だから大谷翔平の二刀流は実現できた…超一流の人物を育成する上司に共通の「7文字の格言」
※本稿は、鈴木邦成『はかどる技術』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

■優等生が好きな上司と劣等生が好きな上司
上司にとって「理想の部下」とはどんな部下なのでしょうか。
理想かどうかということではありませんが、「どのような部下を好むか」は2種類に分けられます。
それは「優秀な部下が好きな上司」と「できない部下が好きな上司」です。
優秀な部下が好きな上司というのは至極当たり前でしょう。誰でもしっかり仕事をこなしてくれる部下がいれば「鬼に金棒」と考えることになるのですから。
しかし、ある意味、不思議に思えますが「できない部下を好む上司」というのが一定数いることも否定できません。
プロ野球の名監督として知られた野村克也は「再生工場」の異名を持つほど、ダメになった選手を立ち直らせたことで知られています。
またダメになった選手だけでなく、くすぶっていた選手、才能を十分に発揮できていなかった選手を一流に育て上げるのを得意としていました。
「それなら最初から優秀な選手をそのまま育てればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、そうではなくて「できない選手を覚醒させる」というところに才能があったようなのです。
■伸び悩む部下の滞りを解消できる上司
江戸時代中期の米沢藩の大名で名君といわれた上杉鷹山(うえすぎようざん)も不遇な人物を重用し、改革を断行したことで知られています。
優等生というのは、何事もそつなくできたり、意識も高かったりすることから、上司が何もしなくてもタスクをうまくこなしてしまいます。そのため「部下の手柄は自分の手柄」のように感じることがうれしい上司ならば、できる部下は大歓迎といったところでしょう。
ほんの少しだけヒントをいえば、何もかもわかってくれることもあります。難易度の高いプロジェクトや最高峰を目指す際には不可欠な存在ともいえるでしょう。

その代わり、少しでもよい条件の職場があったり、やりがいの感じられるポジションが与えられたりしようものなら、取り込み中のタスクを放棄してもそちらに移ってしまうということもあります。
「現在の仕事は面白いと思いますが、よりやりがいがあって、条件もよい仕事が見つかりました」といわれて、去っていくことも十分、考えられるのです。
もっといえば、そもそもそれだけの人材はなかなか集められないかもしれません。
「優秀な部下がいればなんとかなるのに」と思っても、それこそ現実離れした希望かもしれないのです。
けれども、優等生ではない人材の場合、むしろ「その場に居場所を見つけないといけない」と考え、必死になることも少なくありません。そこに効果的なアドバイスやサポートが加われば、大化けする可能性も出てくるのです。
先に述べた野村克也や上杉鷹山といった優秀な上司はそうした「才能ある劣等生」を見逃したりはしませんでした。彼らが大化けすれば、生来の優等生以上の大戦力となることを知っていたのでしょう。
劣等生の滞りをいかに解消するか――これも上司の大切な役割といっていいと思うのです。
■完璧な上司から完璧な部下は生まれない
できない部下でも生まれ変わることができます。では、上司はどうなのでしょうか。
こちらも同じことがいえます。できる上司、完璧な上司というのは、実は部下としては少々やりにくいところがあるのです。
もちろん、優秀な部下には優秀な上司が必要という面もあります。しかし、優秀な上司に求められる条件というのは、意外なことに「その人が優秀である」ということとはちょっと違うのです。
メジャーリーガーとして不世出の大選手となった大谷翔平選手の最初の上司であった栗山英樹氏は監督としては名監督でしょう。
でも、選手としての成績は失礼ながら「大谷選手に匹敵するほど秀でていた」とは言い難いと思います。
将棋界に革命を起こした藤井聡太八冠の師匠である杉本昌隆八段もタイトル戦の挑戦などの棋歴はありません。「トンビが鷹(たか)を生む」といっていいかどうかわかりませんが、上司と部下との関係としてとらえると大きなギャップがあります。
しかし、2人とも、上司、あるいは指導者としては共通点があります。それはともに2人の天才に「自由にやらせた」ということです。
栗山氏は大谷選手の二刀流をあっさり認めました。栗山氏以上に実績のある多くの球界OBが否定的で、おそらく栗山氏でなければ誰も認めなかったでしょう。
杉本八段の場合、将棋は「振り飛車」を得意としています。関連の専門書も著しています。しかし、藤井八冠の得意戦法といえば「角換わり腰掛け銀」です。師匠とは棋風もまったく違うのです。
■干渉はせず、成果を上げたときには認め、ともに喜ぶ
英国に「偉大なる無関心」という言葉があります。「世界中から英国を訪れる多くの外国人がロンドンなどにいると居心地がよく感じられるのは、イギリス人が外国人に対して無関心であるから」というロジックです。
あれこれ干渉されないからこそ、外国人も英国から自由な空気や発想を得ることができるというのです。そしてそれが英国への愛着や自分の向上にもつながっていくという考え方です。
「ノーサービス・イズ・グッドサービス」(サービスしないことが最善のサービス)という考え方がベースです。
「上司からは何の指示もない」「自由にやれといわれているけど、とくに指導はない」ということが、結果として滞りの発生を防いでいるのです。
しかし、こういうと「何もしないならば上司なんかいらないじゃないか」と反論する人もいるかもしれません。

ところが、人間とは不思議なもので、「何もしなくても任され、期待され、注目されている」という雰囲気が肌で感じとれると、モチベーションが大きく上がり、滞りも解消するのです。
逆に「部下には手取り足取り教えなければならない」「逐一、報告してもらわないと次の指示が出せない」などと考えることが大きな滞りを生むのです。
したがって、干渉はしませんが、部下が大きな成果を上げたときにはそれを認め、評価し、一緒に喜んではどうでしょう。部下を高く評価して、その成長や成果を純粋な気持ちで喜ぶことで滞りも消え去ることになるのです。
「グッドボス・イズ・ア・グッドフレンド」(よい上司はよい友だち)でもあるのです。
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鈴木 邦成(すずき・くにのり)
物流エコノミスト、日本大学教授
一般社団法人日本ロジスティクスシステム学会理事、電気通信大学非常勤講師(経済学)。専門は物流およびロジスティクス工学。物流改善などの著書、論文多数。普段から学生やビジネスパーソンから専門分野に関する相談を受ける一方で、就職、転職、資格試験の勉強方法、職場での時間管理や人づきあいなど、幅広い悩みについても意見を求められるという。そうしたやりとりのなかで、物流・ロジスティクス工学の知見を、「仕事や人生の滞りをなくす」という視点から悩みに当てはめることで、思いがけない解決策を導けることに気づく。主な著書に『トコトンやさしい物流の本』『入門 物流(倉庫)作業の標準化』『トコトンやさしいSCMの本』(いずれも日刊工業新聞社)、『シン・物流革命』(中村康久氏との共著、幻冬舎)、『物流DXネットワーク』(中村康久氏との共著、NTT出版)などがある。
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(物流エコノミスト、日本大学教授 鈴木 邦成)
