新型の「超大型ロケット砲」の試射を視察した金正恩氏(2019年8月25日付朝鮮中央通信)

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北朝鮮の国防科学院は11日、極超音速ミサイルの試射を行った。北朝鮮が極超音速ミサイルの試射を行ったのは、昨年9月と今月5日に続き3回目だ。同通信は今回が「最終試射」であるとしており、今後、実戦配備に向け生産段階に進む可能性がある。
 
一方、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、北朝鮮は5日に行った極超音速ミサイル試射の「成功」を、政治学習を通じて国民に強調しているという。しかし国民の反応はと言えば、かなり冷め切ったもののようだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)郡のある幹部はRFAに対し、次のように証言している。

「昨日(7日)、郡内の各機関、企業所別に党員の学習会が開催された。通常、学習会は土曜日に行われるのだが、今回は金曜日の午前に召集され、1時間ほど行われた。今回の学習会は中央党(朝鮮労働党中央委員会)の指示により、全国的規模で同時に行われた。党員の模範事例にいっさい言及がなかった点も異例で、極超音速ミサイルの試射成功を祝い、その意義を強調する内容で一貫していた。

学習会ではまた、今回の極超音速ミサイルの発射が第8回党大会で示された5カ年計画に従う戦略兵器開発の一環であるという点が繰り返し強調された。また、極超音速ミサイルはわが国の国防力を強化する最も重要な要素であるとし、核・ミサイル開発の正当性を強く主張した」

この幹部によれば、北朝鮮は核実験やミサイル発射を行う度、こうした政治学習を通じて国防力強化の必要性を強調してきた。「今回も、国防力強化こそは我々が遂行すべき課題であり、人民が耐えている生活難も、自力更生と大団結の力で甘受すべきものだと主張した」(幹部)。

しかしそれを聞く参加者たちは、「もうこれ以上、信じようとしない雰囲気だった」という。

(参考記事:「金正恩の犬野郎のせいで人民が餓死」批判の落書きに平壌が騒然

平安南道(ピョンアンナムド)のある幹部も同様に、7日に行われた学習会の様子を説明。その上で「本人の意思と関係なく学習会に動員された党員や労働者たちの相当数は、学習内容には無関心だった。勝手にやってろと(いう雰囲気だった)」と現場の空気を伝えた。

当然と言えば当然の反応である。金正恩総書記が核兵器と大陸間弾道ミサイルの開発に拍車をかけた結果、史上初の米朝首脳会談が開かれたところまではよかった。しかしそこから、金正恩氏が何ひとつ利益を持ち帰れなかったことを北朝鮮国民はよく知っている。

金正恩氏はこのところ、経済再建に力を入れる姿勢を見せているが、成功はおぼつかない。形の伴う唯一のパフォーマンスであるミサイル発射によっても国民を振り向かせられないとなれば、いずれ、金正恩氏の指導力に深刻な影響が出てくるかもしれない。