「奇跡が起きた」と親も驚いた…障がい者を正社員として401 名雇用する企業があった「これは弱者救済ではない」
障がい者雇用と聞いて、どんな光景を思い浮かべますか? 「弱い立場の方をサポートしてあげる」「社会貢献のために雇用枠を作る」。そんな福祉的なイメージを根底から覆す企業があります。食品トレー容器の国内シェア約3分の1を誇る株式会社エフピコ。その特例子会社であるエフピコダックス株式会社では、障がいのある従業員たちが主軸となってリサイクル工場のラインを支えています。重度知的障がいのある方も「正規雇用で8時間働く」、一般企業とは一線を画す同社の取り組みとは。
【写真】はやっ!大量のトレーを高速スピードでふりわける障がい者の従業員の仕事っぷり(全8枚)
40年前から障がい者を「一人前の戦力」として雇用
ベルトコンベアーの上を猛スピードで流れる、無数の使用済み食品トレー 。それを超人的な速さで選別していく従業員たちの姿に、初めて工場を訪れた人は圧倒されます。彼らの多くは障がい者で、なかには、「文字の読み書きができない」「男女の区別がつかない」といった、重度の知的障がいがある人も。しかし、ひとたびラインに立てば、彼らは健常者をはるかにしのぐ集中力を見せます。
ここエフピコダックス茨城選別工場で選別された使用済みトレーは、エフピコグループでのトレーのリサイクルに利用されます。いわば、グループの生産の基幹部分を彼らは担っているのです。エフピコグループが40年前から貫くのは、障がいの有無に関係なく、「会社の大切な人財、戦力として雇用する以上は、当たり前に職責を担ってもらい、当たり前の給料を払う」という雇用の哲学です 。
「当グループで働く障がい者のうち約7割が重度知的障がいに区分されます。その障がいの特性は百人百様ですが、皆さん当たり前に当社の求める働きをして、食品用トレー生産の重要な過程を担っています。その働きぶりは、障がい者本人をよく知る親御さんが『奇跡が起きた』と驚くほどなんですよ」
そう社長の岩井久美さんは説明します。エフピコグループの障がい者雇用の歴史は、40年前にさかのぼります。当時、千葉県で知的障がいのある子を持つ親の団体「あひるの会」が、「わが子が働ける場所がほしい」と多くの企業に打診を続けていました。そのとき、出会ったのがエフピコの創業者である故・小松安弘氏だったのです。
「社会貢献や弱者救済をしたいわけではありません。本当にちゃんと戦力として働いてくださるなら雇います」──小松氏がそう答えたのが、エフピコの障がい者雇用の原点となりました。
その後、エフピコグループは特例子会社(障害者雇用促進法に基づいて、障がい者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定要件を満たす場合に、厚生労働大臣の認定を受けることで、その子会社の障がい者雇用数を親会社の雇用数として合算できる制度)の「エフピコダックス」を中心に障がい者雇用を拡大し、現在ではグループ全体で401名の障がいのある方を正社員として雇用しています。
「就職浪人する人も」採用基準は意欲と体力
多くの障がい者が活躍しているエフピコダックスは、障がいのある本人や家族が「ぜひ入社したい」と願う憧れの会社で、入社できるまで何年も待ち続ける「エフピコ浪人」をする人も。それだけに選考基準が厳しいのでは──「狭き門」というイメージが先行している同社ですが、岩井さんはきっぱりと否定します。
「採用枠がなかなか出ないのは、退職する方が極めて少ないからです。実際の選考基準はかなり大らかなんですよ。文字の読み書きや計算などの知識や技能より、面接で重視するのは本人の『働きたい』意思表示と1日8時間の立ち仕事に耐えられる体力があるかどうかです。そこがしっかりしている方は採用につながりやすいですね」
さらに意外なのが、「お金のことがわかる(意識できる)」点を重視していることです。
「面接でご本人が『給料はいくらですか?』と聞くと、同伴する親御さんは恥ずかしそうにするんですが、うちとしてはそのフレーズが出たらほぼ採用です。お金への思いはモチベーションの根幹になりますから。仕事は大変ですが、どんなにしんどくても、給料をもらっている、もらったお金で好きなものが買えると思ったら踏ん張れるものです」
「本気で褒めて叱る」でお客様扱いしない
日々、従業員を見守っている課長の中村広太郎さんは、入社して最初の3か月をどのように乗り越えるかが大切だと言います。
「立ち仕事ですから、慣れていない方は数時間もすると腰を抑え、うずくまりたくなります。それが毎日続くわけですから、1か月目で体力的に厳しくなり、2か月目は精神的にきつくなり、3か月目に両方が重なってくる。それを乗り越えると、その後はスムーズに定着していくことが多いので、最初の3か月で社員として働くことの厳しさや楽しさをいかに理解してもらうかが重要になります」
仕事を覚えるまでの教育について岩井さんは、「最初のうちは、泣いたり暴れたり逃げたりする人には、ヘレン・ケラーのサリバン先生のように手取り足取り教えることもあります。ただ、『これはあなたの仕事ですよ』『あなたが必要だから雇用している』『あなたが会社を支えるんだ』という話を、障がいが重度であっても繰り返し伝えていけば、伝わって、高い意欲で仕事に挑んでくれます」と、話します。
仕事を覚えた後も、接し方を工夫しています。たとえば、ほめるとき。「よく頑張ったな」と言って、肩をポンと叩くコミュニケーションでは伝わりません。「すごいじゃん、よう頑張ったな、ありがとう!」と、明るく大きな声でダイレクトに。怒るときも「もういい」は禁物。相手に「もう(頑張らなくて)いいんだ!」と、誤解されてしまうからです。表情豊かに、わかりやすい単語をつないで伝えるよう心がけています。
「勤続40年の障がい者も」定着率98%超えの源とは
近年は「新入社員がすぐに辞める」ことが話題になっていますが、エフピコダックスの従業員の就職後1年後定着率は98%超え。勤続年数10年以上の障がい者の割合は6割を超え、最長で勤続40年の方もいます。なぜ、それほどの定着率を誇るのか。岩井さんの答えはシンプルです。
「会社が利益をあげるために必要な仕事に就いてもらって、それに見合ったお給料をきちんと払う。そんな当たり前のことをやっているだけです。やってもやらなくてもいい仕事を与えられても人は頑張れません。それは健常者も障がい者も同じですよね」
厚生労働省によると、日本では現在、障がい者が約1160万人いて、人口の約9.2%にのぼります。その家族など深く関わる人を含めると、実に人口の約3割が障がい者と深く関係していると考えられます。
「重度の知的障がいがあっても、これだけ働けるのです。人口減少が進むなか、企業にとって障がい者は貴重な戦力になり得るのです。社会としても、障がいがあるからと一律に社会保障費で支え続けるのではなく、働ける可能性がある方々には活躍してもらうことが重要なのではないでしょうか」
「障がい者雇用」という言葉が特別なものでなくなる日に向けて、エフピコダックスでは今日も障がい者が懸命に仕事と向き合い続けています。
取材・文:鷺島鈴香 写真:エフピコダックス株式会社

