100億年前のクエーサーで急な減光 超大質量ブラックホールがわずか数年で“燃料切れ”に?
宇宙における変化は、私たち人間の感覚からすれば想像を絶するほど長い時間をかけて進行するイメージがあります。しかし今回、宇宙のスケールではまさに「一瞬」とも言える極めて短いタイムスパンで、劇的な変化を見せた天体の発見が報告されました。
クエーサーの明るさが約20年で20分の1に急減
私たちの住む天の川銀河を含め、多くの銀河の中心には太陽の数十万倍から数十億倍もの質量を持つ「超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)」が存在すると考えられています。
ブラックホールそのものは光を発しませんが、強大な重力で周囲のガスを引き寄せて飲み込む際に、渦巻く「降着円盤」を形成します。この円盤内でガスが激しく摩擦し合って加熱されることで、ブラックホールの周囲から強力な電磁波が放射されるようになります。銀河中心におけるこうした領域は「活動銀河核(AGN)」と呼ばれており、その中でも特に明るく輝くものは「クエーサー」と呼ばれます。
千葉工業大学天文学研究センターの諸隈智貴主席研究員が率いる国際研究チームは、この活動銀河核が長い時間をかけてどのように変化していくのかを探ろうと試みました。そこで彼らが着目したのが、広い空の領域を捉えた「過去と現在のデータ」の比較です。
具体的には、2000年代初頭に行われた大規模観測「スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)」の画像と、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」に搭載された「超広視野主焦点カメラ(HSC)」が近年撮影した広域探査画像を照らし合わせました。
膨大な数の天体データを比較・解析していく中で、ある事実が浮かび上がりました。約100億年前(赤方偏移z=1.767)のクエーサー「SDSS J021801.90-003657.7(略称:J0218-0036)」の明るさが、約20年間で20分の1まで急激に暗くなっていたのです。
研究チームによると、これほど短期間で劇的な減光を示すクエーサーは、これまで観測された例が非常に少ないといいます。

ブラックホールの“燃料切れ”が起きた?
この劇的な減光は何によって引き起こされたのでしょうか。研究チームはすばる望遠鏡と同じマウナケア山頂にあるケック天文台の「ケック望遠鏡」などで追観測を実施するとともに、X線から赤外線に至る過去のアーカイブデータや、約70年前の写真乾板データなども用いて詳細な解析を行いました。
多波長データと理論モデルを比較した結果、ブラックホールへ物質を供給する降着円盤そのものの物理状態が急激に変化し、ガスの流入(質量降着率)が急減した可能性が高いことが示されました。いわばブラックホールの「燃料切れ」です。銀河本体の光と活動銀河核の光を精密に分離した結果、活動銀河核(クエーサー)単体では明るさが約50分の1にまで低下していたことも判明しています。
研究チームによると、光が弱まった原因には地球から見てブラックホールの手前側にある塵の雲が光を遮ったという可能性も考えられるものの、可視光線から赤外線にわたる幅広い波長での変化は、塵による遮蔽という仮説では説明ができなかったといいます。

宇宙規模では一瞬の変化 今後は同様の天体発見に期待
今回の成果において最も特筆すべきは、変化が進行したスピードです。
これまで、活動銀河核におけるブラックホールへのガス流入量の変化は、数万年以上という非常に長い時間をかけてゆっくりと進むと考えられてきました。ところが、このクエーサーが存在する遠方銀河における時間の流れ(静止系)に換算すると、「燃料切れ」のプロセスは約7年という極めて短い期間で起きた出来事になります。これは人間の寿命の中でも十分に観測可能な時間スケールであり、従来のブラックホール成長モデルの常識を覆すものだといいます。
今後、すばる望遠鏡などを用いた広視野サーベイ観測によって、同様に活動が休止状態に入りつつある天体が多数発見されれば、超大質量ブラックホールの活動が停止・再開する仕組みや、銀河との共進化に関する理解がさらに深まると期待されています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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