【泣ける映画5選】役所広司、山崎努、寺尾聰、浅野忠信、福山雅治…「父親」が抱く愛と悲しみ、家族の尊さ
「スター・ウォーズ」シリーズの劇場版最新作「マンダロリアン&グローグー」が日本でスマッシュヒットを記録した。その最大要因であるグローグーの愛らしさは、師匠であり養父でもあるマンダロリアンとの絆あってこそのもの。派手なアクションと「父と子の愛」がちりばめられたこの映画で、今年の「父の日」は例年より少し注目されるかもしれない。では、“日本の父たち”はどのように子を愛するのか。映画解説者の稲森浩介氏が、父の愛に泣ける日本映画5選を紹介する。
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【写真】山崎努、寺尾聰…ひと癖ある「父親」役で存在感を見せた俳優たち
子供に先立たれた父は
〇「銀河鉄道の父」(2023年)
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」、「注文の多い料理店」などの童話や「雨ニモマケズ」などの詩は多くの人に長く愛されてきた。その賢治の誕生から死までを見守り続けた父親を描く。

明治29年、質屋を営む政次郎(役所広司)に長男・賢治(菅田将暉)が生まれる。赤痢になった賢治を心配し「賢治が死んだら、私も死ぬ」と病院に泊まり込んで看病する子煩悩の政次郎。前半は文章を書くまでの息子を、温かく包み込む姿が描かれる。
もう1人、賢治の心の支えとなるのが妹・トシ(森七菜)だ。トシが24歳の若さで、結核で亡くなった時のことが描かれる。賢治の詩「永訣の朝」で「あめゆじゅとてちて、けんじや」と書かれたように、臨終の際に賢治が庭の雪を取ってトシに食べさせるシーンは心を揺さぶる。父はトシが亡くなる前「おまえは自慢の娘じゃ」と優しく話しかける。
その時の森の演技について役所は「トシが亡くなる場面は本当に家族全員で哀しくなりました」と語っている(「キネマ旬報」2023年5月上下旬合併号)。
昭和3年、賢治は血を吐き結核と診断される。看病する父は「雨ニモマケズ」の詩が書かれた賢治の手帳を見つける。そして今際の時に「雨ニモマケズ」を唱え「いい詩だ」と賢治にいう。賢治が亡くなるとその体を抱き起こして泣きじゃくる役所の姿には、思わず落涙してしまうだろう。
子供に先立たれる親ほど辛いものはない。政次郎はその後の人生をどんな思いで生きたのだろうか。それだけに、政次郎が2人に再会する幻想的で美しいシーンには救われる思いがする。
父が忘れなかったこと
〇「長いお別れ」(2019年)
認知症の人と過ごす時間を「The Long Goodbye(長いお別れ)」と呼ぶ。長い時間をかけて、記憶やその人らしさが少しずつゆっくりと遠ざかるからだ。ある日、母(松原智恵子)から、父(山崎努)の70歳の誕生日会に家に帰ってきて欲しいと、姉・麻里(竹内結子)と妹・芙美(蒼井優)に連絡がある。姉妹が帰省すると、中学校校長も務めた厳格な父が、半年前に認知症になったことを告げられた。
2年後、父は芙美と友人の葬式に出席するが、大きな声で「あいつは死んだのか」と騒ぎ慌てて退席する。施設でみんなと童謡を歌っていた時に、いきなり前に出て指揮をするのは教師時代のことを思い出したのだろう。その後、症状は進み、スーパーで万引きして捕まるが、怒る店員に「そこに立ってなさい」と言うのも「先生」の姿だ。
どこかユーモラスな場面が多いが、冒頭とラストシーンの切なさに涙する人も多いだろう。認知症が進んだ父が傘を何本も持って遊園地にやってくる。ずっと前、雨が降ってきたので小さな娘たちを迎えに来たことがあるからだ。父を探しに来た娘たちは、メリーゴーランドに乗って嬉しそうに手を振る父を見る。大切な記憶は忘れられないのだ。
認知症には2度の別れがあるとも言われる。最初に自分や家族のことがわからなくなり、心の別れが来る。やがて、肉体的な終わりが訪れる時が2度目の別れだ。ゆっくりと進む別れのなかで一瞬一瞬を大切にしよう、そんな思いが伝わる作品だ。
エンドロールで泣く
〇「半落ち」(2004年)
横山秀夫のベストセラーを佐々部清監督が映画化。原作にはないエンドロールの1シーンで、これだけ泣かせる映画はないと評判になった。
現役警部の梶聡一郎(寺尾聰)が、アルツハイマー病の妻・啓子(原田美枝子)を殺害したと自首してきた。捜査一課の志木和正(柴田恭兵)の取り調べに対し犯行は認めるものの、自首するまでの2日間の行動については決して口を割ろうとしなかった。“空白の2日間”に何があったのか? やがて夫婦には、7年前に白血病で亡くなった13歳の息子・俊哉がいたことがわかる。
妻の殺害は認めるが、自首するまでの間、何をしていたかはどう説き伏せても言わない。だから“完落ち”ではなく“半落ち“なのだ。秘めたる思いを持つ人間を演じる寺尾聰に注目したい。妻に懇願されたとはいえ、殺害しなくてはならなかったいきさつ。息子を亡くしてから、徐々に心が壊れていく妻の姿。終盤は心に突き刺さる場面が続く。寺尾は最初に脚本を読んだ時、亡くなった妻と息子への思いをどんな風に自分に溶け込ませるか、まずそれを考えたという(「キネマ旬報」2004年1月下旬号)。
ミステリーなので、なぜ梶は2日間の行動を話さなかったかはここで触れないが、ラストの映像に全てがあると言って良いだろう。当時映画館で観た人は、エンドロールが流れ、そこに森山直太朗の主題歌がかぶさると号泣してしまったという。その後、館内が明るくなりとても困ったらしい。
新しい命の誕生を見つめる
〇「幼な子われらに生まれ」(2017年)
血のつながらない娘との関係に悩み、新しく誕生する生命への不安に揺れる父親を浅野忠信が演じる。
離婚経験のある信(浅野忠信)は、2人の連れ子がいる奈苗(田中麗奈)と再婚していた。子供たちとの関係も良好だったが、奈苗が妊娠したことをきっかけに長女・薫(南沙羅)から嫌われるようになり、本当の父親に会いたいと要求される。
信は良い家庭を作ろうとあらゆる努力をしているが、家族との感情の行き違いに悩む。そして、会社からは倉庫勤務へと配置転換を言い渡されてしまう。このあたり信の精神がいつ破綻するのだろうかと、息苦しい場面が続く。そして薫の希望を聞き、実の父親に会う手配をするのだが……。
長女の薫を演じた南沙羅のデビュー作だ。当時ファッション誌「nicola」の専属モデルだったが、オーディションで三島有紀子監督に抜擢されたという。翌年には「志乃ちゃんは自分の名前がいえない」(2018年)で主役を務め、多くの賞を獲得した。
浅野は南について「義理の父である信への嫌悪感が強まって『お父さん、いやだ』という感情をストレートにぶつけてきたから、とても自然なやり取りができた」と話している(「キネマ旬報」2917年9月上旬号)。
だからだろうか、ラスト10分間の浅野と南の“本当の家族になる”場面はとても印象的だ。ここまでの葛藤は、このために用意されたと言っても良い。そして新しい命の誕生を見る時、喜びとほろ苦さが交じった涙を流すことになるだろう。
育ての親と産みの親
〇「そして父になる」(2013年)
昭和30年代に病院で他の乳児と取り違えられた男性が、20年以上本当の親を探しているというニュースが最近話題になった。本作は同じく乳児の取り違えを扱っているが、お互いの両親は分かっている。それでは、これからどうするのか。
エリート会社員の良多(福山雅治)は、妻・みどり(尾野真千子)と6歳になる慶多と高級マンションに住んでいる。ある日、慶多を産んだ病院から他の子と取り違えられたという連絡があり、愛情を注いできた息子が他人の子だったと知り愕然とする。相手の家族は電気店を営む雄大(リリー・フランキー)とゆかり(真木よう子)で、良多たちの本当の息子は琉晴という。彼は大人しく素直な慶多と違い、元気溢れる少年だった。
2組の夫婦は、子供を相手の家に泊まらせたり様々な試みをするが、良多は2人とも育てたいと申し入れ、雄大とゆかりを激怒させてしまう。福山はこれまでのスタイリッシュなイメージと違い、他人の気持ちを忖度しない鼻持ちならないエリートという珍しい役どころだ。
終盤、雄大の家に慶多を迎えに行くと、良多を見た慶多が逃げ出してしまう場面がある。大人の考えだけで両親と離れて暮らす悲しみが慶多から感じられ、とても切なく感じる。
“血は水より濃し”という言葉もあるが、それを決めるのは子どもではないだろうか。父を振り切って走る慶多の姿を見てそう思う。答えの出ない問題に踏み込み、家族とは何かを突きつける作品だ。
稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集
デイリー新潮編集部
