疲労回復効果のある食べ物は何か。大東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身さんは「うなぎや焼肉といった従来のスタミナ食で疲労回復効果が認められているものは、ほぼない。16億円の国家プロジェクトで最も疲労回復効果があると実証された、加熱しても、煮ても、どんな調理をしても失われない食品成分がある」という――。

※本稿は、梶本修身『「疲れないからだ」になれる本』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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■昔ながらの「スタミナ食」で疲れはとれない

疲れを食事で回復させようと思ったら、まず頭に浮かぶのが「スタミナ食」。焼肉やうなぎなどの食べ物は、昔から「精がつく」とされ、とくにうなぎは、夏の疲れをとってくれる食材として親しまれていますね。

しかし、うなぎをはじめ、これまで「スタミナ食」といわれてきたもので、残念ながら現代においても疲労回復効果が認められているものは、ほぼありません。

戦後のように食糧が不足していた時代には、体のエネルギー不足による疲れが深刻な問題でした。そのため、脂質が多く含まれる高エネルギーなスタミナ食が、疲労回復につながった面もあったのでしょう。

しかし、食に困らない現代では、このようなタイプの疲れ自体がまず起こりません。脂質の多いスタミナ食をまとめて摂ってしまうと、むしろ胃に負担がかかり、逆に疲れてしまうこともあります。

ちなみに、うなぎにはビタミンAやB1が豊富に含まれています。昔はこれらのビタミンが不足しがちで、それが脚気などの病気を引き起こしていました。うなぎを食べればその予防になり、精がつくとされるようになったのかもしれません。

しかし、現代社会においては、ビタミンAもB1も国民の摂取充足率は100%を超えています。あえて摂取しても疲労を回復させる効果は期待できないのが現状です。

疲労回復のために、本当に効果のある食べ物は何なのか。

私はこの問いを科学的に明らかにすべく、長年、実験と研究を重ねてきました。

多くの食品・成分の検証を行ない、最も疲労回復に効果があると認められた成分が明らかになりました。

それが、鶏のむね肉に含まれる「イミダペプチド」です。

■最も疲労回復効果のある食品成分

2003年に、産官学共同で16億円の予算を使って行なった「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」で、私は統括責任者をさせていただきました。

このプロジェクトの目的は、疲労を「見える化」すること、そして本当に疲労回復効果のある食品成分を見つけるということでした。

大塚製薬、大正製薬、コカ・コ―ラ、伊藤園、明治乳業といった、日本を代表する製薬会社・食品会社18社の協力を得て、各社の商品で使われている成分を、ひとつずつ挙げていただき、実際に抗疲労効果があるかどうかを検証したものです。

最終的に23種類の「抗疲労成分候補」が挙がり、それぞれにプラセボ(偽薬)対照二重盲検試験(被験者も実施にあたる医師も、薬の中身が試験薬か偽薬か知らない状態で厳正に行なう臨床試験)を行ないました。

その結果、23種類もの候補のうちの19種類は、「疲労」をとることも「疲労感」をとることもなく、まったく何ひとつ効果は検出できませんでした。

また、1種類は、「疲労」は一時的にとっても「疲労感」をとる効果はないものでした。そして、「疲労」および「疲労感」両方に抗疲労効果があると認められたのが「イミダペプチド」「クエン酸」「コエンザイムQ10」のわずか3つの成分でした。

そのなかでも、最も効果があるとわかったのが、タンパク質の一種である「イミダペプチド」だったのです。

■渡り鳥の「驚異の持久力」の秘密

突然ですが、渡り鳥がなぜ、北はアラスカから南のニュージーランドまで、1万1000キロもの距離を休みなく飛び続けることができるのかご存じでしょうか。

渡り鳥は体重もあり、風に乗るといいながらも、実際は逆風も吹くなか、長距離を休みなく飛び続けます。これは、そう簡単なことではありません。羽も大きいですからかなりのパワーが必要です。

写真=iStock.com/mbolina
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そこで、なぜ渡り鳥にはこんなことができるのかという研究がなされた結果、渡り鳥の羽の付け根にあたるむね肉に、イミダペプチドが豊富に含まれていることが判明しました。

イミダペプチドの合成酵素DNAの鎖を修復する物質)は、鳥の場合は羽の付け根のむね肉、魚の場合は尾びれに近い赤みのところに豊富にあり、その動物にとって最も消耗の激しい部位に豊富に存在することがわかっています。

豚であれば、体重を支える部分、ちょうどもも肉やロース肉にあたる部分に、合成酵素が多くあります。

いい換えれば、各動物は進化の過程で、それぞれの動物にとって“最も消耗の激しい部位”にイミダペプチドの合成酵素を増やしてきたともいえます。

つまり、それらの各動物の「最も疲れやすいところ」の部位で、イミダペプチドをつねにつくり続け、そして、つくっては抗酸化力を発揮し、つくっては抗酸化力を発揮しということを、繰り返しているのです。

このように極めて効率的なしくみを、生物が生まれながらにして備えていることは、非常に神秘的で、驚嘆させられますね。

これが、ほかの抗酸化物質が数時間のうちに作用を終えてしまうのとは対照的に、イミダペプチドは1回の摂取で長時間、活性酸素による錆びを防いでくれる理由であり、抗疲労効果が高いゆえんと考えられています。

それでは人間の場合には、イミダペプチドの合成酵素はどこに多いと思いますか? そう、答えは「脳」です。

私たち人間の脳の自律神経の中枢、まさに疲労の中枢の箇所に、イミダペプチド合成酵素が豊富にあるのです。

■揚げる、煮る、焼いても大丈夫なスーパー食材

そして、このイミダペプチドには、疲労を回復させる「抗酸化作用」があるのです。

これは疲労の原因となる「活性酸素」の働きを抑制してくれる作用です。活性酸素が細胞を錆びつかせるのを抑えることによって、疲労の蓄積を抑えてくれるのです。

数々の検証の結果、「人間において抗疲労効果を発揮し続けるには、1日当たり200mgのイミダペプチドを、2週間ほど摂り続けるといい」ということがわかりました。

イミダペプチド200mgというのは、鶏のむね肉にするとだいたい50g相当です。

消化吸収を鑑みると、1日100gの鶏むね肉を摂取するといいでしょう。この量を摂取すると、疲労感と疲労に十分に効果があるということが、臨床試験で報告されています。

鶏のむね肉100gというのは、毎日摂れない量ではありません。

調理方法としては、焼いても、揚げても、蒸しても、煮ても、大丈夫です。

鶏のむね肉自体はタンパク質なので、加熱すれば変性することがあります。

しかし、少し難しくなりますが、「β‐アラニン」と「ヒスチジン」というアミノ酸だけが残っていて摂取できれば、体内でイミダペプチドを再合成できるので構いません。

タンパク質は、さまざまなアミノ酸が結合してできていますが、その一つひとつのアミノ酸は安定しています。加熱しても壊れるということはありません。

■コンビニで買える最も簡単なパワーランチ

ただし、イミダペプチドは水溶性なので、煮るとスープに溶け出しますから、そのスープも一緒に飲んだほうがいいでしょう。

簡単な例でいえば、かつおぶしで出汁をとると、あの出汁のなかにもイミダペプチドは溶け出します。

かつて、味の素とも共同で実験をしたことがあるのですが、かつおぶしの出汁にも抗疲労効果があります。これもイミダペプチドの働きなのです。水溶性なので、出汁に溶け出しているわけです。もちろん、出汁だけではなかなか1日のイミダペプチドの必要量は摂れませんが、少しでも抗疲労効果は期待できます。

鶏むね肉を、最も簡単に食べられるのは、コンビニやスーパーで売っている「サラダチキン」です。

一般的なコンビニエンスストアで購入したサラダチキンの写真(画像=Meguromaguro/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

あれは、やわらかく蒸した状態の鶏むね肉が、100gほどで個包装になっているものです。低カロリーなので、最近は「ダイエット食」としても人気ですね。

最近はどこのコンビニでも売っていますし、さまざまな味付けをされたものが出ています。昼食にひとつ食べれば、最高のパワーランチになります。

■効果の実感には最低1週間程度、毎日摂取

イミダペプチドは、仕事などの負荷で派生する活性酸素を叩いて、疲労を起こしにくくする働きをするものなので、疲れを起こす前に摂取しておくとより効果的です。

梶本修身『「疲れないからだ」になれる本』(三笠書房)

ですから、イミダペプチドは朝、できれば昼までに摂取することをおすすめしています。

ただ、朝昼に摂れない場合は、夜でも構いません。体内に合成酵素があるので、夜に摂取してもほぼ1日はイミダペプチドを合成し続け、抗酸化力を発揮してくれるはずです。

疲労を軽減させる効果を実感するには、最低でも1週間程度、毎日摂取すること。レシピを変えたり、鶏のむね肉からカツオやマグロ、豚ロース肉に変えたりと、工夫してみてください。

イミダペプチド200mgは、カツオであれば150g相当。

豚ロース肉であれば130g相当です。

イミダペプチドを摂取する実験では、2週間で約75%の人に抗疲労効果を実感してもらうことができました。

また、2週間の摂取で、プラセボ(偽薬)と比し、有意に「疲労」と「疲労感」の両方を抑えてくれることが客観的に示されています。

つまり、イミダペプチドを摂取することで疲労の蓄積を抑えるだけではなく、パフォーマンスの低下も抑えられることが明らかになりました。

客観的・科学的な視点からそのようなデータが実証されたのは、今でも世界にこれだけしかなく、非常に画期的な研究結果だといわれています。

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梶本 修身(かじもと・おさみ)
東京疲労・睡眠クリニック院長
医師・医学博士。大阪大学大学院医学研究科修了。2003年より産官学連携「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」研究統括責任者。自らプログラム作成したニンテンドーDS『アタマスキャン』は30万枚を超えるベストセラーとなり、脳年齢ブームを起こす。著書に『すべての疲労は脳が原因1・2・3』(集英社)、『寝ても寝ても疲れがとれない人のための スッキリした朝に変わる睡眠の本』(PHP研究所)などがある。「ホンマでっか⁉TV」ほか、「ためしてガッテン」、「世界一受けたい授業」、「林修の今でしょ!講座」など、TVやラジオにも多数出演。
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(東京疲労・睡眠クリニック院長 梶本 修身)