記事のポイント

コーチはWNBA(全米女子プロバスケットボール)と複数年提携し、TV広告や選手との連携を強化。

若手選手のリアルな姿を描く映像でZ世代に共感を訴求している。

多様性を重視し、価値主導の姿勢でブランドの信頼構築を目指している。


コーチ(Coach)がWNBA(全米女子プロバスケットボール)とのパートナーシップを強化している。6月、全国放送のリニアTVで放映される試合で広告を実施するほか、WNBAのオールスターゲームが実施される7月の週末に合わせた一大マーケティングを計画している。

コーチは4月14日、高級ブランドでは初めてWNBAとリーグレベルのパートナーシップを結び、WNBAのカルチャー面での影響力の高まりに合わせた複数年にわたるコラボレーションを発表した。この発表はWNBAのドラフト会議を目前に控えたタイミングで、コーチが衣装を提供した5人のアスリートが「オレンジカーペット」に登場した。

これはすぐに結果につながった。データ分析プラットフォームのローンチメトリックス(Launchmetrics)によると、コーチはこのイベントのメディア露出で160万ドル(約2億3160万円)相当のメディアインパクトバリュー(MIV:メディア露出などを測定し、マーケティング価値に換算したもの)を得たという。

多様なプラットフォームにストーリーテリングを展開



このパートナーシップはコーチの2025年ブランド戦略の一環だ。ドラフトやプライド月間のような文化的な出来事を活用し、テレビやソーシャルメディア、ライブイベントを通じて新たなオーディエンスにリーチすることをコーチは目指している。WNBAの試合は2024年、平均視聴者が119万人と、2023年から170%増加している。コーチが北米でリーグ全体とのこれほど大規模なパートナーシップを結ぶのは、このWNBAのキャンペーンが初となる。

「ストーリーテリングの新たな手段が得られる」と、コーチの北米マーケティング担当バイスプレジデントであるキンバリー・ランドリー・ワレングレン氏は言う。「たとえば、(WNBAの)ペイジ・ベッカーズ選手やキキ・ライス選手のような人たちが、(個人のスタイルや支持の表明を通じて)コートの内外で勇気ある自己表現を見せてくれている」と、ロンドンで開催されたSXSWで語った。

このキャンペーンでは、ペイジ・ベッカーズ選手(インスタグラムフォロワー100万人)やキキ・ライス選手(同フォロワー19万人)など、ルーキー5選手の短尺コンテンツが作られた。描かれているのは、5人がプロとして挑む最初のシーズンの、トンネルウォークからコートでの活躍までの軌跡だ。コーチの掲げる「Courage to Be Real(リアルに生きる勇気)」というメッセージともつながっているこの動画は、リニアTV、ソーシャルメディア、対面イベントなどで公開されている。

「リニアTVでは実施したことがあるが、久しぶりだ」とワレングレン氏は話す。「今回の狙いは、意味のある目的主導のコンテンツでWNBAの視聴者層にリーチすることだ」。また、コーチは「さまざまなプラットフォームにストーリーテリングを展開していく」と同氏は語る。キャンペーンはまず映像作品としてテレビで始まり、それから、ソーシャルメディアで選手主導のストーリーが展開される。その後、イベントや試合会場での実体験が続く。

台本のないリアルなコンテンツ



コーチのWNBAとのパートナーシップは、2025年シーズンを通じて実施されることになっており、限定商品の発売、現地イベント、7月のオールスターの週末に合わせたコミュニティー主導のイベントなどが予定されている。パフォーマンス指標の初期値は好調だ。ワレングレン氏によると、提携の発表後、コーチのWNBA特設ページにはオーガニックに2万人以上が訪問して、25%以上が詳細を知るために登録したという。

このパートナーシップは、ブランドとの関係において表現、価値、誠実さを重視するZ世代と若いミレニアル世代が主なターゲットだ。「この世代のオーディエンスは本当に賢い。ブランドがブームに乗ってきただけなのか、それともしっかり取り組んでいるのか、ちゃんと見抜いている」とワレングレン氏は語る。「今回、楽しみなのはバスケットボールにとどまるものではないところだ。目に見えるかたちで持続的にコミュニティーに寄り添っていく」。

ブランドが「寄り添う」という考え方は、コーチがベッカーズ選手をはじめとするアスリート本人の語り口でコンテンツを制作している点に表れている。ブランドのガイドラインはあるが、台本はない。「(ブランド側で)台本は用意していない。リアルな姿を求めた」とワレングレン氏は言う。「選手たちがプロとして挑む最初のシーズンなのだ。最初のトンネルウォーク、最初のトリプルダブル、最初のスリーポイントシュートの喜びを表現する選手たちをサポートしたい」。

コーチが考えるファッションの未来



コーチの親会社タペストリー(Tapestry)は5月、2025年度第3四半期の売上高が15億8000万ドル(約2290億円)だったと報告した。そのうちコーチの売上高は13億ドル(約1880億円)で、これは前年同期比で15%増加している。

コーチは広範な戦略において、さまざまなプラットフォームを通じてコミュニティーとつながってきた。これまでにロブロックス(Roblox)で実施したアクティベーションで生み出されたエンゲージメントは、SNSの100倍、コネクテッドTVの35倍だ。また、カントリーミュージックの祭典「ステージコーチ」やファンションの祭典「メットガラ」など、大きなイベントでも存在感を構築しており、インフルエンサーによるコンテンツや舞台裏の映像を活用してリーチを拡大している。

価値主導のマーケティングにも力を入れている。コーチは6月、WNBA Prideの主要スポンサーになり、インクルージョン(包摂)の取り組みの一環として、WNBAのLGBTQ+のファンやアスリートを支援した。そしてこれは、政治的圧力によって多くの米国ブランドがインクルージョンやDEIの施策を縮小するなかでのことだ。「我々の揺るがない目標は、もっとも真摯で、インクルーシブなファッションブランドであることだ」とワレングレン氏は語る。「この取り組みは、我々がこのコミュニティーにどう寄り添うべきか、改めて考える素晴らしい機会になった」。

ワレングレン氏はさらにこう続けた。「(我々の戦略は)以前は、あらゆるところに出ていくというものだった。今は、意図があることを大切にしている。きらびやかで新しいものにNoと言い、消費者にとって本当に大切なことに深く取り組まなければならない時がある。我々の場合、ファッションの未来はそこにあると考え、我々を体現するパートナーシップに投資することが、そうした取り組みなのだ」。

[原文:Luxury Briefing: Coach bets on WNBA and TV to reach the next luxury consumer

Zofia Zwieglinska(翻訳:緒方 亮/ガリレオ、編集:島田涼平)