『日本書紀』にも登場した日本でもっともメジャーな妖怪?さまざまな山の怪異を引き起こすとされた一方、<人々を救う神>としての信仰も…
妖怪にまつわる伝承は全国に数多く存在しますが、妖怪愛好家のライター・宮本幸枝さんは、「いつでも私たち人間の隣にいた『妖怪』を探ることは、過去から現代まで地続きになっている人々の営みを振り返ることでもある」と話します。今回は、そんな宮本さんの著書『ムー特別編集 図説 日本の妖怪百科』より、「天狗」をご紹介します。
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神の力を宿す山の怪 天狗
河童と並び、日本のもっともメジャーな妖怪として一般に認知されているのが「天狗」である。
“山の神”のイメージも強く、山で起こるさまざまな怪異の多くは、天狗の仕業であると考えられた。
たとえば「天狗倒し」。これは、山中で木の倒れる音が聞こえ、様子を見にいってみると、何ごともないというものだ。
ほかには、だれもいないところで急に小石や砂が降ってくるという「天狗つぶて」や、子どもが山中で行方不明になり、戻ってくると天狗に会った話をするという「天狗隠し」などがある。
伝承の中での天狗
天狗に関する最古の文献は、『日本書紀』の中で、舒明天皇9年(637年)に大流星が流れ、それを「天狗(アマツキツネ)」と記したものとされている。
平安時代末期には、天狗は仏法を邪魔する魔物と考えられ、さらに時代が下ると、慢心した僧が死して変化するものであるといわれるようになった。
やがて民間伝承の中での天狗は、目に見えない山中の“何かあやしい現象”を起こすものとして扱われるようになる。
遭遇話の多い河童と違い、天狗と実際に出会って何かがあったという話は多くはないが、天狗を退治した際に置いていったといわれる「天狗の詫び証文」などの遺物が残されている。
神通力で人々を救う神
また一方で、天狗は山岳信仰と強く結びついている。全国各地の山々で、天狗は妖怪というよりは、その強力な神通力で人々を救う神として信仰されてきた。
現在、天狗といわれてすぐに思い浮かぶ、赤い顔に長い鼻を持ち山伏装束に身を包んだ姿は、江戸時代以降に広まったもので、中世まではくちばしや翼を持った烏天狗の姿のほうが一般的であったようだ。

(写真提供:Photo AC)
特に神通力に優れた天狗は「大天狗」と呼ばれ、主要な山に棲む代表的な大天狗たちを総称して「八天狗」と呼ぶことがある。愛宕山太郎坊、鞍馬山僧正坊、比良山次郎坊、飯綱三郎、大山伯耆坊、英彦山豊前坊、大峰山前鬼坊、白峰相模坊である。中でも、鞍馬山僧正坊は少年期の源義経――牛若丸に剣術の稽古をつけたという伝説でもよく知られている。
さらに、修験道の秘経とされる「天狗経」には前述の八天狗を含めて四十八天狗の名前が書かれている。いうなればTNG48である。実際に自分の住んでいる地域にはどんなTNG48のメンバーがいるか、調べてみてはいかがだろうか。
※本稿は、『ムー特別編集 図説 日本の妖怪百科』(ワン・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
