実はコロナ禍でデジタル化が進んで以降、先進国の多くの国で「デジタルストレス」が急増しました。特に真面目な方ほど、スマホに相談ごとの連絡が入ってくると「即レスしなければ」などと振り回され、ストレスが溜まりやすくなる、という研究結果もあるんです。ですから、ほんのわずかな時間であっても好きな曲を聴いたり、好きなお店で1杯だけコーヒーを飲むといった時間が、より重要になっています。

◆周りへの「感謝」を記録するのも大切

――牛窪さんにとって、自分の幸福度を高めてくれる日常的なルーティンもあるんでしょうか?

牛窪 はい、大きくは2つです。1つは言うまでもなく、阪神タイガース。実は私、以前は寝つきが悪かったんですが、寝る前に1985年の阪神日本一の試合(“バース・掛布・岡田”を擁した、対西武戦)の音声を聴きながらベッドに入るようにしたところ、嘘のようにぐっすり眠れるようになりました(笑)。まさに、幸福感に満たされて眠りに就く感覚です。

もう1つは、ホテルです。幼少期、父が在京テレビ局勤務だったので忙しく、限られた休みで都内のホテルで何泊かするのが家族旅行の定番だったんですが、当時のなごりで、ストレスが溜まったときはホテルに行くんです。泊まるほどの時間がないときは、30分でも1時間でもいいので、ホテルにあるカフェでお茶を飲む。ロビーに入るだけでも、幸福感を実感できます。

――牛窪さんの周囲で一目置く「自分なりの幸せ」を見つけている方もいるんでしょうか?

牛窪 過去に取材した中では、葉巻が趣味の男性がいらっしゃいました。その方がお好きな葉巻は、1本を吸い終わるまで4時間かかるらしくて。でも彼は、どれほど忙しくても1週間に1回は葉巻を吸いながら好きな音楽を聴く、そのとき「将来はどうしようか」と自分の人生だけに思いを巡らせる時間こそが最高の贅沢だとおっしゃっていました。

また、印象的だったのはアロマやハーブティーについての知識を学んで、生活に取り入れていた女性ですね。気分によって「今日は集中したいから、グレープフルーツの香りに」や「今日はイライラしているので、リラックス効果が望めるカモミールティーに」と使い分けるうえ、自分にとって心地良いお香やアロマを、オリジナルで調合されていました。調合することで、自分のそのときの気分や内面を発見できるそうです。

――子育てに忙しい読者の方々も多いのですが、時間が限られる中で幸せを見つけるための秘けつも教えてほしいです。

牛窪 新著にも書いたんですが、日常的に「感謝」を示すことがとても重要で、実は感謝は「されたほう」より「したほう」が、幸福実感が強いとの研究結果もあります(情動伝染効果)。その対象は、人でなくてもいいんです。

例えば、阪神ファンとしては、チームの本拠地である甲子園(阪神甲子園球場)を整備してくれる「阪神園芸さん」にも日々感謝しているんですが、自分をわずかでも支えてくれるものへの感謝の気持ちをメモ帳やスマホに記録して、1日の終わりに振り返るのも有効だとされています。そのことによって、「今日はこんないいことがあった」「あの人がこんなことをしてくれた」などとポジティブな記憶が定着するとともに、小さな幸せにも気づきやすくなります。

◆年収が上がりすぎると人は幸せになれない?

――昨今の情勢を考えると収入に不安をおぼえ、幸せを感じられない読者もいると思います。ただ、新著では、アメリカの研究「イースタリン・パラドックス」にある「所得が増えても、幸福度が上昇するとは限らない」という結果も紹介していました。

牛窪 はい、1970年代の研究ですね。その後、いくらまでの年収が「幸福感」を実感しやすいのかを調べた研究も複数あります。最も有名なのは、「年収約800万円」が「幸せの損益分岐点」であるという、プリンストン大学の研究結果でしょう。つまり、年収が800万円を超えてもなお、「もっと多くを手にしたい」と仕事に注力する人は、その分、自分の時間や健康、大切な仲間を失うなどし、結果的に幸福感を実感しにくくなる可能性が高まる、といった内容です。