竹内涼真&町田啓太主演が話題の『10DANCE』、原作者が登場。「男性が現実すぎてNG」と言われたほどリアルな描写の秘密

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俳優・竹内涼真さんと町田啓太さんがW主演のNetflix映画『10DANCE(テンダンス)』が大ヒット中です。ダンスに人生をかける男たちの情熱、嫉妬、闘志、苦悩、そして愛を描いたこの作品は、漫画家・井上佐藤さんの同名作品が原作。壮麗なダンスの世界を舞台に、ひたすら魂を磨きダンスに打ち込む登場人物たち……読む人の心を掴んで離さない物語はどのように生まれたのでしょうか。井上佐藤さんに伺いました。

「『FRaU』を読んでいたからインタビューを受けました」

漫画『10DANCE(テンダンス)』の作者・井上佐藤さんがメディアに登場するのは、これが初めてです。なぜ、『FRaU Web』のインタビューを受けてくださったのでしょうか。

「私が社会に出た20代前半、当時、読んでいた雑誌が『FRaU』だったからです。当時の女性誌にしては珍しく、キャリアや生き方などの特集を組んでおり、読んでいたのです。それに、大人として必要な冠婚葬祭やマナーほか、勉強になるページが多く、とてもお世話になったこともあります」(井上佐藤さん、以下同)

男子寮で育った幼少期

『10DANCE』は鈴木信也と杉木信也が、ダンスを極めつつ、やがて惹かれ合います。圧倒的な才能があり、一つのことに人生を捧げる同志であり、ライバルであり恋人という関係は、まさに理想の関係。どちらかが女性化する多くのBL作品と異なり、「男のまま」恋をする。甘さもないからリアルというか……。

「そうですね。これは、私が男性の中で育ったことが影響しているかもしれません。私は3歳くらいまで父と13歳年上の兄に育てられました。4歳からは母と一緒でした。母が住み込みで働いていた、ある企業の男子寮で育ったのです。

その寮には40人以上、10代から40代くらいまでの男性がいて、共同生活をしていました。寮は家のようなものなので、みなさん素の状態です。そういう時の男性のノリ、間合い、空気を感じながら、18歳まで生活していたので、作品にもその「生(なま)」の部分が表れているのかもしれません。

それに、漫画家以外で一番長く働いたのは、テレビCM等特殊美術造形の仕事でした。女性は衣装を製作する部署に配属されるのですが、私はミシンができなかったため、他の造形物やギミック専門へ。身なりもひどく女性離れしていて、子役はくわえたばこの私を見て『お兄ちゃん』と呼んでいました。

親族も男性が多く、激しい男尊女卑の家系でした。あまりに酷い全女性への侮辱発言から、親族の言う女性とは、自分の知る女性とは違う別の“何か”なのだと思いましたし、自分は女性ではないのだなと思うようになりました。男性の多い環境で過ごしていたので、男性側の心情もわかりますが、かといって自分は男性というわけでもない。それが発端となり、自分は男性でも女性でもないのと同時に、男性にも女性にもなれる、フラットな目線で見ているのだと思っています。

男性のキャラに対し、自分的なかわいらしさやキュン処を加えることはあっても、恋をした男性が女性化するということは、現実的に考えられませんでした」

『10DANCE(テンダンス)』のひとコマに、ダンサーの体の中に刻まれているリズムが、才能として結実するという描写があります。作中に“(鈴木信也の体には)個人の持つ身体の中の原始的な、記録的なリズム(が流れている)”とあるように、井上さんの中にも、男性の自然なコミュニケーションのテンポが流れている。

「そうかもしれません。ですからデビューしたBL雑誌では編集部から『男を現実的に描かないでください』と嵐のような修正が来ました。編集部が求めていたのは、相手の愛をほしがったり、相手に尽くしたりする男性キャラクターだったのでしょう。でも私はそれがわからない。

それでも雑誌が発売されると、読者さんから『男同士が恋をしたら、実際こうなると思います』『自然に物語に入り込めました』など肯定的な感想をいただきました。

また、デビュー当初の2003年から『10DANCE』のネームを提出していたのですが、『描かせてやる』と言ったのに次は『描かせるわけない、笑える』と言ったり。かと思うと『描くのを楽しみにしている』と、二転三転する当時の担当編集者からの言葉に、心身ともに疲弊していきました。堪えきれなくなり、『10DANCE』を描かせてくれなければ、BL漫画家を辞める、と言ったことでようやく『10DANCE』の連載がスタートする運びとなりました。ただ、当時連載していた雑誌の編集部から『恋愛を中心にして、ダンスのシーンは描かないように』と言われていました」

ダンスへの“恨み”が作品の出発点

『10DANCE』は大人の男たちの愛の物語でありながら、社交ダンスで世界トップを目指す熾烈な戦いの物語でもあります。チャラ男の天才的ラテンダンサー・鈴木信也、スタンダードダンスの帝王・杉木信也の人物や描写、ペアのアキや房子のほか周辺の人物などかなりリアルです。まるでこの世界のどこかに、彼らが生きているような気がします。

「ダンス界独特の雰囲気がわかるのは、母が社交ダンスを習っていたからです。小学校高学年のころから、母に同行しパーティや発表会に行き、雰囲気をよく知っていました。ダンスは大きくラテンとスタンダードに分かれており、ラテンのダンサーはキャッキャと笑いながら、身振り手振りも大きく話している。一方、スタンダードは、毅然としており紳士然とした振る舞いをしており、その対比をいつも興味深く見ていました。

母はその後、ダンスにのめり込み、かなりのお金をダンスに使い、複雑な人間関係に精神がすり減っていきました。私にもその余波が来ることもあり、いつの頃からかダンスという存在そのものを恨むように。

しかし恨みからは何も生まれず、ダンスに触れたことによる感覚や知識を財産とすることで、作品世界を創り出せる力がつきました。連載を開始した2011年当初は資料が乏しく、専門誌を見てもさっぱり意味のわからない記事ばかりで。高額なDVDを購入し、それを何度も見ることが唯一の勉強法でした。

そのうちYouTubeにも動画が上がってきましたが、大変画質が悪いため、身体の大きな動きや足先・肘の角度から(それすら黒い服が多いためよく見えないのですが)想像でダンスのポーズを考えるしかありませんでした。今は監修の先生に見ていただいていますが、連載当初は母に漫画を見せて、体の線や動きにおかしいところがないか見てもらっていたのです。やった人でないとわからない、かなり厳しいダメ出しが出続け、私の知る人体の動きとの違いに驚くばかり。そしていまだにダンスの先生方のおっしゃることは驚きに満ちています」

『10DANCE』が誕生した背景に、ダンスへの恨みがあったとは……。

「今はもうありませんよ(笑)。ダンス監修の先生方や他のダンサーさん、ダンスに携わる人々の愛と熱に心が動いていき、ダンサーは愛して止まない存在となりました。『幸せな時も辛い時も人生にはダンスがある』という感覚が私の中に育っています」

男子寮で育った井上佐藤さん。就職した先も男性ばかりというこれまでの環境があったからこそ、描くことのできる男性のリアリティ。しかし、編集担当者からは「ダンスシーンを描きすぎるな」「男性を現実的に描かないように」「恋愛がメインで」と、ダメ出しの連続だったと言います。

「かなりの熱量で描いていたのですが、長い間、編集部から否定され続け、3巻が出る前にPTSDに陥り、漫画が描けなくなってしまって…。ですが、『ヤングマガジン』にご縁をいただいて、BL誌だと同じことの繰り返しかもしれないけれど、一般誌では違うかもしれないという思いから、連載を再開することができました。その作品がNetflix映画となり、全世界に配信されているのは心底感無量です」

◇後編「竹内涼真&町田啓太主演で話題の映画『10DANCE』はなぜあんなにも官能的なのか。「迷ったら、どちらがエロいかで決めます」」では、Netflixで映画化を許可した際、監督に提示した3つの条件や、制作秘話を伺っています。

「「コイツが嫌い」最悪な状況から始まる男性の激しい愛。ダンスを通し、才能と肉体がぶつかり求めあう「10DANCE」の魅力」では1話の無料試し読みも実施しています。

撮影/安田美優(講談社写真部) 構成/笹本絵里(FRaUweb)

【インタビュー2回】竹内涼真&町田啓太主演で話題の映画『10DANCE』はなぜあんなにも官能的なのか。「迷ったら、どちらがエロいかで決めます」