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仕事で自家用車を使うのが当たり前だった――。

パート勤務が決まり、初出勤した女性。しかし、職場では自家用車を「まあまあな頻度」で業務に使うよう求められたといい、保険や車両使用手当について質問したところ、会社側は「キョトン顔」だったとSNSで明かしました。

投稿では、ガソリン代は支給されるものの、事故時の保険対応や車の減価償却などについて十分な説明がなかったといいます。「今の状況では働けない」と退職を決めたそうです。

SNS上では、「営業車を用意しないの?」「自家用車を使わせるのは普通なのか」「事故が起きたら誰が責任を負うのか」といった疑問の声が相次いでいます。

会社が従業員に自家用車を業務利用させることに法的問題はないのでしょうか。仕事の問題にくわしい正込健一朗弁護士が解説します。

●自家用車でも社用車でも労災の対象だが…

前提として、会社が従業員の自家用車を業務に使わせて事故が起こったときの法的枠組み自体は、社用車と大きくは変わりません。

業務中の事故であれば、いずれも労災の対象となり得ますし、第三者への損害については、会社が民法上の使用者責任や、自動車損害賠償保障法上の運行供用者責任を負う可能性が極めて高いでしょう。

しかし、社用車と決定的に違うのは、保険や費用負担、管理です。

まず、保険について見ると、社用車であれば、車両本体や任意保険は会社負担が前提です。保険の補償内容も会社主導で設計されます。

一方、自家用車の場合、保険契約者は従業員本人であり、「日常・レジャー用」のまま実質的に業務使用されるケースも少なくありません。

その結果、目的外使用として保険金が支払われない、補償上限が低く重大事故で賠償額に大きなギャップが生じやすくなり、会社側に「自腹」リスクがあります。

逆に、事故による保険等級のダウンや保険料の増額、車両修理・買替費用などの負担は、従業員個人に偏りやすい点も、自家用車特有のリスクです。

●会社と従業員の負担はどう決める?

また、労働法からの観点から、費用負担の点も気になります。

社用車は維持費を含め会社負担が原則ですが、自家用車の業務使用では、ガソリン代・高速代・駐車場代、保険料の増額分、車両の減耗など、多くのコストについて「会社と従業員のどちらがどこまで負担するか」の設計が欠かせません。

ここで従業員に負担を求める部分は、労働基準法89条5号が予定する「食費、作業用品その他の負担」に該当すると考えられ、就業規則などであらかじめ整理・明示しておくことが望ましいでしょう。

加えて、仮に「事故を起こしたら一律〇万円を賠償させる」といった事前の取り決めがあれば同法16条(賠償予定の禁止)に抵触しますし、負担分を賃金から控除する場合は同法24条の全額払い原則との関係で労使協定の締結が不可欠となります。

●明確にしておきたい3つのルール

管理の点では、自家用車は本来プライベート利用が前提であるため、車検や日常点検、タイヤ・安全装備などの管理状況を会社がどこまで把握できるかが曖昧になりがちです。

しかし、業務に使用させる以上、会社には安全配慮義務の一環として一定の管理責任があり、事故時には「管理不十分」と評価されるリスクもあります。

また、飲酒運転や無免許運転、健康状態の把握などについても、使用者として一定の安全管理上の配慮が求められます。

以上見てきたように、人事労務の観点からは、社用車と自家用車の違いを踏まえて、次のルールを明確にすることが重要です。

(1)保険・補償の設計
(2)費用負担と就業規則
(3)車両管理・安全管理体制

会社にとっては法的・経済的リスクのコントロールにつながり、従業員にとっては過大な個人リスクからの保護につながります。

【取材協力弁護士】
正込 健一朗(しょうごもり・けんいちろう)弁護士
弁護士・社会保険労務士として、主に使用者側の労務問題に取り組んでいる。紛争案件だけでなく、セミナー・研修や社内規定整備・制度構築さらには企業文化醸成による予防法務にも力を入れている。経営法曹会議会員。
事務所名:正込法律事務所
事務所URL:https://shogomori.com/