イラスト:銀杏早苗

写真拡大

「飲酒と生活習慣に関する調査」(令和6年:独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)によると、アルコール依存症が疑われる人の割合は全体の0.6%で、全国で約64.4万人と推測されています。アルコール以外にも「やめたいのにやめられない」さまざまなものへの依存症。こんなに食べたら体に悪いのはわかっている!それでも、やめない理由を探してしまう。坂田博美さん(仮名・岩手県・保育教諭・47歳)は、仕事から帰ると甘いものの誘惑に耐えられず――。

* * * * * * *

食べなければやっていられない!
忙しさのあまり自分を甘やかして

最近、さまざまなメディアで「ご自愛」という言葉をよく見るようになった。がんばっている自分を労わろう、という言葉だ。私の場合、それは甘いものを食べることだった。

朝はさほど忙しくない。夫と中学生・高校生の子どもふたりは、それぞれ朝食を済ませて出ていく。私は自分の職場のシフトに合わせて、身支度をして出勤。

しかし仕事が始まると、そこからは戦場だ。勤務先は保育園。常に動き回ることになる。お昼ごはんの時間になると、あっちでお茶をこぼしたと泣く子がいれば、こっちでは先生に食べさせてほしい、と床に寝そべってアピールする子もいる。

自分のご飯を口に入れたばかりの状態でトイレに呼ばれ、そのままお尻を拭いてあげることも日常茶飯事だ。園児がお昼寝をしたら、ようやくホッとひと息つける……とはいかない。持参した水筒のコーヒーを飲みながらパソコンに向かい、事務作業に没頭する。仕事仲間と談笑する時間すらない。

夕方6時ごろ帰宅すると、私はまず畳の上に倒れ込んでしまう。年齢的にも体力的にも、この仕事は限界なのだろうか。やがて低いうめき声をあげながら起き上がり、台所の食品棚からゴソゴソと菓子パンや煎餅を取り出し、むさぼるように食べる。保育園の給食は11時。この時間になると猛烈にお腹がすくのだ。

「そんなに食べたら、夕飯が食べられなくなる」と思うだろうが、実際そんなことはない。夕飯もしっかり食べられるのだ。もともと大食いではないけれど、日中に体を動かしているのでエネルギーを使いすぎて、帰宅後に恐ろしいほど反動が出てしまう。

家族と夕飯を食べ、お風呂に入った後、寝室に向かう私の両手は、お菓子と飲み物でふさがっている。夜10時、ここからがやっと私の休憩時間。お酒をたしなむ人たちがさきイカとビールで晩酌をしているとき、私はスイーツとカフェインレスコーヒーで1日を終えるのだ。

さらに寝室には、自分専用のお菓子ボックスが置いてある。中にはチョコレート、グミ、おからクッキー、干し芋、乾燥ナツメなど、ありとあらゆる甘味が。特別な日には、フロランタンなど大好きな焼き菓子も加わる。その日の気分でお菓子を選ぶのが、癒やしのひとときだ。

夜中になっても保育園の書類作りのほかに、町内会や子どもの学校のPTA向け資料作成など、寝る直前までやることが満載である。食べなければやっていられない。

さすがに糖尿病とか危ないかな。いや、まず虫歯だよね。でも、「ご自愛」だからしょうがない――と、自分で自分を許してしまう。

甘いものを食べたからといって、本当に疲れが取れるわけではないのは知っている。帰宅後に倒れ込んでしまうのは、糖分の摂りすぎで疲れやすくなっているのではないか、とも思う。

食べた後は一瞬だけ元気になる気がするが、まやかしに過ぎない。お酒好きな人が風邪を引いた時に、「アルコールで消毒だ」と言うのと同じ類いのへりくつだ。しかし、「ご自愛」を真に受けている自分には、背徳感も罪悪感もなかった。

寝る前には当然歯磨きをする。ただ、どんなに念入りに磨いても、つい5分前まで口の中を満たしていたチョコレートの油脂はそう簡単には落ちず、専用ブラシで磨いたはずの舌もうっすら茶色い。

わが子がこんなことをしたら絶対にゆるさないだろうに。どこまで私は自分に甘いのか。誰からも注意されないまま、こんな生活がしばらく続いていた。

久しぶりの歯科通いで大後悔。
子どもたちには虫歯がないのに

ある日、ついに現実を突きつけられる出来事が起きたのである。夫が買ってきてくれたカヌレを前歯でかじった時、「ガリッ」という嫌な音がして私は口から飛び出したものをあわてて受け止めた。

手のひらに差し歯が転がる。20年前に作ったものだから、劣化したのだろうか。近所の歯科に駆け込むと、すぐに処置してくれたので助かった。だが、先生は言う。

「全体的に歯が汚れていますね。歯医者に来るの、久しぶりなんじゃないですか?」「はい……」。たしか最後に行ったのは3年前だ。それほどご無沙汰している感覚はなかったが、いつの間にか何ヵ所も虫歯になっていた。

さらには歯茎が衰えて歯間が広がり、食べかすが挟まりやすくなっているらしい。その日は念入りに歯磨きの指導を受けた。

帰宅すると、あちこち虫歯になっていた事実に、恥ずかしさと情けなさで力が抜ける。思えば夜遅くに甘いものを食べても、疲れているからと歯磨きも適当になっていたのだろう。一日の終わりは目を開けて立っているのもやっとだ。だったらお菓子なんて食べないでさっさと寝ればいいのに。

歯科通いはその後、数ヵ月に及んだ。奥歯の治療は本当につらい。麻酔をしているとはいえ、脳天を突き抜けるような痛みを感じる。長時間口を開けるので喉が乾き、唾を飲み込めず悶えることもあった。見上げるとライトの向こうに、「自業自得」の文字が見えるような気がする。いや、書道家の武田双雲先生が書く文字ぐらいはっきりと見えた。

いまや私の奥歯は、上下左右すべて銀歯だ。私がこんななのに、いつもぼりぼりとスナック菓子を食べている上の子には虫歯が1本もない。甘い飲み物が好きな下の子には虫歯が1本あったが、それも2回の通院で完治した。私は5回通ってもまだ終わらない。保育園の園児やわが子の教育の前に、まず自分を省みなければならないだろう。

こんなことになってしまっては、もう夜にお菓子を食べる生活は続けられない。では、私はいつ甘いものを食べればいい? 朝、大量に食べて、夜は食べない。いや、違う。仕事終わりのご褒美として食べるからおいしいんじゃないか。週末だけ食べる……無理だ。それだけじゃ耐えられない。

そうだ。コンビニのスイーツがどんどん進化して美味しくなっているのと同じく、デンタルケア用品もどんどん進化している。それを片っ端から試していこう。

丁寧に歯磨きをすることに加えて、着色汚れを落とすスポンジやフロスなど、いろいろなグッズを買いそろえた。悪いのは歯だけなんだ。何か大変な病気になったわけじゃないから、きっと大丈夫……。

そう、私の中に「食べない」という選択肢は存在しない。

依存症かな?と思ったら…

坂田さんはご自愛スイーツをやめられず、ひとまず虫歯をなくすことに気持ちを向けています。

「やめたくてもやめられない(コントロールできない)」状態になっている人は注意が必要です。

「依存症」は特定の物質や行動をやめたくてもやめられない(コントロールできない)状態となっている状態を言います。依存症は病気の一つであり、適切な支援や治療を受けることが重要です。

「(家族や知人、自分が)依存症かもしれない」と思ったら、保健所や精神保健福祉センターに相談してみましょう。

<依存症に関する詳しい情報はこちら>

●依存症についてもっと知りたい方へ(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000149274.html

●依存症(こころの情報サイト)
https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=819yAWLAzXBx5XZ5

●依存症対策全国センター
https://www.ncasa-japan.jp/

※婦人公論では「読者体験手記」を随時募集しています。

現在募集中のテーマはこちら

アンケート・投稿欄へ