カルテルから露天商まで、W杯効果で潤う業種と取り残される人々 メキシコ

(CNN)緑、白、赤のメキシコ国旗が、首都メキシコ市の各所を彩っている。11日に開催されるサッカー・ワールドカップ(W杯)開幕戦に向けて、市内では準備が進んでいる。
鮮やかな緑色のメキシコ代表ユニホームを販売する店舗から、試合を宣伝するデジタル広告看板の業者まで、誰もがこの大会を商機と捉えているようだ。
ある試算によれば、今回のW杯によって同国はざっと37億ドル(約5930億円)の収益を生み出す可能性がある。このうち観光業だけでも、ほぼ半分にあたる額がメキシコ市にもたらされる見通しだという。
ここからは、恩恵を受けるとみられる業種と取り残されるかもしれない人々について見ていくことにしよう。
観戦客に照準労働者や起業家たちによれば、W杯観戦客の流入は観光地の事業者に徐々に利益をもたらし始めており、11日の大会開幕後にはさらに大きな収益が期待されている。
メキシコ市の中心広場エル・ソカロに行けば、店舗や屋台、レストランが色とりどりのW杯記念グッズ(ただし「非公式」)で飾られている。
売られている品は様々だ。サッカーボール型のキーホルダーや、メキシコ代表のユニホームを着た同国歴代大統領のぬいぐるみなども並んでいる。
サッカー観戦の人気スポットの一つであるレストラン「サロン・コロナ」は、早くも客でごった返している。マネジャーのミゲル・ラグナさんは、この1カ月間の大会期間中に来客数が45〜50%増えると見込んでいる。
メトロポリタン大聖堂と大統領官邸の間では、市内に数多くいる手回しオルガン奏者の一人、フアン・カルロスさんが、世界中から観光客が到着し始めていると語る。
「この街のこのエリア、そして手回しオルガンは、街を象徴する存在だ。だから私たちはここにいる」とカルロスさん。街頭パフォーマーたちのトレードマークとして知られるベージュ色の制服とケピ帽を身に着けた姿でそう語った。
市南部の静かな住宅街。アレハンドロ・ゴンサレスさんは、自身のレストラン「ガレージ・バーガー」も大会が始まれば景気が大きく上向くだろうと期待を寄せる。「観光客の少ない地域」でも、W杯効果の恩恵は波及するとみている。
市内の他の事業者と同様、ゴンサレスさんも開催地のアピールに余念がない。サッカーボール型の風船やアイスクーラーなど、スポーツをテーマにした装飾を設置して客を呼び込もうとしている。
「従業員には、このチャンスをつかまなければならないと言い聞かせている」(ゴンサレスさん)
カルテルと詐欺師たちカルテルや組織犯罪ネットワークも、W杯を稼ぎ時と考えている。
治安アナリストによれば今夏、彼らにとって最も旨味のある戦略の一つは恐喝だという。W杯目当ての観光客の大半は被害を免れるとみられるが、ファンが頻繁に利用する事業者は標的にされる可能性が高い。
カンクンやプエルト・バジャルタのようなリゾート地は試合の開催地でこそないものの、日帰りで訪れるファンからの収益が期待できる。犯罪者らは長年の間、こうした地域のレストランやナイトクラブ、ホテルなどを恐喝し、観光客のもたらした利益の一部を取り立ててきた。
メキシコのシンクタンク「インサイト・クライム」の上級研究員、ビクトリア・ディットマー氏は 「こうした地元企業は非常に収益性が高く、地域に根差した組織犯罪グループにとっては特に魅力的な標的となっている」と述べた。
当局によれば、犯罪者は詐欺によっても利益を得ると予想される。これにはサイバー空間上の詐欺も含まれる。
最大の懸念の一つは、詐欺師たちが偽造品や偽サービスの販売によってファンをだまそうとすることだ。メキシコ国内で開催される13試合のチケットも、そうした犯罪に利用されかねない。また当局は、試合のライブ配信を約束する偽アプリや偽ウェブサイトが作られるとも警告。こうしたサービスは、実際には利用者の端末にマルウェアをインストールするために使われる恐れがあるという。
「これらのプラットフォームの目的は娯楽の提供ではなく、被害者の個人情報や金融情報を侵害することにある。それは銀行認証情報を盗み出したり、端末の活動を監視したり、不正活動に利用されるボットネットへ端末を組み込んだりできるツールを通じて行われる」と、メキシコ政府は述べている。
当局者や研究者によれば、これ以外にも偽のホスピタリティー・パッケージや関連グッズ販売などの詐欺が発生する可能性がある。
政府は複数の注意喚起を発表。信頼できない第三者業者を避け、公式または認定された販売元からのみ購入するよう国民に警告している。
誰が取り残されているのか?ワールドカップが再び自国で開催されることを喜ぶメキシコ人がいる一方で、その恩恵をまだ実感できていないという人々もいる。
エル・ソカロで売店を経営するナイェリさんは、絶好の立地を確保しているにもかかわらず、自分のような小規模事業者は脇に追いやられてしまう可能性があると話す。
W杯の主催者は広場に「ファンフェスト」エリアを設置。巨大スクリーンやステージ、公式ライセンスを持つ出店者によるマーケットブースを設けている。
ナイェリさんは、このようなイベントによって道路が閉鎖され、自身の店への客足が制限されるのではないかと懸念する。これまでエル・ソカロで大規模コンサートが開催された際にも同じようなことが起きたという。
一方で、一部のホテルや民泊施設は、期待していたほどの好景気を感じていない。
民泊のAirbnb(エアビーアンドビー) は、W杯期間中の宿泊需要がすでに予想を上回っていると主張しているが、ホテル経営者や同プラットフォームの一部ホストが想定するシナリオはもっと控えめだ。実際、予約は入っているものの、想像していたほどではないという。
外国人観光客に人気の市内のエリアで6軒の物件を管理する共同ホスト、エリサ・ルガルシアさんは「W杯の影響は出ていない」「6月いっぱいほぼ満室になると思っていたが、そうはなっていない」と指摘した。
また当局が祝祭ムードを演出しているにもかかわらず、一部の住民からは大会への全国的な熱気が不足しているとの声も上がる。
過去のW杯を経験した人々の中には、今大会が盛り上がりに欠けるように見える理由として、治安への継続的な懸念、メキシコ開催の試合の少なさ(104試合中13試合のみ)、そして大会の結果生じた物価上昇を挙げる人もいる。
メキシコ全体で広く聞かれる不満は、労働者階級が排除されつつあるということだ。チケットが高額すぎるため、共催国にもかかわらず実際に試合を観戦できるメキシコ国民はごく少数に限られる。この大会を楽しめるのは一部の恵まれたメキシコ人と、圧倒的な数で押し寄せる外国人だと、現地の人々は述べている。
国際サッカー連盟(FIFA)が4月に第2次となるチケット販売を開始した際、6月11日に行われるメキシコでの開幕戦のチケット価格は3000ドルから1万ドルの範囲だった。メキシコの一般的な最低賃金は1日およそ18ドルだ。
メキシコでのチケット価格について尋ねられたFIFAは、「チケット販売および二次流通市場のモデルを確立した。それは開催国における主要なスポーツおよびエンターテインメントイベントの標準的なチケット市場慣行を反映したものだ」と説明した。
「(チケット代は)高すぎる。少なくとも平均的なメキシコ人にとって、試合を観戦するのは不可能だろう」。前出のガレージ・バーガーのゴンサレスさんはそう嘆いた。
同店の従業員の一人、ディエゴさんは、政府が多少の圧力をかけてでも、もっと多くのメキシコ人がこのイベントに参加できるようにするべきだと主張。「結局のところ、私たち皆が影響を受けるのだから、私たちにとっても楽しめる大会にした方がいい」と訴えた。
