い新キャラクターは今のところ誕生していない。
「『激落ちくん』の上を行く新キャラクターの開発に注力しているのですが、残念ながら定着に至っていません。大変難しい挑戦になりますが、それでも新しい商品企画を出し続けて、『第2の激落ちくん』を生み出したいと思います」
※「激落ちくん」はレックライセンス(株)の登録商標であり、本記事はその許諾を受けて使用しています。
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中沢 弘子(なかざわ・ひろこ)
ライター
ボストン大学大学院国際関係卒コミュニケーション専門。出版社にて編集者として勤務後、フリーライターとして独立。大手出版社の女性誌やビジネス誌にて人物取材多数。Forbes Japanなどでも記事を執筆中。社会課題の解決に取り組む経営者や起業家を取材。また、NHKドキュメンタリー番組の字幕翻訳や国際ニュース執筆、海外国別分析調査レポート執筆にも従事。最近は、日本の食文化を紹介する英文記事も執筆中。
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(ライター 中沢 弘子)
