動画配信サービス「DOWNTOWN+(ダウンタウンプラス)」の加入者が50万人を突破し、話題を集めている。元関西テレビ社員で、神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「出演者も内容も『クリーン』で、松本人志氏の出演だけが最大にして唯一の『攻めた』部分だった」という――。
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日本テレビ「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!大晦日スペシャル!!」の制作発表に登場したダウンタウン(=2014年12月3日、東京都千代田区) - 写真=時事通信フォト

■「ダウンタウンプラス」加入者50万人超の衝撃

有料動画配信サービス「ダウンタウンプラス」の加入者数が50万人を突破したという。11月13日付の「スポーツ報知」が報じたもので、10月24日の申し込み開始以来20日での数字は、成功と言えるだろう。

ただ、「ダウンタウンプラス」には、賛否両論が渦巻いている。それは、お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志氏の「復帰」舞台だからであり、その姿勢によるのではないか。

意見の割れ方を見る前に、この配信が始まるまでの経過を見よう。

発端は、2023年末だった。「週刊文春」で、松本氏が複数の女性に対する性行為を強要したとの疑惑が報じられた。その後、松本氏は自身のSNSに「事実無根なので闘いまーす。それも含めてワイドナショー出まーす。」と投稿したものの、2024年1月8日に吉本興業から、「松本人志の今後の活動に関するお知らせ」と題して、「裁判に注力したい」との申し入れにより「当面の間活動を休止したい旨の強い意志が示された」とするリリースが出される。

■活動「再開」については公式発表せず

その「裁判」についても、また、松本氏の「活動を休止」した後についても、吉本興業は、正式な発表をしていない。「裁判」については、松本氏個人の事情であり、会社として関与していない、という姿勢なのだろう。松本氏みずから訴えを取り下げた点についても触れられていない。ただ、朝日新聞が松本氏の活動再開について尋ねた質問状に対しては、「裁判の終結など様々な事情を総合的に考慮・検討」したと答えている(〈松本人志さん、芸能活動を再会 吉本「裁判の終結など総合的に検討」〉朝日新聞、2025年11月1日23時10分配信)。

「休止」の際には、オフィシャルに発表したのに、再開については発表せず、「新配信サービス『DOWNTOWN+』開始のお知らせ」と題した10月2日付のリリースを出す。このリリースでは説明されていないものの、松本氏が戻ってくる場であるのは明白だった。

コラムニストの藤井セイラ氏がプレジデントオンラインに書いているように、「ファンの中には『あの疑惑』について彼の口から説明が聞けるのではないか、そうすれば松ちゃんをふたたび応援できるかもしれない、そんな期待を抱いて1100円を払い、動画配信を見た人もいた」(〈松本人志復帰も反省ゼロ、「干された」で笑いを取る残念感…動画配信は「不祥事芸能人再生工場」でいいのか〉プレジデントオンライン、2025年11月7日18時配信)のかもしれない。

こうした吉本興業や松本人志氏の姿勢が、さまざまな意見を呼んだのは間違いない。

■ネット配信だから「攻めて」いるのか

藤井氏が書いている「1100円」とは、月額料金を指している。「ダウンタウンプラス」は、吉本興業が運営している。ライブ配信や過去作品など全てのコンテンツを見ようとすれば、同社のサイト「FANY」に会員登録した上で、月額1100円、もしくは年間契約11000円(いずれも税込)を支払わなければならない。

画像=プレスリリースより

U-NEXTやAmazonプライムビデオ、ABEMAといったプラットフォーム経由では、月額770円で、オリジナルコンテンツのみを視聴できる。「スポーツ報知」の記事では、吉本興業の担当者が「契約者数については回答を差し控えます」とコメントしているため、「50万人」とされる加入者の内訳はわからない。とはいえ、かなりの数の人が加入しているとみられる。

実際、私も「FANY」経由で課金している。10歳の娘からせがまれたから、というのは言い訳で、どんな内容になるのか、配信前からとても楽しみにしていた。ダウンタウンの松本人志氏が、どんなかたちで、どのようなことばと芸で、「復帰」するのか、ずっと気になっていたのである。

何より、松本氏が「ダウンタウンプラス」の生配信(「LIVE+」)で「地上波病」と名付けた、コンプライアンスを重視するテレビの傾向に対して、どこまで「攻めて」いるのか。期待と不安と半々で見ていた。果たして、どうだったのか。

■これが松ちゃんの現在地?

社会学者の太田省一氏は、「時にモラルや社会常識から逸脱しても、笑いは何にも勝るという松本の信念はいまも揺らいでいない」とプレジデントオンラインで指摘している(〈松本人志の本音が漏れていた…後輩芸人から神と崇められる男が「ダウンタウンプラス」で放った“まさかの言葉”〉プレジデントオンライン、2025年11月4日16時配信)。長く松本氏を見続けてきた太田氏ならではの卓見である。

他方で、コラムニストの能町みね子氏は「月額1100円でおおむね吉本芸人で固めてスタジオで大喜利やトークって……ちっちゃすぎないか。それでも多数の信者が課金してくれるからいいのか」と疑問を呈している(「プライベートな問題がまだ解けてないので」「言葉尻とらえ隊665」『週刊文春』2025年11月13日号)。

私にとっては、期待外れ、でもなければ、期待通り、でもない。なんとも中途半端というか、いかにも「いまを象徴している」と見えた。有料配信だからといって「攻めて」いるわけでもない。「ダウンタウンプラス」は、その意味で、すなわち、いまの、令和の時代におけるコンテンツとしては「正解」に違いない。

■「文春のこと以外は答える」

たとえば、「ダウンタウンプラス」のオリジナルコンテンツ「芯食ったら負け!実のない話トーナメント」を取り上げよう。「全く面白くない会話をし続けた者が優勝となる新たな話芸の祭典」とあるように、「すべらない話」の逆をコンセプトにしている。

「すべらない話」は、おもしろい話をするはずの芸人たちが、そのなかでも選りすぐりの話題を持ち寄り、その「すべらなさ」を競う。松本人志氏は司会でありながら、自身もプレイヤーとして、サイコロの目に従って披露する。「すべってはいけない」緊張感と、「すべらない」安心感がないまぜになり、長く続く人気コンテンツの地位を固めた。

対する「実のない話」は、5分の制限時間を設けて、対戦形式で進む。「おもしろくない話をしてほしい」というのが、松本氏の要望であり、彼だけの判定で勝敗を決める。

「すべらない話」と「実のない話」のどちらが、「すべらない」のか、あるいは「実のない」のか、そこは、人それぞれの好みに左右されるだろう。それより着目すべきは「実のない話」の冒頭である。松本氏が「何でも質問してくれたら、文春のこと以外は答える」と述べたところに、彼の現在地があるのではないか。

■「地上波病」とは何か

もし、本当に「ダウンタウンプラス」が「攻めて」いるなら、「文春」関連をこそ答えたのではないか。もちろん、訴えを取り下げた以上、「何でも」答えるわけにはいかない。それでも、「地上波病」と松本氏が揶揄した、テレビではできないやりとりをこそ、私をはじめとする「多数の信者」は期待していた。

しかし、ここがまさに松本氏の現在地であり、令和のコンテンツの「正解」にほかならない。その理由は、まずもって「地上波病」とされたテレビの側にある。

写真=iStock.com/ozanuysal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ozanuysal

今期(2025年10月放送開始)のドラマでは、TBS「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(火曜22時)が話題になっている。個人的に妻に向かって言いたいセリフなのは置くとして、亭主関白を疑わなかった男性と、その家父長制的な態度に嫌気が差した女性、そのスレ違いや、歩み寄りを描く秀逸な作品である。

■「令和のヒットコンテンツ」の共通点

マンガ原作のドラマ、それも、男女の価値観のアップデートを主題にしている。この点で、2016年放送の「逃げるは恥だが役にたつ」と、同じ放送枠(火曜22時)なのは、示唆に富む。この枠では、「胸キュン」ドラマを多く扱うなかで、「逃げ恥」や、今回のように、ジェンダーギャップやコンプライアンスに配慮しつつ、それ自体をネタにする、高度な作品が多い。

この高度さは、放送枠は異なるものの、昨年の新語・流行語大賞「ふてほど」を生み出した「不適切にもほどがある!」(金曜22時)にも通じる。「昭和」と「令和」の価値観を比べた上で、前者をくさしつつも、かといって、後者だけを礼賛するわけでもない。両者のバランスを見つけようと、もがく私たちの似姿が、ドラマの素材になっている。

こうした傾向を「地上波病」と呼ぶのなら、テレビに限られないのではないか。たとえば、11月19日にABEMAで配信が始まったドラマ「スキャンダルイブ」も、流れに棹差(さおさ)しているからである。

写真=iStock.com/Yuzuru Gima
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■配信ドラマだからこその「配慮」

「スキャンダルイブ」は、タイトルの通り、俳優のスキャンダルが週刊誌で報じられる前の夜を舞台にしている。時代設定は「令和」であり、そこには、たとえ週刊誌といえども、いや、いまの週刊誌だからこそ、コンプライアンスや人権への配慮が叫ばれる。

まだ1話を配信したばかりなので、今後の展開は読めないとはいえ、それでも、「昭和」のように、たとえば、女性の裸がたくさん出てくるわけでも、あるいは、怒声や罵声で覆い尽くされるわけでもない。

配信ドラマは、往々にして日本国外でも広く見られるし、また、視聴年齢も制限できるとはいえ、未成年も見る機会が多い。私の娘(10歳)も、地上波テレビよりも配信コンテンツに接する時間のほうが、圧倒的に多い。

だからこそ配慮しなければならない。その配慮の結果こそ、「ダウンタウンプラス」の中途半端さにほかならない。「何でも質問してくれたら、文春の事以外は答える」と言わざるを得ないのではないか。

■松本人志の出演(だけ)が唯一の「攻め」

裏を返せば、「ダウンタウンプラス」のコンテンツは、この松本氏のことばを含めて、「地上波病」に罹っているテレビで流しても差し支えない(ように見えた)。たとえば、東京都渋谷区幡ヶ谷を松本氏が歩く「ノスタル10分」は、NHKの「ブラタモリ」やテレビ朝日「じゅん散歩」といった、街ブラ番組そのものではないか。

もちろん、だから「ダウンタウンプラス」は、つまらない、と言いたいわけでは、全くない。「信者」としては、松本氏が戻ってきてくれて安堵しているのも確かであり、おもしろいと思っているから課金を続けるつもりである。

けれども、それゆえに、せめて彼自身のことばで「文春のこと」を説明してほしかったとも思いながら、それは果たせないだろうと、妙に納得もしている。

出演者も内容も、「地上波病」に対応できそうなくらいクリーンであるとすれば、松本人志氏の出演(だけ)が最大にして唯一の「攻めた」部分なのではないか。

だからといって、松本氏をくさそうとも、あるいは、地上波を庇おうとも思えない。私たちが求めた社会のありかたが、「ダウンタウンプラス」をめぐる私たちの空気にあらわれている。そうとらえるほかないからである。

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鈴木 洋仁(すずき・ひろひと)
神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)