これが史上初の緊急事態宣言発出直後の記者会見なのか?

【動画】記者会見で「お願いします」を連発する安倍首相

 そう感じたのは、政権が感じているだろう切迫感も危機感もほとんど迫ってこなかったからだ。宣言が出るのが遅かったということも言えるが、安倍一強と言われ歴代最長の政権を率いる安倍首相だけに、「危機に強いリーダー」の姿をここぞとばかり示してくれると思ったのだが……。


「緊急事態宣言」の発出についての記者会見は、質疑応答を含めると約1時間に及んだ ©︎AFLO

緊急事態を宣言するまでにかかった時間

「緊急事態宣言を発出することといたします」

 4月7日、19時から行われた安倍首相の記者会見は、質疑応答を除いても25分間に及んだ。正直、長い。長々とした話は、人の心に訴えかけてはこない。

 新型コロナウイルスに感染し、今は集中治療室に入院しているイギリスのボリス・ジョンソン首相が、国民に向けて外出自粛を呼び掛けた会見はわずか6分。言いたいことがコンパクトにまとめられている上に、声、表情、仕草が相乗効果をもたらし、ジョンソン首相の意図を的確に表していく。このメッセージには、訴えかける力があった。

 だが、安倍首相は冒頭から淡々とした口調で、細かく現状を説明しようとしたためか、緊急事態を宣言するまでに4分近くもかかってしまった。

「表明準備」緊急なのにスピード感なし

 だいたい前日の6日、「とうとう宣言が出されるのか!」と思ったら、あの小さなマスクをはずし、記者団の前で口にしたのはまさかの「準備表明」。いやいや、事ここに及んで準備表明はないでしょうと思った。「緊急の割に緊急事態宣言は明日か」と、テレビプロデューサーのデーブ・スペクター氏が自身のTwitterに投稿したが、まさにその通り。緊急事態だというのにスピード感が感じられなかったのは、この時と同じだ。

自身で言葉を発さず、選ぶ表現があいまい

「臨時の医療施設として活用することも可能であると考えています」 

 安倍首相の会見がストレートに心に訴えてこないのは、言葉の選び方にも理由がある。

 “予定です”
 “可能であると考えています”
 “要請すべきと考えます”
 “可能性も出てくると考えます”
 “思います”

 はっきり言い切らず、表現があいまいななため、リーダーとして示すべき覚悟や決断力への印象が薄い。左右に置かれたプロンプターを目で追いながら右、左、時々真ん中と首を振る。作成された原稿を読み上げているだけだ。首相自身の言葉ではないため、聞き手の感情に訴えてこない。だが読み上げているのは首相本人。語尾を言い換え、言い回しに変化をつけることぐらい簡単なことだ。

「考えています」という表現を使って説明する時期はとっくに過ぎているからこそ、緊急事態宣言が発令されたのではないか。これを聞いた国民が強いリーダーシップを感じないかもしれないという“可能性”は“考えなかった”のだろう。

口は半開きで、指先も手も語らず

「事態は切迫しています」

 国民に行動変容の大切さを語り、みだりに外出しないよう「事態は切迫しています」と訴えた安倍首相だが、口が半開きになり、わずかに前歯が見えていた。言葉は強いのに、この表情によって切迫感が薄らいでいく。こここそ奥歯をぐっと噛みしめるぐらい強く口を結ぶべきタイミングだったのに、言葉と表情がマッチしていなかった。思いや感情、状況等の強弱を伝えるのは言葉だけでない。言葉と同時に表れる仕草や表情がわずかに違うだけで、言葉の持つインパクトはかなり変わってくる。

「ゴールデンウィークが終わる5月6日までの1ヵ月に限定して」

 本当に1ヵ月で済むのだろうか? 安倍首相が前に差し出した左手の人差指はまっすぐに立てられておらず、鍵形にやや曲げられたまま、すぐに引っ込んでしまった。「1ヵ月で済む、済ませる!」という決意があれば、人差指はまっすぐしっかり立てられていたのではないだろうか。1ヵ月で済むかどうかわからない、曲げられた人差指からそんな不安が感じ取れてしまう。そして首相は「外出自粛をお願い致します」と続けた。“外出自粛”で両手を組んだものの、“お願いします”と述べた時、その手は下げられ演台に隠れてしまった。組んだ手は演台の上か胸の位置にこそあってよかったのだ。

心理が垣間見えるボディランゲージ

「世界的にも最大級の経済対策を実施することといたしました」

 25分の冒頭会見では全体的に淡々とした調子で、声のトーンもテンポも単調だったが、安倍首相の声がもっとも高く語気が強くなったのが“最大級の経済対策”と述べた時だ。GDP(国内総生産)の2割に当たる事業規模108兆円の経済対策、おそらくここが一番、首相がアピールしたかったポイントなのだろう。

 とはいえ「考えうる政策手段を総動員して、国民の皆様と共に、この戦後最大の危機を乗り越えていく決意であります」と決意を表明した時は、カメラ目線でありながら顎をわずかに引いていた。顎が下がるというこの仕草から、見ている側は首相の不安を無意識のうちに感じ取るのではないだろうか。

「友達との飲み会が取りやめになった」

「この2カ月で私たちの暮らしは一変しました」と述べている首相を画面で見ながら、思い出したのは昭恵夫人が芸能人が一緒に写ったレストランでの花見の写真。撮られたのは3月23日。ファーストレディの会合は中止されなかったのだ。

 野党の追及に「都が自粛を求めている公園の花見ではない」と釈明した首相に批判が集中したばかり。もしこの件を例に“あのような行動を取らないように”と逆に開き直って訴えていたら、リーダーとしてのしたたかさや図太さが感じられ、国民の心をもっと掴めたと思う。

この微妙な微笑みが何を意味しているのか

「改めてご協力をお願いします」

 すべては皆さんの行動にかかっている、協力をお願いすると前を向いて述べた首相だが、言った途端すぐに身体をプロンプターの方向、左に向けた。会見中何度もあるのだが、国民に要請しているはずなのに、言い終わるなり視線を移動させたり、身体の向きを変えてしまったのだ。ほんの一瞬、そのまま視線をそこに止めているだけで、見ている側が受ける印象は段違いに変わる。印象操作だ。

 首相の本気度や緊迫感をアップさせられたのに、すぐに視線を逸らしてしまったため、そこにあるはずの張り詰めた感覚や凄みのような感情が消えていってしまった。それにしても“お願いします”が多かった。冒頭だけでも12回。改めて日本は国民の自主性に頼っている国だとわかる。

「そう確信しています」

 冒頭会見の最後、安倍首相は「この緊急事態という試練も必ずや乗り越えることができる。そう確信しています」と締めくくった。ほんのわずかだけ頬を緩めて。もしかして国民を安心させようとしたのだろうか。それとも……。この微妙な微笑みが何を意味しているのか、本当にわかるのは1ヵ月後になるだろう。

(岡村 美奈)