「91歳、すい臓がんの母をホスピスに入れたら、わずか数ヵ月で寝たきりに。選択は正しかった?」「QOLの低下はホスピスのせいではなく…」
健康の不安、家族の病気や介護、看取りなど、病と人生にまつわるお悩みに、医師で小説家の南杏子さんが回答します(構成:内山靖子)
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Q. すい臓がんの母をホスピスに。その選択は正しかったのでしょうか?
(茨城県・無職・67歳)
数ヵ月前、91歳の母が突然すい臓がんと診断されました。余命は3ヵ月から半年ということで、急遽入院したのですが、絶食と点滴を主とする治療からわずか半月ほどで終末期医療に移行。私たち家族は母の苦痛を取り除くことが最優先と考え、ホスピスへの入居を決めました。
入居当初は病院での絶食治療から解放されて本来の母らしさを取り戻したものの、筋力が落ちて自力で歩くことが困難になり、QOL(生活の質)が著しく低下してしまったのです。
そのせいか、帯状疱疹を発症し、薬の副作用で吐き気が強く、ほぼ寝たきりの状態に。頭はしっかりしているため、寝たきりの生活は母にとっても苦痛の極みだと思います。
わずか数ヵ月間でこのような結果になってしまったことに、家族も困惑しています。私たちの選択は本当に正しかったのでしょうか?
ホスピス入居の選択は間違っていません
相談者さんの現在の悩みを整理しますと、お母様をホスピスに託したことで、時を置かずに寝たきりにさせてしまった、もっとほかの選択肢はなかったのだろうか――という後悔に似た思いでしょうか。
「ホスピスに入れたから弱ってしまったのではないか」「家にいれば違ったのではないか」とお感じになるご家族は、実際とても多いです。
まず、医師の立場から申し上げますと、ご家族の選択はとても理にかなっていたと言えます。QOLが低下したのはホスピスのせいではありません。すい臓がんそのものによって、体が弱ってきているため。「場所」ではなく、「病気」の進行が体を変えていったのです。
お母様の筋力が衰えて寝たきりになったり、帯状疱疹を患ったりしたのも、病気の進行に伴うものであり、病院にいても、自宅に帰っても、ある時期が来たら同じ状態になっていたと思います。
そもそも、すい臓がんは初期の段階では自覚症状がなく、非常に見つけにくいがんです。余命を告げられたという点からも、「治すための治療」は困難な時期だったのでしょう。
たとえ早期であったとしても、ご高齢の方に手術は負担が大きく、抗がん剤治療も食欲低下などを考慮してあえて行わない選択をすることも少なくありません。
では、91歳のお母様にできる医療として何が重要かと言えば、痛みの抑制など、「苦しみを減らす治療」になります。
苦しくないこと、自分らしくいられること、ご家族と穏やかな時間を過ごせること――人が人として生きるための大切な要素です。つまり、苦しみを和らげる緩和ケアを受けながら、残された時間を過ごしてもらうのはとてもよい選択だと考えます。
気にされている吐き気は、薬の副作用だけでなく、がんによる消化管の閉塞から、あるいはストレスでも生じるもの。制吐剤(吐き気止め)の使用、食事の内容や姿勢の工夫、環境整備など、ホスピスではさまざまな対策が用意されていますので、遠慮せずに相談してみてください。
お母様やご家族が望めば在宅医療も可能だとは思われます。ただ、見守る家族は突発的な事態への対応など、緊張を強いられることも。
もし私が同じ状態になったら、迷わずホスピスに入れてほしいと告げるでしょう。ホスピスで心穏やかな日々を過ごすほうが自分も家族も幸せだと思うからです。

(イラスト:山崎のぶこ)
お母様の希望も聞いてあげましょう
ご相談のお手紙を拝見して感じたのは、すい臓がんと診断されて戸惑っていらっしゃるのは、お母様自身というより、むしろ相談者さんなのではないかということです。
とても悲しい現実ですが、どんな人にも死は必ず訪れます。その死という「ゴール」に向かい、いかに患者さんの希望に沿って穏やかにソフトランディングしていくか。それが高齢者医療に従事する者の使命だと、私は考えています。
「治す」ための積極的な治療と、高齢者の「生ききる」ための医療とでは、考え方も治療法も根本的に違うのです。ですから、まずは現在のお母様にとって何が幸せなのか、どんなことを嬉しいと感じるのかを、ご本人に聞いてあげてください。
私が勤務している高齢者病院で、入院中の男性患者さんにご家族が鰻重を届けられたことがありました。患者さんは終末期で口から食べられる状態ではなく、鰻をただ見ているだけ。私は、「なんて切ないことをするんだろう」「家族の自己満足では?」と感じてしまいました。
ところが、当の患者さんは、「皆で鰻を食べた思い出がよみがえる」「食べられないけど、思いやりが嬉しい」とおっしゃったのです。
それを聞き、私はハッとさせられました。そのご家族は、嬉しいときだけでなく、悲しいことがあって家族一丸となって頑張ろうというときも、鰻重を食べていたそうです。ご家族の思いがしっかり伝わって、患者さんも幸せを感じたのですね。
相談者さんもお母様が笑顔になれるように、家族だからこそできることを考えてみてはいかがでしょうか。花がお好きなら、自宅の庭に咲いている花をブーケにして持っていってあげるとか。
思い悩んでいるより、残された時間をいかにハッピーに過ごせるかを考えたほうが、お母様も相談者さんも幸せになれるのではないかと思います。
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