政府「増税は富裕層限定です」の罠…日本の中流層に忍び寄る〈増税〉のカウントダウン【税理士が「金融所得課税」の注意点を解説】
「金融所得課税」とは、株などへの投資で得た利益に課される税金であり、国は超富裕層を対象に本課税の強化に動いています。ただ、ここで「自分は富裕層・超富裕層ではないから関係ない」と考えるのは危険です。その理由と「金融所得課税」の注意点、対策についてみていきましょう。税理士・公認会計士で税理士法人グランサーズ共同代表の黒瀧泰介氏が解説します。
2026年の税制改正で大きく変わる金融所得課税
「金融所得課税」という言葉をご存じですか? これは、株などで得た利益に対して税負担を強化し、より多くの税金を取ろうというものです。
資産運用への関心が高まるなか、この改正はすでに始まっており、超富裕層を対象とした制度が導入されています。
ただ、「自分は超富裕層ではないから」と安心してはいけません。2026年の税制改正大綱では内容がさらに厳しくなり、より身近な存在になることが示されています。将来的には、一般の個人投資家にも影響がおよぶ可能性が出てきているのです。
「金融所得課税」と「1億円の壁」とは
日本の税制では、給与所得や事業所得は稼げば稼ぐほど税率が高くなる累進課税です。
一方、株の売却益や配当金などの金融所得は、いくら高額でも税率が一律約20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)の申告分離課税となっています。
たとえ1億円儲かっても10億円儲かっても税率は変わらないため、超高額所得者にとっては有利な仕組みといえるでしょう。
しかし、政府はこの構造にメスを入れようとしているようです。実は岸田元首相の時代から金融所得課税の強化が議論され、改正が徐々に進んでいます。
では、なぜ今、政府が金融所得課税を強化するのでしょうか。改正の背景には、次の2つの理由があると考えられます。
1.社会保障費の増加を補う財源確保
金融所得課税を強化する1つ目の理由は、財源確保です。
日本は少子高齢化により社会保障費が増大していることから、金融所得課税の引き上げで財政の健全化を図る狙いがあります。
2.累進課税の抜け道?「1億円の壁」
そして2つ目は「1億円の壁」問題です。これは、年間所得が1億円を超えると実効税負担率が逆に低下する現象を指します。
給与所得や事業所得は総合課税で最高税率55%(所得税45%+住民税10%)になりますが、金融所得は一律約20%のため、収入の多くを株の譲渡益や配当で得る超高所得者は税負担が軽減される構造です。
財務省のデータでも、所得1億円までは負担率が上昇しますが、1億円を超えると低下傾向が見られます。この「不公平の是正」が、改正の大きな動機となっているようです。
不公平の是正の具体策「ミニマムタックス」とは
「1億円の壁」を是正する具体策が「ミニマムタックス」(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)です。2025年分の所得税から導入されており、2026年の確定申告から実質的な影響が出始めています。
ミニマムタックスは簡単に言うと「お金持ちは最低限これぐらい税金を払ってください」というルールです。
具体的には、その年の基準所得金額から3億3,000万円の特別控除額を差し引いた金額に対して22.5%の税率を適用し、通常の所得税額を超える場合は差額を追加納税します。
対象は主に合計所得30億円規模、金融所得だけで10億円規模の人です。
ミニマムタックスの対象者拡大…課税強化の“最低ライン”が引き下げられる
ところが、2026年の税制改正大綱でこのミニマムタックスがさらに厳しくなります。
その年の基準所得金額から差し引かれる特別控除額が、これまでの3億3,000万円から「1億6,500万円」に半減したのです。加えて、税率も22.5%から30%に引き上げられます。
これにより、金融所得が4億円程度の人まで対象になる可能性が出てきました。
4億円となると、富裕層投資家だけでなく、たとえばM&Aで会社の株式を売却して数億円の利益が出た経営者も、特定の年にこの制度の対象となるリスクがあるでしょう。
税制の歴史を見ると、新しい税は、最初は超富裕層限定で始まるものの、徐々に対象を広げていくパターンが一般的でした。
消費税も、当初3%だったものが現在10%となっているように、この傾向は無視できません。
NISA勢も要注意?中流層を待ち受ける「増税シナリオ」
現在は「金融所得4億円規模」が対象です。
しかし、将来的に1億円、5,000万円、さらには1,000万円まで引き下げられた場合、退職金でまとまった資金を得たサラリーマンや老後のために投資している人まで影響を受ける可能性があります。
政府が「増税対象は富裕層限定ですから」と、不公平是正の名目で導入した制度が、いつの間にか中流層への増税装置に変わるリスクは否定できません。
中流層を待ち受ける「最悪のシナリオ」
将来的に起こり得る「最悪のシナリオ」は、金融所得の総合課税化です。
給与などと合算して、最高55%の税率がかかるようになるかもしれません。こうなっては、国民の投資意欲は削がれてしまいます。そして、それが国内企業の株価の伸び鈍化、ひいては景気後退リスクにつながる可能性もあるでしょう。
「最悪のシナリオ」に備える防衛策
では、具体的にどう対策すればよいでしょうか。特におすすめなのが「NISA枠のフル活用」です。
つみたてNISA投資枠・成長投資枠合わせて生涯1,800万円の非課税枠があります。この枠内の利益は将来税率が上がっても非課税のままです。課税口座の株を売却してでも優先的に埋めるべきでしょう。
こうした対策によって、将来的に中流層への増税措置が実施された際、資産を守れる可能性が高まります。最悪のシナリオを想定し、今から準備を進めることが重要です。
黒瀧泰介
税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士
