『名探偵コナン 水平線上の陰謀』©2005 青山剛昌/小学館・読売テレビ・日本テレビ・小学館プロダクション・東宝・TMS

写真拡大

 劇場版で急にカッコよくなるキャラクターは、どんな作品にもいるものだ。しかし、劇場版『名探偵コナン 水平線上の陰謀(ストラテジー)』は毛利小五郎という男が“元々カッコよかった”ことを思い出させてくれる、そんな傑作だ。

参考:『名探偵コナン 14番目の標的』が映す毛利一家の絆 小五郎&英理の不器用な夫婦愛にも注目

※本稿には劇場版『名探偵コナン 水平線上の陰謀』のネタバレが含まれます。

海上を舞台に少年探偵団と毛利小五郎が大活躍

 劇場版シリーズ第9作目に当たる本作は、鈴木園子の計らいで毛利探偵事務所一行と少年探偵団、そして阿笠博士が豪華客船アフロディーテ号の処女航海に招待され、その場で起きる殺人事件に巻き込まれる。

 劇場版コナン作品は毎度お馴染み、江戸川コナンによるナレーションから幕開けとなるが、このオープニングはその作品において重要な、注意を向けるべき存在と要素へのヒントが散りばめられている。例えば今回は少年探偵団のメンバーが紹介されたり、毛利小五郎に対して「おっちゃん、もう少し推理頑張ってくれよな」とコメントがあったり。そう、本作は探偵としてのおっちゃんを堪能する作品なのだ。

 序盤や終盤の展開はジェームズ・キャメロン監督作『タイタニック』(1997年)へのオマージュを感じさせ、ゲスト声優に山寺宏一(日下ひろなり役)、榊原良子(秋吉美波子役)らが参加するなど、作品全体の雰囲気が舞台を含めて豪華で“非日常的”な印象を持つ『水平線上の陰謀』。しかし、そんな中で“日常”を引き継ぐ役割を担っているのが少年探偵団だ。彼らが普段通り子供らしくいることで提案された「かくれんぼ」という遊びが園子を日下の犯行現場に誘導するなど、事件と上手く繋がるように構成されている。何より、「かくれんぼ」を通して園子と灰原哀など普段のアニメでは珍しいペアや、探偵団が作ってくれた金メダルを大切にする毛利蘭の優しい心、そして小学生の頃の思い出として、『名探偵コナン』の根幹とも言える蘭と工藤新一のラブストーリーが紹介されるなど、ファンが楽しめる要素が無駄なく組み込まれている点が素晴らしい。

 後半の小五郎の大活躍につい意識が向いてしまいがちだが、本作は探偵団もすごいことをしている。八代延太郎に対する殺害未遂が暴かれた日下がモーターボートで逃走を企てた時、現場にいた目暮たち警察官が人混みですぐに追えない中、一足先に彼を追跡したのはコナン、そして少年探偵団だ。コナンが単独で追おうとした際、ボートに乗り込む探偵団のみんな。そこから急に映画『ザ・グリード』(1998年)のラスト並みのボートアクションを見せ、そこから繰り広げられる追跡劇も見応えがある。また、個人的に印象的だったのは、作中で八代の死体が発見された際には円谷光彦と吉田歩美が「どうして人は人を傷つけたりするんでしょう」「みんなが仲良く暮らせば良いのにね」と子供ながらの疑問をつぶやくシーン。それに対し、灰原が以下のセリフを残すのだ。

「無理ね。人には感情があるもの。目には見えないうえにとても変わりやすい厄介な代物がね。それが友情や愛情なら良いけど、何かのきっかけで嫉妬や恨みに変われば、殺意が芽生えることだってあるんだから」

 それを聞いた小嶋元太が、自分の両親が常に喧嘩していても仲の良いことを話すと阿笠博士が「思いやり」について説く。「人はふとしたことで傷つける側にも傷つけられる側にもなる。そうならないためには相手側を思いやる気持ちが大切なんじゃ」と彼らにわかるように話し、探偵団3人組が新しい発見を得る過程が『名探偵コナン』がシリーズを通して描き続ける大切なメッセージに呼応する、非常に素敵なシークエンスなのだ。ここでも、探偵団が“子供でいること”が重要になっている。

ラストにかけて名言の宝庫、カッコよすぎる毛利小五郎 探偵団の活躍もすごいが、やはり本作の主役は小五郎だろう。テレビドラマ『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)で脚本家デビューを果たした古内一成が手がけていることもあって、全体的にダンディな雰囲気が漂うなか、とにかくクライマックスで小五郎が真犯人の秋吉美波子と対峙するシーンは名言の宝庫となっている。自首しようとした彼女が隙をついて殴ってきた拳をバシッと受け止めながら「俺は女と戦わねえ趣味だが……」と言う小五郎。秋吉から「どこぞの憎い女に似ていたから最初から目をつけられていたのか」と問われた際にはこんなセリフを返す。

「その逆だよ。あんたがあいつに似ていたから、犯人があんたじゃなきゃいいと思って無実の証拠を集めようとしていたからこうなっちまったんだよ」

 これは冒頭で知的なメガネ美女である秋吉の雰囲気が妻の妃英理のものと似ているため、美女に目がない小五郎の反応がイマイチだったことに対する伏線回収となっている。似ているから苦手なのではなく、似ているからこそ潔白であって欲しいという告白には、普段口下手な彼の妻に対する想いが透けて見える。おっちゃん、もうこの時点で何を言ってもカッコいいのだ。

 本作は犯人を先に明かしつつ、動機やその正体が徐々に描かれていく「半倒叙」と呼ばれるパターンを取っているだけでなく、ラストにもう1人の犯人(真犯人)が登場するなど『名探偵コナン』の中でも珍しいスタイルを取っている。そんな中、主人公のコナンがミスリードに引っかかり、小五郎の推理が的中。単独で犯人を追い詰める、という極めてレアなケースとなっている。劇場版『名探偵コナン 14番目の標的』では彼や毛利一家の過去が明かされるなど、“元刑事としての小五郎”に焦点が当てられていたのに対し、『水平線上の陰謀』は“探偵としての小五郎”を描く作品なのだ。

「真相を解き明かすのが、探偵の性なんでね」

 沈みゆく船の上で推理をすることに対して無意味といった秋吉に対して小五郎が言い放つセリフだ。彼は秋吉が使用する予定だった銃をすでに使用不可の状態にしたり、彼女だけでなく事件の発端とも言える船長の海藤渡に対してもキツく言及したり、本作ではとにかく有能である。

 他にも物語の序盤、八代延太郎の娘である51歳の貴江の美脚を褒めるシーンにも注目したい。小五郎は普段から自分のファンだと言って近づく女子大生にデレデレしたり、22歳のアイドル・小野ヨーコに首ったけだったりと若い女の子に夢中な様子が多く描かれてきた。しかし、ここで38歳の彼が51歳の年上女性に対してもデレデレすることが明示されたことも良いディテールのように思える。そして園子が霊安室で監禁されていたことにおいても、「誰がこんな悪戯を」と言った乗組員に対し「いたずらじゃない、れっきとした殺人未遂だ」と毅然とした態度で言い放つシーンでも、元刑事として、そしてモラルある人間として描かれている。普段はちゃらんぽらんな側面が強調されてしまっているが、アニメ回でも時々このようにまともなことを言う役割を担っていて、物語における“大人”の立ち位置に彼がいることを、再確認させられるのだ。

 そんな小五郎に再び焦点が当てられる劇場版最新作『名探偵コナン 隻眼の残像』。警視庁時代に彼と仲の良かった同僚の刑事が登場し、事件に巻き込まれていく。長野県警組の活躍と共に、再び覚醒状態の“目覚めの小五郎”を堪能できるかもしれない。(文=アナイス(ANAIS))