SNS時代にコーチは何を教えるべきか 日ハムから転身の高校野球監督が説く…伝えるのは“現実”
SNSにあふれる技術動画…高校野球の指導者はどう付き合えばいい?
この春、異色の高校野球部が活動を開始する。有名予備校を運営する四谷学院(東京)が、茨城県に校舎を持つ広域通信制高校に硬式野球部を創部するのだ。2026年夏の選手権から、甲子園を目指して戦う予定となっている。監督に就任したのは、プロ野球の日本ハムで昨年まで15年間、選手教育ディレクターを務めた本村幸雄氏だ。プロの世界で感じた、指導者に求められる資質の変化とは。
本村監督がプロ野球と関わった期間は、選手に対するコーチの役割が大きく変わった期間と合致する。野球のあらゆる部分がデータとして示されるようになり、選手はSNSやユーチューブで技術動画をいくらでも見られるようになった。情報収集の感度で、選手がコーチの先を行くことも出てきた。その中でどう成長に導けばいいのか。プロもアマも関係なく、多くの野球指導者が突きつけられている問いだ。
本村監督も「それこそ、コーチの今後の役割を考えていかなければと思いました。以前は、コーチが技術から何から色々教えてくれましたが、今は選手が自分で情報を取れるようになったので」と言う。
気付いたら、選手が意図しない方向に進んでいたというコーチの悩みを聞くことも増えた。そんな球界の変化を本村監督は「情報を取れる能力は大切です。ただそこに『マルバツ』を付けられる選手でいてほしい」と受け止めている。「何でも信じるのではなく、これで良いのかという答え合わせを選手とコーチがするようになっていくのでは」というのだ。
本村監督は日本ハムでは、現場で指導に立ったわけではない。ただ選手と指導者、両方の声が聞こえる立場にあった。そこから導き出す新たな指導者像は「それちょっと違うんじゃないかとか、アドバイス的なサポートを送るというのか、全て教えるのではなく、そういう風に変わっていかなければと思います」。ただ、教えなければいけないこともある。試合中の“現実”だ。
SNSでの情報収集も当たり前に…重要になる「マルバツをつける力」
「試合は速いボールを投げる、打球を遠くへ飛ばすというだけじゃない。SNSでは試合の運び方や作戦といった、数字に表れないものは教えてもらえません。コーチは現実を教えてあげるという分業が、進むかもしれません」
現代の選手は、いかに情報をつかめるかで成長に差がつくこともある。自分で立てた目標に向かって進んでいく“自立型”の選手を志向するならなおさらだ。ここで見極めないといけないのは、取った情報が自分に合うのか、合わないのか。これについて本村監督は、最初から頭ごなしに止めるのではなく、やらせてみればいいという。
「そんなの信じることはない、とただ止めるのではなく、一度試して何か合わないよなと感じさせる。そこでじゃあどう改善すればというのが、コーチなりトレーナーなりの出番です。選手にはマルバツをしっかりつけさせれば良いんです」
本村監督がかつて、光明相模原高(神奈川)を指導した当時に出会い、日本ハムに導入した目標達成ツール「原田メソッド」には、この練習も含まれているのだという。目標と達成までのルートを考え、1日を振り返って日誌をつける。その際、やるべきことに対し「できた、できなかった」を判定してマルバツをつけていくのだ。
「いろんなことに対して、やりっぱなしにしないということ。情報も取りっぱなしではダメ。合わなければバツをつけて、また違った方法を考えないと」
四谷学院高では、伴走する指導者にも万全の体制を敷く。阪神の村上頌樹投手や、ヤクルトの青柳晃洋投手を指導した内田幸一トレーナーが学校に常駐。球速の上昇などで、より高いフィジカル能力が求められるようになった高校球界に対応していく。選手と指導者の新たな関係が、野球そのものまで進化させる。
(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)

