腸が悪いと歯も治らない? 東北大がつながりを解明
歯の治療がなかなか終わらない…、その原因が「腸」かもしれない。そんな驚くべきつながりを、東北大学の研究がまた一つ紐解きました。
むし歯を放置していると、細菌が歯の根っこの奥まで侵入して、顎の骨まで溶かしてしまう「根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)」という病気になることがあります。
歯根の先端が炎症を起こし、骨まで破壊されていく、と聞くだけで痛そうなこの病気、実は「腸の調子」と深く関わっていることがマウス実験で判明したそう。
東北大学大学院歯学研究科の中野将人助教らの研究グループは、腸炎を持つマウスにおいて根尖性歯周炎による顎骨破壊が著しく悪化することを実証。成果は2026年2月24日、歯学分野の学術誌『Journal of Dental Research』に掲載されています。
腸は「全身の免疫司令塔」
腸は、食べたものを消化するだけの臓器ではありません。実は人体最大の免疫組織でもあって、全身の免疫バランスを調整する「司令塔」のような役割を持っていることがわかってきました。
この腸の免疫が壊れてしまう「炎症性腸疾患(IBD)」では、腸炎の発症だけでなく、全身の免疫機能も低下することが知られていました。
歯科医院などで「体調が悪いと歯の病気も治りにくい」と説明されることがあるのですが、その仕組みは未知の部分が多く、様々な研究が行なわれています。
今回の「IBD患者は根尖性歯周炎が重症化しやすい」というのもそのひとつ。「なぜ、そうなるのか?」というメカニズムが謎のままだったんです。
骨の破壊が「3倍」に膨らんだ
研究グループは、腸炎だけのマウス、根尖性歯周炎だけのマウス、そして両方を同時に発症させたマウスの3グループを比較。
根尖性歯周炎だけのグループでは、顎骨破壊の体積が平均0.2m㎥ほどだったのに対し、腸炎を伴うグループでは平均0.6m㎥ほどに増加。数字で見ると約3倍悪くなっていたのです。
なぜそんなことが起きるのか。鍵を握るのが「好中球(こうちゅうきゅう、Neutrophil)」という免疫細胞です。白血球の一つで、好中球は本来、体内に入り込んだ細菌や異物を退治する「消防士」のような細胞です。
ところが腸炎によって全身の免疫バランスが崩れると、この消防士が顎骨の中で暴走。腸炎発症下では好中球が過剰に活性化し、顎骨破壊が増強されることが確認されました。
火を消しにきたはずの消防士が、誤って建物ごと壊してしまうイメージです。彼も頑張ってくれてはいるはずなんですけどね。
「気泡の衝撃波」で薬を骨の奥へ直接届ける
仕組みを解明しただけでなく、研究グループは治療法の開発にも踏み込んでいます。
注目したのは「キャビテーション」という物理現象。液体の中で急激に圧力が変わると、小さな気泡が発生してすぐに崩壊します。この気泡が崩壊する瞬間、猛烈な衝撃波と熱が発生します。
研究グループはこのキャビテーション現象をレーザーで誘発する技術を開発し、好中球の活動を抑える抗炎症薬「タクロリムス」を、歯の根の中(根管)から顎骨へ直接送り届けることに成功しました。
そしてこの治療法によって、腸炎を伴う根尖性歯周炎モデルでの顎骨破壊を抑制できることを示したのです。
この技術なら、歯の根の中から直接、顎の骨まで薬を「ぶち込む」ことができる。炎症が起きている場所に狙い撃ちできる、まったく新しいアプローチです。
体は全部つながっている
炎症性腸疾患は、日本国内でも患者数が年々増加していて、皮膚や関節、目など「腸以外の場所」にも症状が現れることが以前から知られていました。
今回の研究は、そのリストに「歯と顎骨」が加わったことを意味します。
腸の具合が悪い人は、歯科治療の経過が悪くなりやすいかもしれない。逆を言えば、なかなか治らない歯の治療の背景に、腸の病気が潜んでいる可能性もある。
どこかで体はつながっている。そういう視点を、私たちは常に持っておく必要がありそうです。
Source: 大学ジャーナルオンライン、Journal of Dental Research、東北大学プレスリリース

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