「育児で苦しい時に…」ある母の悲痛な叫び「育児は幸せなだけじゃない」と痛感した男性の「孤独」をなくす挑戦
「育児で苦しい時に、救急車のようにすぐ来てくれるサービスがあったら」。SNSでそんな投稿を見たことをきっかけに、24時間365日対応の育児支援サービスを立ち上げた石黒和希さん。サービスには、自身も2児の親として子育てのつらさを味わったことが大きく関係しているそうです。
【写真】寝かしつけに、夜中のミルク…「誰か助けに来てと思った」という育児の様子(全13枚)
「育児にも救急車のようなサービスがあれば」
── 24時間365日、ベビーシッターがかけつけてくれる育児支援サービス「育児119」。誕生の背景には、石黒さんがX(Twitter)で見かけた投稿が大きく関わっているそうですね。
石黒さん:3年ほど前、あるお母さんがポストしていた「自分が苦しい時、助けてほしい時に、駆けつけて助けてくれる救急車のようなサービスがあったらいいのに」という投稿を見た時に、雷が落ちたような感覚を覚えたんです。「そんなサービスが世の中に普及したら、孤立している家庭を助けられるかもしれない」と。できるできないではなく、「自分がやらなければ」という使命感にかられてサービスを始めようと決意しました。
── そこまで使命感を感じたのはどうしてですか?
石黒さん:私は2児の父親なんですが、上の子どもの誕生をきっかけに育児のなかで気がついたことや経験談をインスタグラムに投稿していたんです。当時はただの会社員で、起業したいとかフォロワー数を増やしたいなどの明確な目標もなく日記に近い形でした。ただ、ちょうど男性の育休が推進され、イクメンなどの言葉が出てきたタイミングで、時代の背景とマッチしたのかだんだんとフォロワー数が増えていきました。
すると、フォロワーの方からメッセージで育児の悩みが届くようになったんです。「頼る先がなく、毎日ワンオペで苦しい」「助けてほしいけど、助けてもらえる人がいない」「消えてしまいたい」と胸が痛くなるようなメッセージが多い時は1日に10件くらい届いていました。
それらのメッセージに返信をしているうちに、子育てのなかで孤立しているお母さんの多さに気がつき、これは社会課題なのではないかと思い始めていました。そんなとき、先の投稿を見かけて「こんなサービスなら、メッセージをくれたお母さんたちのような保護者を助けられるかもしれない」と強く思ったんです。
「会社の制服捨てたから」妻なりの激励
── 育児119のために、当時勤めていた会社を辞められたそうですね。小さなお子さんを抱えての起業に、葛藤はありませんでしたか?
石黒さん:使命感でいっぱいだったので、迷いはなかったですね。ただ、当時はちょうど下の子の出産間際でした。妻に「なんで今なの?」と止められるのではと。実際、妻に打ち明けたら「1日考えさせてほしい」と言われて。
ただ、次の朝に妻から、当時の会社の制服を「捨てたから」と言われたんです。最初は何を言っているのか理解ができず、頭が真っ白になりました。制服がないと出勤できない。これは妻からの「会社員はやめて、その道でやっていきなさい」というメッセージだと気がついた時、この人は肝が据わっているなと心強く感じました。
── 奥さんからのエール、素敵ですね。
石黒さん:理解して、信じてくれた妻には感謝しかありません。なんとしてでも成功させて妻を安心させたいとも強く思いましたね。それで、「3年やって花が咲かなかったらあきらめて、安定した仕事について父親としての責任を果たす」と約束しました。ちなみに制服は捨てずに隠してありました(笑)。
「人を頼るのはよくない」支援サービスも頼れず
── 石黒さんは育休をとり、積極的に育児をしていたそうですね。ご自身は何か育児支援サービスに頼っていましたか?
石黒さん:いえ、実はまったく利用していませんでした。当時の自分たちには、育児支援サービスに頼るという選択肢がそもそもありませんでした。ベビーシッターや行政のサポートなども、存在としては知っていたかもしれませんが、「自分たちが使うもの」としてはまったく想像できていなかったんです。
子育ては家庭の中で何とかするもの、という感覚が自然とあって、誰かに助けを求めることや、外部のサービスを使うことまで考えが及びませんでした。だからこそ今振り返ると、「あのとき頼れる選択肢を知っていたら、もっと違っていたかもしれない」と思います。
── SNSに届くメッセージで孤立したお母さんたちの大変さを痛感したとおっしゃっていましたが、石黒さんも大変だったのではないでしょうか。
石黒さん:ひとり目のときには、深夜のミルクを妻と日替わりで担当していましたが、お互いに睡眠不足になり、精神的につらい時期が続きました。ふたり目のときには妻が腰を痛めてしまい、出産後の育児はほぼ私が担当していて。ひとりで2人の子どもを見ているとだんだんと追い詰められて自分の調子も悪くなり、「誰か助けに来てくれないかな…」とずっと思っていたんです。
子どもが生まれるまで、「育児は幸せなことだ」と私は信じていました。でも、自分が子育てをする番になって、「育児は幸せなことだけではない」と痛感しました。
「孤独な子育て」をなくしたい
── 育児中の家庭が孤立してしまうのには、どんな原因があると思いますか?
石黒さん:日本ならではの「家庭のことで誰かを頼ること」へのハードルの高さや、お金を使って余白の時間を作ることへの罪悪感が根底にあるのではと思っています。また、現在は父親の育児参加も進んでいますが、「育児は母親ひとりでやるもの」という概念がまだ強いのではないでしょうか。そのため、ひとりで抱え込んでしまうお母さんが多いのだと思います。
── 育児119は「孤独な子育てをなくす」を理念にしていますね。
石黒さん:我々はお子様だけでなく、保護者の心も守りたいと思っています。育児119は、生後0か月から小学6年生のお子様がいるご家庭の「今助けてほしい」というニーズに応えるため、家や外出先にベビーシッターの「頼ってさん」を派遣するかけつけサービスと、電話相談を行っています。かけつけサービスは最短1時間でかけつけ可能で、家事代行や病児育児は対応していませんが自宅や外出先での保育や沐浴補助など、保護者の方の希望に合わせた支援を行っています。
現在、かけつけサービスは東京・神奈川をはじめとした6都道府県のエリアのみの運営ですが、ゆくゆくは47都道府県で展開し、日々育児に奮闘する保護者のみなさんの心のお守りのようなサービスになりたいと考えています。
取材・文:阿部祐子 写真:石黒和希

