「パン、パン、パン」。町を歩いているときにベランダから聞こえてきる、布団を叩く音。そんな日常の生活音でさえも性行為を連想してしまう「セックス依存症」に悩まされた漫画家・津島隆太氏。「風でガタンと揺れる音、立体駐車場がギシギシ揺れている音。それらがセックスをしている音に聞こえてしまい、妄想の世界に入って歩みが止まってしまう」。症状と闘う自身の体験を漫画化し、2年ほど前から『週プレNEWS』で連載しており、今では月間200万PVを誇る人気作になっている。

 20代の頃から女性関係が派手だったといい、「21歳くらいの時、エッチなお姉さんと知り合って、ゲームをして勝ったらセックスをするという遊びがきっかけになったのではないか」と振り返る。年を重ねるにつれ、性行為の内容がハードなものとなり、時と場所を選ばず、相手も不特定多数に広がった。

 大好きだった交際相手に浮気がバレ、ハンマーで頭を殴られてしまったこともあるという。「快楽で相手をやっつけないと気が済まなくなってしまった。ソフトな語り口だとよく言われるが、セックスをする時は豹変してしまう。異常な興奮、異常な快楽に、強迫観念に近い状態があって、逆にそういうことをしないと、本当に気分が落ち込んでしまっていた。ハンマーで襲われた時、もうやめようと思った。でもやめることができなかった。決意して1か月も経たないうちに別の女性にいってしまった。こんなことをしたくないと思っているのにしてしまう。自分でも嫌になる。恐ろしいほどの強迫性なので、羨ましがられるような状態ではまったくない」。
 

■「皆が話しやすい環境になってくれたら」

 津島氏の性的な対象は「10代後半〜20代前半の処女」で、目的を達成するためは様々なウソもついてしまったという。「風俗の依存症の方の場合、それで借金を作ってしまうことがある。私はそうではないが、24時間以内にセックスをしないと死んでしまうという状態になり、ネットでナンパして、お金持ちを装ったりと、嘘をついてしまった。しかし行為後に衝動が治まると、激しい自己嫌悪と後悔がやってきた。これも依存症の傾向のようだ」。

 次第に性欲が満たされないと幻聴や幻覚に襲われるようになり、心療内科を受診。「セックス依存症」だと診断された。それからの2年半、病院での治療や自助グループの仲間での話し合によって、自慰行為も含む性行為を断っているというが、そのことが頭から離れることはない。「正直、それ以外に大切なものはない。大好きな漫画でさえ、興味を失ってしまう。今は食事を楽しむこともできないし、人生が全く楽しくない」と、症状と一人で向き合う日々の辛さを吐露する。「エロ動画を見たり、水着の女性のポスターが貼ってあったりすると惹かれてしまい、妄想に入ってしまう。街にいる女性を目で追ってしまって、歩いているのに止まってしまうということはある」。

 殴られた時のハンマーを自分への戒めとして今も所持、仕事以外ですることといえば、愛犬の散歩くらい。「自分にとって生きているのはこの子のおかげかな。自分が死んじゃうと世話する人がいなくなってしまうから」。そんな津島氏が、自身の苦しみについて漫画を通して告白することを決めたのは、セックス依存症を取り巻く社会環境に問題意識を抱いたからだという。 

 「私が顔を出して明かしたのは、その第一人者になって皆が話しやすい環境になってくれたらいいなと思ったからだ。特に女性は自分がセックス依存症であることを周りに告白できず、治療の現場にも少ないと感じる。タレントさんも含め、それが原因でわいせつ事件などの問題が日々起きていると思う。そういうのはそろそろやめませんかと言いたい。痴漢対策として安全ピンが話題になったが、被害者の側が努力するのではなくて、プログラムで加害者側を抑えることができるということを伝えたい」。

 自助グループでは匿名性が重視されており、他の当事者が自分のことが漫画に描かれるのではないか思って正直に話せなくなってしまうことを避けるため、自助グループに通うことは止めている。「その分、自分自身が辛い。私は元々無宗教で、宗教は正直好きではなかったが。今は十字架を身に着けている。キリスト教というわけではないが、神を信じることにして、寝る時も握りしめながら寝ていると渇望が遠ざかっていく。そういうことで助けられているというのはある」。
 

■"精神安定剤"と話す女性や、犯罪行為に至ってしまうケースも

 セックス依存症に悩んでいるのは男性だけではない。

 経験人数は600人を超え、"ヤリマンアイドル"という肩書きで自分の性体験をトークライブなどで披露している白玉あもさんも、依存症の当事者の一人だ。16歳の時に両親が離婚、母親と暮らしていていたが、生活を支えるために援助交際を始めた。その後、SM嬢やAV女優も経験した。

 「彼氏とかはちゃんといたことがなくて。だけど常にセックスする相手はいて。飲みに行ったとして、話がつまらないと思われているんじゃないかなと感じると、それならいい思い出を持って帰ってもらおうと、そのままホテルに行ってセックスをする。情緒不安定になった時もセックスをすると落ち着いたりするし、寂しい気持ちになった時もセックスすればとりあえず満たされる。安定剤じゃないけど、そういうものだと思っている。でも、終わった後は、結局は虚しくなる」。

 女性向け風俗ライターの藍川じゅん氏は、夫とのセックスだけでは満たされないと話す。「会社のトイレでもオナニーしちゃったりとか。それでも足りない時は風俗に行って。オーラルセックス専門のマゾの男性に募集をかけ、"舐めてもらえないか?"と言って。罪悪感はない。"あぁ、すっきりした!"という感じだ」。

 症状が問題行動にとどまらず、犯罪行為にまで及んでしまうケースもある。

 2002年に設立され、東京、長野、名古屋、九州の4地区で活動している性依存症の自助グループ「SCA-JAPAN」。回復を目指し、自らの体験を語り、仲間の話を聞いていく。参加者は薬物セックス依存症や強迫的マスターベーション、風俗通いで2000万円近いお金を使ってしまった男性など、症状との闘いや悩み、苦しみを次々に語っていく。

 中でも設立メンバーの一人、たかしさん(50代)は幼児性愛(男子)依存で、前科がある。「思春期の頃、電車でたまたま隣りに半ズボンを履いた小学生の男の子が座った。その太ももを触りたくて触りたくてしょうがなくなった。それからどんどんどんどん、そのことに取りつかれるようになって、男児の性器を触ってしまう痴漢行為をするだとか。もうどうしようもないと思って警察に自首した」。

 懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を受け、「12のステップ」と呼ばれる依存回復プログラムに取り組んだ。その過程で、性的な依存は単なる性欲ではなく、満たされない何かを埋めるためだということを知ったという。「子供時代に母親に虐待されたことで、自己評価がすごく低い。そのマイナスの感情を楽にするための手段として性的興奮を求めているようだ」。自分自身と向き合い始めたことで、その後18年10か月、子供への性加害は行っていない。

 しかし、完治をすることおがないのが依存症だ。「今は夏休みだから、子どもさんが目に入っちゃうことがある。そういう時は自分に対する刺激を避けるために目を閉じたりしている」と明かした。
 

■「誰にでも当事者になる可能性があると思う」

 性依存症の回復プログラムを手がけ、津島氏の漫画の監修も行う斉藤章佳氏は「性的な接触というのは気持ちいいので、人間は繰り返す傾向にある。また、反復すればするほど行動は強化され、いわゆる条件反射の回路が頭の中にできあがる。梅干しを見ると唾液が出るのと同じようなことが、性依存症の人には日々起こっている。アルコールや薬物、ギャンブル、万引きも含め、依存症かどうかのポイントは、まず本人が生活の中で困っているかどうかだ。何らかの社会的な損失や身体的な損失、または経済的な損失があるにも関わらず、それが止められず繰り返してしまう状態に陥る。グレーゾーンの人は結構いると思うし、痴漢や盗撮は比較的誰でもなりやすい。身体に触れたり、階段で下着が見えてしまったことがきっかけで始まることもある。そういう意味では、誰にでも当事者になる可能性があると思う」と話す。

 依存症の治療について、斉藤氏は「私が働いているクリニックは依存症専門のクリニックで、性犯罪を繰り返す人も2000名くらい来ている。中には犯罪になる逸脱行動もあるが、病気と捉えていいかどうかは賛否両論ある。アルコールや薬物は自己使用によって健康を害する問題だが、加害行為の場合、他者の健康を害することになるし、その責任をどう考えるのか、という議論も出てくる。"依存症だから仕方ない。病気だから仕方ない"という議論にきちんと歯止めをかけた上で治療をやっていかないといけないというのが今の考え方だ。いわゆる条件反射の回路を、どうやって違う条件反射に変えていくかだ。梅干しでいえば、唾液を出さないようにすることが重要になる。そのためには、生活の中で梅干しを避ける、"リスクマネジメント"と行う。どうやって自分の引き金を引かずに生活を維持していくかが治療の初期では重要になってくる」と説明した。 
 津島氏に対しては、読者からの「セックス依存症は病気じゃない!ただの性癖だろう!」「ただセックスがしたいだけ!」「たくさんの女とヤッたモテ自慢か!」「浮気男の言い訳!」とった批判の声も寄せられる。しかし津島氏は「まったく好きでもない相手としようとしてしまう。だからラブホテルに入っても性的に興奮せず、勃起もせずに終わってしまうこともある。しかし、その段階までいかないと気が済まない。本当に自分がしたいことではないということを伝えたい。また、アルコール依存症だからといって、アルコールが悪いということではない。セックスにも依存症があると知ってもらいたい」と重ねて訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)