記事のポイント ファストファッション各社が「見た目」だけをラグジュアリー風に変え、実態を変えないリブランディングを進めている。PLTやアレンジなどはハイファッション風のビジュアルで高級感を演出するが、素材や価格帯は従来通りという批判もある。EUの「グリーンクレーム規則」など規制強化が進むなか、見た目だけの刷新では通用しない時代が近づいている。
ザ・ロウのようなラグジュアリーブランドが打ち出す「クワイエット・ラグジュアリー」な美学が広がるなか、ファストファッションの世界でもおなじみの戦略が再び表舞台に登場している。それは「作り直さず、イメージだけを刷新する」というものだ。過去1か月だけを見ても、エイソス(Asos)はプレミアムな自社ブランド「アレンジ(Arrange)」を立ち上げ、英百貨店デベナムズ(Debenhams)はキュレーション型マーケットプレイスへと転換し、プリティリトルシング(PrettyLittleThing/以下PLT)はパリ・ファッションウィークに初登場を果たした。いずれもラルフ ローレンを思わせるカラーパレットやビジュアルスタイルなど、ハイファッションの「お作法」を巧みに取り入れている。この流れはザラ(Zara)にも見られ、同社は2021年からブランドイメージの刷新と価格帯の引き上げに取り組んできた。業界全体として、オペレーションの抜本的な変化ではなく、美学(アスタティック)によってブランドを格上げしようとする傾向が強まっているのだ。ファストファッション業界は、業務オペレーションを抜本的に変えるのではなく、見た目(美学)によって進化しようとしている。キャンペーンのスタイリングはよりムーディに、シルエットは洗練され、マーケティングメッセージはクラフトマンシップや“長く使える”価値を強調するようになってきた。だが、洋服の背後にあるビジネスモデル――スピード、量産、低価格――は変わっていない。

エイソスが立ち上げた「アレンジ」 見た目を変えても中身は同じ?

3月3日にローンチされたアレンジは、エイソスの中でももっとも明確な方向転換を象徴するブランドだ。「タイムレスな価値観」「クラフトマンシップ」「インクルーシビティ(包摂性)」を掲げ、価格帯は約35〜399ドル(約5000〜6万円)、サイズ展開は0〜26。刺繍やプリントのスペシャリストによる専属デザインチームが手がけ、エイソスのプレミアム領域を拡大する一手として位置づけられている。

エイソスの「アレンジ」

「私たちが目指したのは、お客様が投資したいと思えるタイムレスなブランドをつくることだ。クラフトマンシップ、インクルーシブな価値観、高いクオリティを称えるブランドを目指した」と、エイソスのブランド&クリエイティブ担当EVPであるヴァネッサ・スペンス氏は語る。「彼女たちは、フェミニンで肩の力が抜けていて、時代を超えて愛せるけれど、ちゃんと今っぽい。そんなファッションを求めている」。アレンジはエイソス限定で展開されており、ブランドの世界観を自社で完全にコントロールできるという理由から、この形式が選ばれたとスペンス氏は説明する。ローンチ時のキャンペーンは、トーテム(Toteme)やザ・ロウ(The Row)を想起させるミニマルで柔らかなライティングを使ったビジュアルで構成されている。しかし批評家たちは、変わったのは「雰囲気」であって、「仕組み」ではないと指摘している。「これは文字通り表層的なリブランディングだ」と語るのは、モデルでファッション環境活動家のブレット・スタニランド氏だ。「使われている素材の質が良くなったわけでもないし、サプライチェーンに新しい倫理観やモラルが導入されたわけでもない。製品の本質は「悪いまま」で、ただ見た目が大きく変わっただけだ」。コレクションは全240点以上で、その大半はポリエステルやビスコース素材で構成され、一部にコットン素材のデニムやTシャツが含まれる程度だ。エイソスは昨年から、もっとも多く使っている素材をよりサステナブルな代替素材へと切り替える取り組みを進めている。これは同社のサステナビリティ目標の一環だ。サステナビリティに関する具体的な取り組みについて、エイソスの広報担当者はコメントを控えたが、アレンジはほかのエイソスブランドと比べて、型数を絞り、より高品質なスタイルを提供していると強調した。

プリティリトルシングも「ラグジュアリー風」に

それ以降、英ファストファッションブランドのPLTも同様の戦略を取り入れている。2月下旬のパリ・ファッションウィークでは、リブランディングを記念して公式日程外のイベントを開催した。ロージー・ハンティントン=ホワイトリー、ケリー・ラザフォード、バーバリーのデザイナーであるダニエル・リー、モデルのナオミ・キャンベルといったセレブリティが来場した。それ以降、PLTの公式サイトはヨーロッパのラグジュアリーブランドが持つビジュアルコードを模倣するようなデザインへと一新。削ぎ落とされたスタイリングやトーンを抑えたカラーパレット、ハイエンドなエディトリアル表現が目立つようになっている。とはいえ、価格帯はこれまでとほとんど変わっていない。また、PLTのサステナビリティ基準に関する情報へのリンクは、現在「ページが見つかりません(page not found.)」と" rel="noopener" target="_blank">表示されている。

PLTの公式サイト

リアリティ番組「Love Island」の撮影中、提供されたPLTの衣装の着用を拒否するという姿勢をとった出演者のブレット・スタニランド。この行動がきっかけとなり、番組側はPLTとの提携をやめ、中古ファッションを支持する方針へと転換。代わりにイーベイ(eBay)とパートナーシップを結ぶことになった。スタニランドはこれまでに、ナヌーシュカ(Nanushka)やルメール(Lemaire)といったエシカルなブランド、およびレンタルプラットフォームのバイローテーション(By Rotation)とも協働している。

ファストファッションが転換を迫られる背景

このようなビジュアル重視への転換は、業界全体が再調整の局面にあるタイミングと無関係ではない。ファストファッション業界では、シーイン(Shein)の圧倒的なスケールと価格競争力によって引き起こされた底辺への競争が限界を見せはじめている。たとえば、フォーエバー21(Forever 21)は3月17日、2019年に続いて2度目の破産申請を行い、5月1日には全店舗を閉鎖する予定だ。シーイン自身も、いま圧力にさらされている。2月にフィナンシャル・タイムズが報じたところによると、同社の2024年の純利益は前年比で約40%減少し、10億ドルにとどまった。これは、当初予測されていた48億ドルを大きく下回る数字だ。売上は前年比19%増の380億ドルだったが、成長率は2023年の23%から鈍化している。現在ロンドンでのIPOを準備中のSheinは、企業価値を従来の640億ドルから最大で300億ドルまで引き下げるよう求められていると報じられている。成長の鈍化の背景には、市場の飽和、競争の激化、そして過剰消費や生産体制に対する消費者からの反発の高まりがあると見られている。

デジタル再構築に動く老舗ブランドたち

同時に、デベナムズのような老舗ブランドも、デジタル時代に対応すべく再構築が進められている。デベナムズはもともと1800年代に衣料品店として創業し、英国市場で長年親しまれてきたファッションストアだが、2021年にブーフー(Boohoo)グループが買収。その後、2024年3月11日にデベナムズ・グループとして再出発を果たした。現在のデベナムズは、利便性と商品発見の体験にフォーカスしたキュレーション型マーケットプレイスとしてリローンチされており、これはブーフーが有名英国ブランドの名前を活用することで、自社を「格上げ」しようとする戦略の一環だ。動画コマースプラットフォームのバンブーザー(Bambuser)のCEO、マリヤム・ガーレマニ氏によれば、伝統や歴史だけでは新しい世代の心はつかめないという。「デベナムズは一種の制度のような存在であり、ブランド側にも消費者側にも自然と関心を呼び起こす存在だ」とガーレマニ氏は語る。「しかし、マーケットプレイスモデルへの移行が成功するかどうかは、多様な商品カテゴリにおいて日常的な買い物の信頼できる行き先として定着できるかどうかにかかっている」と続けた。若年層の消費者を惹きつけることが鍵になる。なぜなら、Boohooの商品を最も多く購入しているのは、一般的にこの層だからだと彼女は述べた。ただし、それを実現するには、新しいテクノロジーを活用して「発見」を促し、ロイヤルティを高めるような創造的なアプローチが求められるとも語る。たとえば、ライブコマースやAIによるパーソナライズ、ネッタポルテ(Net-a-Porter)のようなエディトリアル型のコマース体験などがその一例だという。3月、ブーフー傘下のメンズブランドであるブーフーマン(BoohooMan)は、「オールドマネー(Old Money)」と題したキャンペーンを開始した。ラルフ ローレンのクラシックなアメリカーナスタイルに着想を得たビジュアルを展開し、モデルたちはポロシャツとスラックスをまとい、イギリスの由緒ある邸宅の前でポーズをとっている。しかし、ブランドの代名詞である低価格は変わらないままだ。「新しいのは見た目だけだ」とスタニランド氏は語る。「高級に見えるように装っているだけなんだ」。なお、ブーフー側はこの件に関するコメント要請には応じなかった。
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H&Mは音楽との融合でブランド刷新を狙う

一方、H&Mはファッションと音楽を融合させることでブランドの再定義を図っている。グローバルイベントを開催し、チャーリーXCX(Charli XCX)のようなアーティストとのコラボレーションも展開している。目指しているのは、トレンド志向の若年層を惹きつけ、自己表現を促し、文化的な共鳴や感情的なつながりを通じて購買につなげることだ。さらに、H&MハイエンドなコレクションであるH&M ステュディオ(H&M Studio)はパリ・ファッションウィークにおいて多面的な戦略を実施。一般向けのポップアップや限定イベントを開催し、新作コレクションを披露するとともに、消費者やインフルエンサーとの直接的な関係構築を図った。

H&Mは2024秋冬のキャンペーンにチャーリーXCXを起用

今四半期のH&Mの業績は、「ブランド格上げ」を狙ったキャンペーンの限界を示す結果となった。Glossyの報道によれば、同社は製品アップデートやキャンペーンに多額の投資を行っていたにもかかわらず、3月27日に発表された第1四半期の業績は現地通貨ベースでわずか2%の成長にとどまり、アナリストの予想を下回った。CEOのダニエル・エルヴェル氏は決算説明会で、「今四半期の売上と利益は、当初の計画よりもやや弱かった」と述べ、値引きの増加や物流コストの上昇がその要因であると説明した。

「見た目」だけではごまかせない時代へ

市場で起きているさまざまな動きや緊張の背景には、規制強化の圧力がある。EUで導入予定の「グリーンクレーム規則(Green Claims Directive)」および「オムニバス指令(Omnibus Directive)」は、根拠のないサステナビリティ表明に対して厳しい取り締まりを行う見通しだ。「責任ある(responsible)」「意識的(conscious)」「クラフテッド(crafted)」といった言葉を、サプライチェーンの透明性を欠いたまま使っている企業にとってはリスクとなる。オムニバス指令はすでに施行されており、グリーンクレーム規則は2026年からブランドへの適用が始まる予定だ。企業はすでに必要な対応を進めている。サステナビリティ要件で評価されてきたコペンハーゲン・ファッションウィークですら、3月に提起された法的な申し立てにより、7つのパートナーブランドとともに根拠のないグリーン表現を用いたと指摘され、精査の対象となっている。規制当局、投資家、そして懐疑的になりつつある消費者たちが発しているメッセージは同じだ――「見せ方(ブランディング)だけでは不十分だ」ということ。「人々は、見た目が洗練されていれば中身の取り組みも優れていると勝手に思い込んでしまう」と、スタニランド氏は語る。「ブランド側はまさに、その思い込みに頼っているんだ」。[原文:How fast fashion learned to dress like The Row]Zofia Zwieglinska(翻訳・編集:戸田美子)