世界的ヒット「スラムダンク」聖地の“踏切”に観光客が殺到…オーバーツーリズムを回避する単純明快な方法とは
第1回【キャラソングに“英語の歌詞”、「JAL」とのコラボ企画も…人気アニメが牽引する「聖地巡礼ビジネス」の最前線に迫る】からの続き──。2025年、日本のオーバーツーリズム(観光公害)問題は新たな段階を迎えている。訪日外国人旅行者数が年間4000万人を突破する見通しとなる中、一部の観光地では受け入れキャパシティを超える事態が常態化している。(全2回の第2回)【河嶌太郎/ジャーナリスト】
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【写真】ポップや等身大パネル、さらにはマンホールまで! 「聖地巡礼」を盛り上げる“キャラクター展開”実際の様子
特に深刻なのが京都だ。2024年の市内観光客数は約5606万人に達し 、清水寺や嵐山といった人気スポットでは混雑が慢性化している。特筆すべきは宿泊客の構成変化で、京都市の外国人宿泊客が前年比53%増の821万人となり、14%減の809万人となった日本人宿泊客を初めて上回った。

「日本人の京都離れ」が進行し、修学旅行先から京都を外す学校も出始めている。交通面では、地下鉄が2路線しかない京都では市バスへの依存度が高く、観光客の急増が混雑をさらに深刻化させている。
富士山では、2024年から登山者数制限(1日4000人)と通行料徴収(2000円)が導入され、2025年も継続されている。2024年の登山者数は前年比17・2%減の約13万3千人となり、弾丸登山も95・1%減少するなど一定の効果が確認された。
鎌倉では江ノ島電鉄(江ノ電)の混雑が深刻化し、2025年のゴールデンウィークには沿線住民を優先的に入場させる社会実験を実施している。
「聖地巡礼」によるオーバーツーリズムの代表例が、江ノ電・鎌倉高校前駅前の踏切だ。ここは人気漫画「SLAM DUNK(スラムダンク)」のTVアニメのオープニングに登場したことから、「聖地」として観光地化していった。「スラムダンク」は東アジアを中心に海外人気が高く、この踏切を訪れる人の多くは中国系の観光客だ。
警備員増員でも残る課題
この場所は「スラムダンク」以外のロケにも使われることが多く、コロナ禍前からオーバーツーリズムが問題視されていた。コロナ禍終了後の海外旅行解禁に加え、2022年12月に公開された映画「THE FIRST SLAM DUNK」が全世界の興行収入が約400億円に迫る大ヒットとなったこともあり、観光客が再び急増している。
その影響は数字にも表れている。2024年度の江ノ電の混雑率は146%に達し、前年度(2023年度)の約1・47倍まで上昇した 。この問題に対し、鎌倉市と江ノ電は2017年から費用を折半する形で警備員を配置し対処してきた。2025年9月13日から16日にかけて、警備員を増員し、鎌倉高校前駅にある腰越ラッコ公園へ観光客を誘導する実証実験を実施した。
これにより近隣住民から「通行がスムーズになった」と好評を得たため、10月から警備員を従来の2人体制から5〜7人体制へと増員した。特に中国の国慶節(建国記念日)期間中の10月1日から8日までは最大7人体制とし、その後も最低5人体制を2026年3月末まで維持する方針だ。
しかし、警備員増員後も課題は残る。国慶節初日の10月1日、踏切前の撮影エリアには一度に80人以上が詰めかけた。警備員7人が「道で撮影しないで」「公園に入って」と強い口調で注意したが、観光客と言い争いになる場面も見られた。
オーバーツーリズムに配慮した映画版
中国のSNS上でも「鎌倉は中国人が多すぎる。来るんじゃない」という投稿が拡散されるほど混雑が深刻化している 。このように、江ノ電・鎌倉高校前駅前の踏切では中国人による観光公害が目立つ。
一方で、製作側はオーバーツーリズム打開に明確に配慮している。先述の「THE FIRST SLAM DUNK』では、江ノ電の踏切だけでなく、江ノ電そのものが一切登場しなかった。
代わりに舞台を西へ4キロメートルほど離れた藤沢市の鵠沼海岸や辻堂海岸へ移し、そこでの場面が描かれた。鎌倉高校前周辺は傾斜地の住宅地で道路も狭く、人が一点に集まってしまう問題があるが、鵠沼海岸や辻堂海岸であれば広大な平地であり、オーバーツーリズムの問題が起こりづらい性質がある。
だが、特に中国人観光客の間ではこの江ノ電の踏切が「日本に来たら訪れるべき場所」として広まってしまっており、この映画の配慮とは関係なく、「スラムダンク」を観ていない人でも多く訪れているという。一方で、中国政府の渡航自粛勧告により江ノ電踏切のオーバーツーリズムは急激に改善に向かっていると評価する向きもある。
また、江ノ電踏切の例はアニメの「聖地巡礼」においては特異な例と言える。自治体や企業などが主導する大半の例では、基本的に1カ所に人が集中しないような配慮がなされている。
一極集中を防ぐ
例えば先述の「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」のロケ地マップでは、沖縄で本島内50カ所、京都・大阪・神戸で計88カ所を公式に取り上げている。
この中には、オーバーツーリズムで話題となる京都の清水寺や八坂の塔周辺も入ってはいるものの、それは作品の舞台のうちほんの一部だ。「聖地巡礼」する人はこれらの舞台をばらばらに、大阪や神戸も含めて探訪するため、江ノ電踏切のように1カ所にファンが集中する構図が起こりづらい。
愛知県豊橋市の「負けヒロインが多すぎる!」でも、市内回遊施策として展開する「豊橋まちあるきスタンプ」では31カ所にスタンプを設置しており、一極集中を防いでいる。佐賀県を舞台にした「ゾンビランドサガ」ではさらに規模が広がり、県内全域を回遊させる施策をとっているため、より局部集中しづらい形になっている。
中国の渡航自粛によって国内の宿泊料金相場が下がる動きもあり、オーバーツーリズムも一時的に改善傾向にある動きもある。しかし中国を抜きにしても、日本が魅力的な観光地であることには変わりがなく、2026年も世界中から過去最高ペースの旅行者が見込まれる。オーバーツーリズムが今後の国内課題であり続けることは必至だ。
観光業界の課題
オーバーツーリズムに対し、国も本格的な対策に乗り出している。政府は2023年10月に「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を決定。これに基づいて観光庁は、全国の先進事例・ノウハウを事例集として取りまとめるなど自治体支援を強化している。
具体的には混雑状況の可視化や「手ぶら観光」の推進、マナー啓発といった個別の施策に加え、地域住民と協働した持続可能な観光地づくりを促すなど、課題解決に向けた知見の横展開を図っている。一過性のブームや外部要因による変動に左右されず、地域と観光客が共存できる環境を整えることが、2026年以降の観光業界の課題となるだろう。
オーバーツーリズムを防ぐ配慮のもと、「聖地巡礼ビジネス」が成功しているのは東京だけではない。佐賀県や愛知県豊橋市の成功例を第1回【キャラソングに“英語の歌詞”、「JAL」とのコラボ企画も…人気アニメが牽引する「聖地巡礼ビジネス」の最前線に迫る】で詳細に報じている──。
註:引用したデータなどは以下の通り
https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/cmsfiles/contents/0000341/341863/R6hodo.pdf
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF111GD0R10C25A6000000/
https://news.railway-pressnet.com/archives/78888
https://www.kanaloco.jp/news/social/article-1211902.html
https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kisya/data/2025/20250926-2.html
https://www.kanaloco.jp/news/social/article-1211902.html
https://www.recordchina.co.jp/b962758-s25-c60-d0190.html
河嶌太郎(かわしま・たろう)
1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。
デイリー新潮編集部
