(※画像はイメージです/PIXTA)

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生涯独身を貫いた66歳の弟が孤独死……。遺品のなかから2,000万円もの預金通帳を発見した兄のアキラさん(仮名・69歳)は、唯一の身内として相続手続きに向かいました。しかし、そこで予想を完全に裏切る〈まさかの相続人〉の存在が明らかになりました。複雑な相続関係を抱えた「おひとり様」が生前対策を怠ると、残された親族はどれほどの苦労を強いられるのでしょうか。司法書士の新井健二氏が実際の事例をもとに解説します。

弟の孤独死…遺品整理で見つかった「2,000万円」の預金通帳

「弟の部屋で倒れているのを見つけました。すぐに警察を呼びましたが、手遅れでした」

さいたま市にお住まいのアキラさん(仮名・69歳)の元に、警察から一本の電話が入ったのは一昨年のことでした。

東京のアパートで一人暮らしをしていた弟のツトムさん(仮名・66歳)が、孤独死を遂げたのです。幸いにも死後2日という早さで発見されたため、アキラさんは速やかに弟の葬儀と納骨を済ませることができました。

悲しみが癒えないなか、アキラさんはツトムさんのアパートに出向き、遺品整理を始めました。すると、部屋の奥からいくつかの銀行の通帳が見つかりました。

ツトムさんは生涯独身を貫き、子どももいません。すでに父親は他界しており、残高を確認すると約2,000万円もの預貯金があることがわかりました。

「身内は私しかいないから、私がこのまま相続の手続きをすればいいのだろう」

ツトムさんは遺言書を残していなかったため、アキラさんは預金の解約手続きを進めるべく、司法書士事務所へ相談に訪れました。

しかし、そこで告げられたのは、アキラさんの予想を完全に裏切る事実でした。

弟の相続人が赤の他人…69歳兄が絶句したワケ

ツトムさんの法定相続人を調査したところ、アキラさん兄弟が幼いころに父親と離婚し、家を出て行ったきり約60年間も音信不通となっていた母親の存在が浮上したのです。

「お母様は、ツトムさんがお亡くなりになった時点ではご存命でした。法律上、配偶者や子のいないツトムさんの第一の相続人は、親であるお母様になります」

さらに調査を進めると、事態はより複雑な様相を呈してきました。その母親は、ツトムさんが亡くなったあとの昨年に新潟市で息を引き取っていたことが判明したのです。

しかも、母親は離婚後に別の男性と再婚しており、その再婚相手の連れ子であるリョウさんとケンさんの2人と養子縁組をしていました。

つまり、ツトムさんの遺産の相続権は一度母親に移り、母親の死亡によって、その権利はアキラさんと「見知らぬ養子2人」に引き継がれてしまったのです。

養子2人と会うために新潟市へ…「遺産分割協議」の行方

「まさか、顔も名前も知らない人たちと、弟の遺産について話し合わなければならないなんて……」

アキラさんは思わず頭を抱えました。預金を解約して相続するためには、新潟市に住む彼らと遺産分割協議を行い、実印と印鑑証明書をもらって合意を成立させなければならないといいます。

アキラさんは意を決して、新潟市に住むリョウさん・ケンさんの元を数回にわたって訪ねました。

「突然のことで驚かれたかと思います。実は弟が亡くなりまして、預金を相続するためにどうかご協力いただけないでしょうか」

アキラさんは、弟の生前の様子や、今回このような複雑な手続きが必要になってしまった事情を丁寧に説明し、頭を下げました。幸いなことに、相手方はアキラさんの切実な心情を理解してくれました。

「そういうご事情でしたら、私たちに異存はありません」

話し合いの末、ツトムさんの預貯金はすべてアキラさんが相続するという形で合意が成立し、無事にすべての手続きを終えることができました。

もし彼らが合意を拒んでいれば、アキラさんは家庭裁判所に調停を申し立て、何度も新潟まで足を運ぶという多大な負担を強いられていたことでしょう。

おひとり様こそ「遺言書」を…親族の“悲鳴”を防ぐ生前の相続対策

今回の事例のように、とりわけ複雑な相続関係にある場合は、万が一自分が死亡した際のリスクを事前に考えておく必要があります。

自分の相続人は誰になるのか、その相続間で遺産分割協議は問題なくできるのかという点をあらかじめイメージし、問題が生じると予測できる場合には「遺言書」を作成するべきでしょう。

しかし、日々の業務を通じて見えてくるのは、配偶者やお子様のいない「おひとり様」ほど、自身の死後に生じる残された相続人の苦労をなかなか想像できない傾向にあるということです。人間、自分の身にいつ何が起きるのかは誰にもわかりません。

だからこそ、ご自身がお元気なうちにエンディングノートを作成したり、専門家に相談して遺言を作成したりしておくなど、終活に取り組んでいただきたいのです。

たった一通の遺言書を作成しておくことが、自分が亡きあとに整理をしてくれる身近な親族の負担を著しく軽くすることにつながります。

新井 健二

新井司法書士事務所

司法書士/ファイナンシャル・プランナー(CFP®)