「早く働け!」閉ざされたドアに向かって叫ぶ61歳父。老後資金1,500万円「平穏な老後」が夢と散る…原因は「国立大卒・自慢の息子」の帰還
奨学金を借りることは、今や珍しいことではありません。日本学生支援機構(JASSO)の調査によれば、昼間部の大学生の約55%が奨学金を利用。実に2人に1人という高い割合です。奨学金を返済するのは、多くの場合、学生本人。就職すると返済が始まります。しかし、何らかの理由で返済できなくなり、その影響が親の老後にまで及ぶケースも……。事例とともに見ていきましょう。
優秀な息子、奨学金を借りて進学・就職も「まさかの事態」
「贅沢は望まない。ただ、穏やかに暮らせれば」
そう思っていたという佐々木義和さん(仮名・61歳)。継続雇用で働き、年収は320万円ほど。住宅ローンは68歳で完済予定、年金見込額は夫婦で月23万円。老後用の資産は1,500万円ほどあり、年金受給までにさらに貯金を数百万円積み上げ、質素に暮らせばなんとかなる――そう考えていました。
誤算は、ひとり息子の「まさかの事態」でした。息子は県外の国立大学へ進学。学力は高く、自慢の息子だったといいます。自宅からは通えないため、下宿生活を選択。家賃や生活費として仕送りは月7万円。私立ほどではないものの、授業料の負担もあります。家計を考えれば、これが限界でした。
不足分として利用したのが奨学金です。月8万円、4年間で約380万円。息子には「もし余ったら貯金しておくこと」「卒業したら自分で返すこと」――そう伝えていました。
息子は無事に就職が決まり、卒業。ところが社会に出ると歯車が狂い始めます。仕事のポイントがつかめず、ミスを繰り返す。上司との関係もうまくいかない。学生時代「勉強ができれば評価される」という世界ではうまくいっていたものが、社会に出た途端に通用しなくなったのです。
結局1年もたたずに転職。しかし状況は変わらず、またも退職。とうとう息子は実家に戻ってきました。大学を卒業してわずか1年半後のことでした。
佐々木さんは当然、地元で就職先を探すのだと思いました。しかし、息子はそのまま引きこもるようになったのです。
「痛恨の判断ミス」――佐々木さんの後悔
「息子が2社目を辞めたと聞いて、一度帰ってきたらどうかと言ったのが大きな間違いでした。家にいれば家賃も食費もかからない。その甘えが引きこもりにさせてしまったのかもしれません」
そう後悔を滲ませる佐々木さん。すでに働かなくなって1年超。働かない息子が奨学金を返せるはずがありません。老後は病気や家の修繕に備え、貯蓄を守りながら暮らすつもりでした。しかし、300万円を超える奨学金の残債を肩代わりすれば、その計画は崩れます。
「当面、私が立て替えています。これからも長引けば支払いの猶予や減額の申込みをさせたいと思います。この状況が、早く終わればいいのですが……。息子に早く働けと言っていますが、動く様子はありません」
佐々木さんが抱えたのは、奨学金の返済だけではありません。息子1人増えた分の食費、日用品費、医療費なども上乗せに。慎ましくも穏やかな老後が、静かに遠ざかっていこうとしています。
奨学金返済の重さ、先々への影響を理解して借りること
大学生が利用する代表的な奨学金が、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金。「令和4年学生生活調査」によると、昼間部の大学生の約55%が奨学金を利用しており、2人に1人が借りている計算になります。
JASSOの奨学金には返済不要の「給付型」と、返済が必要な「貸与型」があり、貸与型は無利子の第一種と、有利子の第二種に分かれています。
第二種で月10万円を4年間借りた場合、借入総額は480万円。年利1%で月約2万2,000円、2%なら約2万4,500円の返済となり、返済期間は20年に及びます。収入が少ない人にとって負担は軽くなく、長期間にわたって続く点に注意が必要です。
特に貸与型の利用は一般的になっていますが、返済に苦労する人は少なくありません。実際、JASSOの調査では、奨学金を返済できない人は約3.6%。また別の調査では、返済について「苦しい」と感じている人が4割を超え、「かなり苦しい」と答えた人も2割に上っています。
返済が難しい場合、返還期限猶予や減額返還といった制度もありますが、その分、完済は先延ばしになります。本人が40代・50代になっても奨学金の返済を続けるケースも少なくありません。
また、親が「子どもが返すから」と考えていても、佐々木さんのように自分に降りかかってくることも。奨学金は本人の老後や家族のライフイベントにまで影響する可能性がある「借金」である――借りる際には、そのことを忘れずに親子で話し合う必要があります。
