「英語を話せない移民」を受け入れたら大失敗…爆増する生活保護費に苦しむイギリスの後悔
※本稿は、谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない7』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を再編集したものです。

■ついに政府が認めた「移民政策の失敗」
イギリスでは2025年にスターマー首相が新たな移民政策を発表し、国内では大変な議論となりました。
労働党政権が発表した「移民白書」が驚かれたのは、なんと「低技能移民の流入が労働市場を歪める可能性が高く、移民のバランスと構成が極めて重要である」と述べ、イギリス政府が近年の移民政策の失敗を「公式」に認めたことです。
イギリスでは2000年以降、移民には前向きで、とくに労働党は移民政策の失敗は絶対に認めてこなかったので、これはイギリス政府だけではなく労働党が党の方針を大転換したことになります。
新たな移民政策は、イギリスにやってくる移民が永住権や市民権=国籍を取得して「新たな定住者」になるのを困難にするとはっきり明言している点も重要なポイントです。
■市民権取得への壁がさらに高くなった
「新たな定住者を減らす」という点で強調されているのが市民権取得の厳格化です。
これまではイギリスに永住権や就労許可で5年間居住していれば申請できた市民権は、10年間の居住が必要になります。
日本は現在5年間なのですが、それに比べるとはるかに厳しい条件になるわけです。
しかもイギリスは以前より市民権を得るには、英語試験に合格し、「Life in the UK Test」というイギリスの歴史や社会に関する試験に合格しなければなりませんでした。これは実は現政権ではなく保守党政権のころに決まったことなのですが、当時のイギリスでも「差別的だ」として大議論になりました。
ちなみに私も永住権申請にあたり、「Life in the UK Test」を受けていますが、教科書自体がけっこうむずかしく、イギリスの大卒文系程度の英語力は必要になると思います。中世の歴史からパブの入店年齢、議会の仕組みなどけっこう細かいことを聞かれます。
■ビザ申請者の家族も高い英語力が求められる
またイギリスではこれまで人手不足のために比較的寛容だった熟練労働者のビザの取得もむずかしくなります。
ビザの取得には高い給与基準または大学院レベルの資格が必要になり、申請者とその扶養家族もイギリスの大学入学レベルの英語力が要求されるようになります。
現在の中学卒業程度のレベル(「GCSE=ジー・シー・エス・イー」という全国統一の中学卒業認定試験合格と同等)に比べると要求レベルが恐ろしく上昇するわけです。
また介護職に従事する外国人のビザ発給も停止することになりました。
介護人材は常に不足しているため、いったいどうやって労働者を確保するのかと業界や高齢者、家族から大変な批判の声が上がっています。ちなみにイギリスの介護士はその多くが外国人です。
■都市部の低賃金労働者は外国人だらけ
このような厳しい政策の背景には、コロナ後にもイギリスへの移民の流入が止まらず、移民がイギリスのEU離脱の前よりも増えてしまった現実があります。
EU離脱の前は、EU国籍者はイギリスで働いたり、住むのにはビザを取る必要がなかったので、EU新規加盟国の東欧の人たちが低賃金労働に従事していました。

都市部だとレストランやホテルの従業員、清掃員、建築作業員だけではなく、医療関係者や介護士、店員などサービス業や“手に職系”の仕事の人のほとんどが外国人ということが多いです。
とくにEU離脱の前に多かったのがポーランドの人で、バルト三国やハンガリー、チェコといった東欧の人が多くを占めました。東欧の人々はその多くが大卒で英語をはじめとする複数の言語が流暢、働き者で母国で職業訓練を受けているので優秀な人が多いのです。またソフトウェア開発やシステム運用なども東欧の人が集まっていました。
2004年から2021年のポーランド人の人口は81万人あまりになり、EU出身者の21%でトップを占めていました。2位がルーマニアの55万人で14%、3位がアイルランドで10%です。
しかしEU離脱後はビザ取得のむずかしさや母国の経済状況向上で多くが帰国してしまいました。とくにポーランドは近年景気が良くなってきたので、物価が高くビザ取得も面倒くさくなったイギリスを後にした人が相次いでいます。
■EU離脱の影響は予想以上に大きかった
イギリス国家統計局によれば、EUからの移民はピークであった2016年3月には28万人でしたが、EU離脱後に急速に減り始め2022年12月にはマイナス5万人になっています。つまり移民してくる人より出ていく人のほうが多くなった、ということです。
またEUの人はイギリスのEU離脱の後にも引き続き在住して働くビザを申請できたのですが、2021年から2023年の間に就労許可を取得したEUの人はたったの7万5千人です。しかもその中には短期滞在の季節労働者も含むのでイギリスに引き続き残ることになったEUの人はさらに少なくなります。
またEU圏の外国人の多くはピーク時の2019年には事務やサポート業務に従事する人が47万人、飲食やホテルなどのサービス業が38万人、小売が33万人、製造業は30万人、医療が22万人、専門職や科学が18万人、教育が16万人、ITが9万5千人、建設業は8万人、金融が6万人と大変な数だったのです。
その膨大な人々が帰国してしまったので人手不足になるのは当たり前です。
■英語ができない移民が働いた結果…
人手不足に直面したイギリスは非EU国からの低技能移民を採用しました。
2022年には、高卒以下の外国人労働者へのビザは1万6千件でしたが2023年には3万件近くになり、2022年には3万7千人に発行されていた介護職のビザが2023年には10万件に激増。介護士の扶養家族向けビザは31万件にも及びます。
つまり介護士を10万人呼び寄せたら、家族も来たので合計で41万人もの移民のほうが来てしまい、扶養家族の数が3倍近いという状況になってしまったのです。
介護士の多くはナイジェリア、インド、ジンバブエなど途上国の人に入れ替わっています。英語が通じるのですぐに働いてもらえるうえに、旧植民地なので現地の医療資格の仕組みがイギリスと同じなために教育体系も近いので訓練があまり必要ありません。
しかし、もちろん英語が得意でない人もなかにはおり、高学歴でも文法や語彙がめちゃくちゃだったり、理解力に問題がある人もいます。そうなってくると現場では事務処理や医療処置の事故が起こります。
■アフリカ系、インド系の文化が一気に広がる
それでも以前はブルガリアやポーランド、バルト三国の介護士のほうが多かったので大きな変化です。地方に行くと介護士はイギリスの白人のことも多く、うちの義父の介護士さんも代々地元に住んでいる白人でしたが、ロンドンなどの大都市や郊外はカリブ海系、東欧系、アフリカ系、インド系だらけです。
たしかにEU離脱後には町中にはアフリカ系やインド系の食材店が急激に増え、その家庭が増え、学校の生徒もとくにナイジェリアやインドの子どもが激増しているのです。我が家の近所の食材店やレストランも、パブや東欧系の店は潰れ、その少なからずがナイジェリア系の店に変わってしまいました。
またランクの低い大学へ留学する外国人のビザは2021年から2023年には49%増加しましたが、世界ランキング100以内のイギリスの大学に留学する学生のビザは7%の減少でした。EUからの学生も減っています。
これも明らかに途上国からの低賃金労働者の流入ルートです。

■移民・難民を支援するコストが増加中
しかもここ最近、イギリスの有権者は生活保護を受ける移民が激増した件で激怒しているのです。イギリスでは福祉手当を受ける移民が過去3年で倍増し、月に20億ポンド(約4000億円)を超えており、今やイギリスの福祉手当の6分の1に該当。政府がカットを予定していた高齢者向けの冬季燃料費支援費用よりも多くが出費されているという状況です。
しかもあまりにも多くの難民が来るので、ロンドンの自治体が難民支援不足で政府を訴える状況になっています。イギリスの難民支援費は自治体が負担するのですが、豊かではない地域が多いので、破産しそうなところが少なくないのです。
■イギリスに難民を押し付けるEU各国
ロンドンを拠点とする新聞「スタンダード」によれば、数多くの難民を受け入れているヒリンドン市はヒースロー空港が近くにありますが、予算不足で破産状態。2025年の夏には3000名近くの難民が滞在しています。その多くは外務省が借り上げたヒースロー空港周辺のホテルに滞在しているのですが、予算が足りないのでホテルから出される難民もいます。

支援不足で難民は市内の公園でテント生活をしています。
難民は「政府は理不尽だ」と悲鳴を上げているのですが、政府はどうすることもできません。
また、本来なら難民は入国した「最初のEU国」で難民申請しなければならないのに、彼らが上陸したギリシャやイタリア、フランス、ハンガリーなどは無視状態で、さまざまなルートで難民をイギリスに送りつけてしまうのです。
一番ひどいのはフランスで、イギリスが毎年難民支援費用を払っているのに、難民が乗ったボートをフランスの沿岸警備隊が警護してイギリスに届けてしまうという有様。しかしイギリスはボートを沈没させるわけにもいかないので仕方なく受け入れています。
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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)
著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。
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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)
