記事のポイント
米国、イスラエルのイラン攻撃により中東全域で戦争が拡大、ラグジュアリー市場に影響が出ている。
ケリングやシャルーブ・グループなど大手企業が中東各国で店舗やオフィスの閉鎖を決定した。
ホルムズ海峡の封鎖で原油価格が15%上昇、物流コスト増がファッション業界に波及する恐れがある。


2月28日、米国とイスラエルがイランに対して共同で軍事攻撃を開始し、イランの最高指導者アヤトラ・アリ・ホメイニを含む政府上層部の多くが殺害された。以降、中東全域で事態は急速にエスカレートしている。

米国はイランの艦艇を撃沈して数百人が死亡。イランはアラブ首長国連邦(以下、UAE)やカタールなど周辺の複数の国にミサイル攻撃で応戦し、イスラエルはレバノンに軍を展開した。

トランプ大統領と米国の指導部は、戦争の目的や動機、見通しについて矛盾する発言を繰り返している。

直近では、トランプ大統領は戦争が「4〜5週間」で終わる可能性があるとしつつも、「もっと長引くこともありうる」と述べた。

かつてジョージ・W・ブッシュ大統領が2003年のイラク戦争開始から数カ月で「任務完了」を宣言したものの、紛争は8年も続いたことは広く知られている。

急成長するラグジュアリー市場への直撃



中東での大規模な戦争がもたらす政治的、人道的な影響がいまだ進行中であるなか、同地域で急成長を遂げてきたファッション・ラグジュアリー市場にはすでに影響が出ている。

ここ数年、カタールやUAEは自らを華やかなラグジュアリーの目的地として打ち出し、ヨーロッパの老舗ブランドや世界中の富裕層を誘致してきた。

しかし、いまでは多くのブランドが店舗を閉鎖し、従業員を危険地帯から退避させている。

中東全域で数千便ものフライトがキャンセルされるなか、同地域の高級ショッピング施設への客足は急落する見通しだ。

サプライチェーンの専門家で、SNSで45万人のフォロワーを持ち「ザ・ソーシング・ガイ」の名で知られるアイザック・ヘツロニ氏はこう語る。

「ラグジュアリーブランドは、イメージと安定に対してきわめて敏感だ」とヘツロニ氏。

「世界市場が不安定になると、富裕層は時計やジュエリー、ハンドバッグのような高額な嗜好品の購入を先送りにすることが多い。たとえサプライチェーンが安定していても、オーディエンスが慎重になるだけで需要は弱まりうる。ブランドは通常、需要の変動に応じて地域あいだでインベントリー(在庫)を再配分する。ある市場で観光が落ち込めば、在庫はヨーロッパや米国、アジアの一部などほかの好調な市場に振り向けられることが多い」。

店舗閉鎖と株価下落の連鎖



3月4日午後の時点で、ヴェルサーチェ(Versace)やセフォラ(Sephora)を運営するラグジュアリーブランド運営企業のシャルーブ・グループ(Chalhoub Group)、ケリング(Kering)をはじめとするグローバルなラグジュアリー・ファッション企業が、UAE、バーレーン、クウェート、カタール全域で店舗やオフィスを閉鎖した。

AppleやAmazonもまた同様の措置をとっている。3月3日には、イスラエルにあるアディダス(Adidas)の店舗が爆撃を受けたと報じられた。

ラグジュアリー大手の株価にもすでに目に見える影響が出ている。リシュモン(Richemont)はスイス証券取引所で6%の下落を記録し、LVMHとケリングもいずれも開戦以降約4%下落した。

ドバイの現場から。高級ブティックオーナーが語る変化



ドバイの高級毛皮ブティック、カシアーニ(Casiani)のオーナーであるアレックス・マンツィアリス氏はGlossyの取材に対し、まだ店舗は閉鎖していないものの、紛争の影響はすでに明らかだと語った。

「空域の閉鎖やフライトの混乱が起きると、街なかの人の動きが変わる」とマンツィアリス氏は述べる。

「気まぐれに買い物をしなくなるのだ。売上は落ちている。ふらりと立ち寄る客も、数週間前ほど安定していない。それでも来店する客は、以前なら聞かなかったようなことをこの時期から尋ねてくる。『いつ届くのか?』『出荷が止まったらどうなるのか?』『納期を保証できるのか?』などの質問だ。会話の変化が、人々の心理状態を如実に物語っている」。

原油価格上昇がファッション業界のコストを押し上げる



顧客と従業員の安全が最大の差し迫った問題であるとはいえ、もうひとつの長期的な懸念は原油価格である。イランは歴史的に、世界の石油の4分の1が通過する水路であるホルムズ海峡を厳重に管理してきた。

トランプ政権は米海軍がホルムズ海峡を通る石油タンカーを護衛すると公約しているが、3月4日午後の時点で海峡は実質的に閉鎖されたままだ。

イランは海峡の支配権を維持していると主張しており、専門家はイランのドローンが今後数カ月にわたって商業船舶の航行を妨害しうると指摘している。

在庫管理プラットフォームを手がけるソティラ(Sotira)の共同創業者でCEOのアムリタ・バシン氏は次のように述べる。

「たとえ紛争が短期間で終わり、近いうちに和平合意が成立したとしても、消費者は価格上昇を目にすることになるだろう。リスクや供給不足の可能性だけで、運賃は上昇しうる。いかなる不安定さや地政学的紛争の可能性も、燃料や石油、ガス価格を押し上げる。これが運賃に影響し、価格上昇は最終的に消費者に転嫁される」。

原油価格は2月28日の開戦以降、すでに15%上昇している。

2025年の米国、イスラエルとイランの紛争後には、紛争終結から数日で原油価格は下落に転じた。だが今回の紛争はより大規模で、すぐに終結する見通しも薄いため、価格はさらに上昇し続ける可能性がある。

「緊張状態が石油供給や主要な輸送ルートを混乱させれば、小売業界全体で輸送コストが上昇しうる。原油価格はコンテナ輸送から航空貨物、国内トラック輸送まで、あらゆるものに影響を及ぼす。原油価格が緩やかに上昇しただけでも、世界で販売されるほぼすべてのプロダクトの価格に輸送コストが組み込まれているため、サプライチェーン全体に波及しうる」と、ヘツロニ氏は分析する。

「国際的に製造を行うブランドにとっては、運賃や物流コストの上昇がマージンを圧迫し、価格の微調整を迫られる可能性がある」。

マンツィアリス氏は、現時点ではすべてが紛争の期間にかかっていると述べる。

「シンプルな話だ。燃料が上がれば、運賃が上がる」と同氏。

「リスクが続けば、保険料やセキュリティコストが上がる。輸送時間の予測も難しくなる。価格は変動し、誰かが価格を調整せざるをえなくなるまでマージンは削られる。これが短期で終われば、ほとんどのブランドは圧力を吸収して事業を立て直せるだろう。だが長引けば、ブランドはあらゆる業務において、より摩擦の多い環境を前提にした計画を立てる必要がある。コレクションの発売、配送の遅延、セキュリティ、これらすべてが、国際的に自信を持って販売できるかどうかに影響する」。

[原文:Fashion Briefing: As war engulfs the Middle East, fashion brands are already feeling impacts on stores and foot traffic]

Danny Parisi(翻訳、編集:藏西隆介)