決算会見を行うホンダの三部敏宏社長

写真拡大

上場以来初の「最終赤字」

 ホンダが発表した巨額の赤字決算に衝撃が走っている。「脱エンジン」を掲げたものの、上場以来初となる赤字転落をもたらしたのは、EV(電気自動車)関連の損失だという皮肉。旗振り役を務めた三部敏宏社長に対する“辞任要求”も社内で激しさを増しつつある。

 ***

 5月14日にホンダが発表した2026年3月期連結決算が波紋を広げている。最終損益は4239億円の赤字(前期8358億円の黒字)となり、1957年の上場以来、初の最終赤字に転落。三部敏宏社長に対する社内の不満は爆発寸前だ。

「三部氏は21年4月に社長に就任すると“脱エンジン”を掲げ、40年までに新車販売をEVとFCV(燃料電池車)のみにすると宣言しました。ところが第2次トランプ政権の誕生によって、主力の北米市場でEV優遇策が次々と廃止され、次世代EVの開発中止に追い込まれた。結果、計2兆円ものカネをドブに捨てる形になったのです。顧客ニーズや趨勢を見誤っただけでなく、周囲の反対の声を押し切りEVシフトを進めたトップの責任を問う声は高まるばかり。6月に開催予定の株主総会は大荒れ必至です」(自動車評論家の国沢光宏氏)

 一触即発の不穏な空気が漂う中、それでも社長の座にとどまり続ける三部氏とはどんな人物なのか。

決算会見を行うホンダの三部敏宏社長

「エンジニア出身とは思えない熱さとバイタリティー」

 1987年に入社すると、主にエンジンを中心に四輪車の研究・開発に従事。開発を担う子会社・本田技術研究所社長を経て本体トップに就く「王道のキャリア」(同社OB)を歩んだ。

 経済ジャーナリストの井上久男氏が言う。

「三部社長は自身について、“激動期に向いている方。プレッシャーに強く、安定した時代だとやる気が出ない”と社内では語っているようです。あるOBは、三部氏は“酒豪で、若い部下と議論しながら飲み明かすのが好きで、昔は夜の店まで付き合うことがあった”と話していました。これまでのホンダ社長とはちょっと毛色の違うタイプといえます」

 大手自動車メーカー幹部も、

ホンダはラグビーチーム(三重ホンダヒート)を持っていて、三部社長は付き合いのある経営者などを秩父宮ラグビー場などに誘って、一緒に観戦することも珍しくない。そんな時、彼は試合中もほとんど座ることなく、立ったまま大声で応援する。エンジニア出身とは思えない熱さとバイタリティーを持っていますよ」

「妄信的に突っ走る一面も」

 内外の批判を受け、三部社長も月額報酬の30%を自主返上(3カ月分)することを表明した。もっとも同社の有価証券報告書によれば、三部社長の年収は4億1700万円(25年3月期)に上る。「責任の取り方が甘い」との声は絶えない。

「周囲が制御できないことから、三部社長は社内で“暴れ馬”と呼ばれています。既存の価値観を否定し、挑戦を好む経営者で、良い時は改革を前に推し進めるものの、妄信的に突っ走る一面も併せ持っている。今回はその悪い面が出てしまった印象です。三部社長の求心力が社内で下がっているのは事実ですが、将来的にEVの時代が到来することは間違いない。その時には再評価されるかもしれない。ただトップとして、方針転換を決断するタイミングが遅きに失したのは批判されてしかるべきでしょう」(井上氏)

 関連記事【ホンダは4200億円赤字で内乱状態 はじまった「三部敏宏社長」下ろしのゆくえ】では、「三部社長おろし」の舞台裏と今後の展開について詳しく報じる。

「週刊新潮」2026年5月28日号 掲載