ジャパンイマジネーション ファッションアドバイザー 石田有香さん

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個人消費に明るい兆しが見えてくるようになった。しかし、多くの会社ではどうしたら顧客ニーズをつかみ、売り上げにつなげられるか悩んでいる。その解決策を若手の凄腕営業マン・販売員に学ぶ。

10〜20代の女の子なら知らない子はいないほど、若い女性から支持されている人気ブランドの「セシルマクビー」。全国約150店舗のレディスファッション専門店を展開するジャパン イマジネーションが、そのショップを運営している。

セシルマクビーで最大の売り上げを誇る旗艦店は「渋谷109店」。ファッションの聖地として、若い女性客が押し寄せる東京の「渋谷109」の中にある。その店舗には、販売成績で全店約1100人の頂点に立つ石田有香さんもいる。1カ月に平均400万〜500万円を売り上げるというカリスマ販売員なのだ。

石田さんは、母親の影響で幼いころからファッションへの関心が高く、高校卒業後、東京都江戸川区の実家近くのショッピングモールにあったアパレルショップで、アルバイト店員として働き始める。販売員としての基本はそのアパレルショップで学んだと、石田さんは振り返る。

「お客さまが少ないお店で、1時間に1〜2人しか来ないときもザラでした。でも途中で、服をバンバン売るスタッフが来たんです。その人が積極的にお客さまに声をかけているのを見て、自分でもやってみようと思いました。そうしたら、お店の売り上げの半分くらいを稼げるようになったんです」

そして、石田さんは13年5月、セシルマクビー渋谷109店にアルバイトとして入る。「一番のお店で働きたい」というのが動機だった。ところが、石田さんは大きな挫折を味わう。最初は思うように販売できず、1日の売り上げがスタッフ約30人の中で、最下位になってしまったのだ。悔しさのあまり、帰宅の途中で涙をこぼす日が続いたという。

「先輩たちに追いつきたいと必死でした。売り上げナンバーワンの先輩は、動作がキビキビとしていて、お客さまへのアプローチも断然多いんです。ファッションもバッチリ決まっていました。そこで、その先輩を見習うことにしたんです」

石田さんは次第に頭角を現し始め、半年ほど前からは販売成績で全店トップクラスの座を占めるようになったのだ。

■人間観察力を磨くオフの活用法

石田さんが心がけているのは、接客の機会をできるだけつくること。そこで、お客さまの観察からスタートする。石田さんは、長身であるうえに、高いヒールを履くようにしているので、店内ではほかのスタッフより頭一つ抜きん出て見える。それを生かして、お客さまがどんな服装をしていて、どんな商品に興味を示しているのか、常に目配りしている。

「首を伸ばして、いつもキョロキョロしています。頭を動かしていないと、『今日は体の具合でも悪いの?』っていわれるくらいなんですよ」

それだからなのか、店の中での石田さんのあだ名は「キリン」なのだそうだ。そんな石田さんは、顧客が商品を手に取ったのを発見すると、すかさずアプローチを始める。とはいえ、いきなり商品説明はしない。

「今日はお天気がいいですね」「お住まいはどちらですか」等々、まずは当たり障りのない話題から入っていく。会話のネタをストックしておくため、石田さんは、テレビのニュースやSNS、雑誌などをこまめにチェックしている。だからなのだろう、石田さんは「相手の懐に飛び込むのがうまい」と社内でも評判だ。

「会話では、お客さまのペースに合わせるようにしています。中学生くらいの女の子って、テンションが高いので、私も高いトーンで話をします。でも、20代後半くらいのお客さまだったら、落ち着いた口調で受け答えします。そのせいか、『見かけよりも、しっかりしているわね』って、お客さまによくいわれます」

気さくで話しやすいというキャラクターもあるが、実は、彼女の努力の賜物でもある。石田さんは、コミュニケーションをよくする方法をいつも考え、オフにはほかの店舗を回って接客を受けたり、いろいろなタイプの人に会ったりして、人間観察を欠かさないという。

お客さまとの会話が弾んできたら、商品説明に移る。しかし、ダラダラと講釈を並べるようなことはせず、クロージングも早い。

「それぞれのアイテムの一押しセールスポイントを決めておくんです。そのほうが、お客さまにも伝わりやすいんですよ。毎週、新作の長所をスタッフ一人ひとりが指摘していく『メリットピックアップ』という店内の接客トレーニングがあるんですが、私はそこで挙がった長所をメモして、トークに取り入れます」

■クロージングの殺し文句

渋谷109店は約400アイテムを揃えており、商品の入れ替わりも早い。それでも、石田さんは商品データをすべて頭に入れているし、おすすめコーディネートのパターンも把握している。

「お客さまがどんなファッションにしたいのかがわかったら、自分からサンプルを持っていって、試してもらうんです。なるべく多くの服を見てもらいます。その中から1着くらいは、お気に入りが見つかるはずですから」

クロージングに向けて顧客の背中を押す“殺し文句”も用意している。

「お客さまの特徴に合わせて、服のメリットを強調します。肌のきれいなお客さまだったら露出の多い服を合わせて、『肌をもっと見せちゃいましょうよ』といってみます。背の高いお客さまだったら丈の長い服を見せて、『小柄な方には難しいですが、お客さまだからこそ着こなせると思います』とおすすめします」

さらに、ついで買いを誘う、こんな必殺テクニックも繰り出す。

「2点以上お買い上げで10%引きのキャンペーンをしているとしましょうか。黒系がお好みのお客さまだったら、1点目は黒系の服を、そして2点目は明るめの別の系統の服をあえて提案します。そして、『どうですか。意外とお似合いじゃないですか? このチャンスに、思い切ってチャレンジしてみませんか?』といった具合に切り出すんです」

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初めは1着だけ買いにきたお客さまも、いっぱい服を見せてもらうと、いくつかお気に入りの服が出てくるもの。悩んでいるときに、さりげなく2着以上は10%引きセールスのことを伝える。そうすると「せっかくだから」という気になり、実際の購買につながる

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石田さんの販売成績がよい理由の一つは買い上げ点数が多いことである。客単価は全店で平均約8000円だが、石田さんはそれを大きく上回るという。その秘訣は、プレゼン能力の高さにあるといえるだろう。

正社員の次は、チーフ、そして店長というステップが待っている。石田さんは、「うちの店長は、お客さまのことをよく覚えていて、お得意さまがすごく多いんです。私も早くそうなりたい。今の目標ですね」と、あくまでも上昇志向である。

▼キリンのように首を長くして店内を観察

売り上げを伸ばすためには、1人でも多くのお客さまについて、そのお客さまのニーズを引き出すことが大切。だからいつもキョロキョロ。見やすいようにハイヒールを履く工夫も行う。

▼お客の長所を褒めながら背中を押す

たとえば「露出が多くて、ちょっと私には似合いそうにないかも」と思っているお客さまに対して、「肌がおきれいですから、もっと見せてあげたらどうでしょう」と背中を押す。

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ジャパンイマジネーション ファッションアドバイザー 石田有香(いしだ・ゆか)
1992年、東京都生まれ。2013年5月、セシルマクビー渋谷109店にアルバイトとして入店。14年6月、正社員に採用される。
 

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(野澤正毅=文 南雲一男=撮影)