【 NRF 2025 レポート Vol.2】ブランディング戦略の進化―共感・体験・文化で築くブランド
本記事はRokt松田誠氏による寄稿です。<目次> NRF 2025 レポート Vol.2 進化するブランディング戦略と顧客との新たな関係 デジタルとリアルの融合による新しいブランド体験 コミュニティとストーリーテリングによるブランド構築 企業文化を通じたブランドの醸成 ブランド進化の鍵となる3つの戦略
◆デジタルとリアルの融合による新しいブランド体験:メイシーズの「ボールド・ニュー・チャプター」
メイシーズ(Macy’s, Inc.)は、デジタルとリアルを融合させた新たなブランド体験の創出に取り組んでいる。特に、AIとデータ分析を駆使し、顧客ごとに最適なショッピング体験を提供する戦略を強化。オンラインと実店舗を連携させ、どのチャネルでも統一された体験を実現することで自社ブランドの強化を図っている。メイシーズは「無限の選択肢」ではなく、「最適な選択肢」を提供することを重視している。CEOのトニー・スプリング氏は、「私は『無限の選択肢』ではなく、『最適な選択肢』を求めている。終わりのない商品リストではなく、消費者が『適切な選択肢』をすぐに見つけられることが重要だ」と述べた。百貨店の役割を「マーケットプレイス」と再定義し、オンライン、実店舗を問わず、消費者にとって最適で、百貨店だけが実現できる購買体験を提供する戦略を推進している。メイシーズは、デジタルとリアルの融合によって、単なる「買い物」ではなく、ブランドの価値を体感できる次世代の百貨店モデルを確立しようとしている。(“Three Brands, One Growth Strategy: Macy’s, Inc.’s Bold New Chapter”より)◆H&M:デジタルとリアルの融合による新しいブランド体験

写真左から:エレン・スヴァンストローム氏(H&Mデジタル最高責任者)、トラン・トゥ氏(タペストリー オムニ副社長)、カレン・エツコーン氏(クレート リテール グループ エグゼクティブバイスプレジデント兼最高情報責任者)、ブレンダン・ウィッチャー氏(フォレスターリサーチ バイスプレジデント)
このセッションでは最高デジタル情報責任者のエレン・スヴァンストローム氏が、リアルタイムデータとAIを駆使し、店舗とオンラインの購買体験をシームレスに統合する戦略を強調した。H&Mは、低コストのセンサー技術とAIを活用し、リアルタイムで商品データを管理。たとえば、店舗内のセンサーが商品の正確な位置を把握し、スタッフが即座に顧客を案内できる仕組みを導入している。これにより、接客のサービスレベルを高めることに成功している。また、生成AIを活用した直感的なユーザーインターフェースを開発し、技術に不慣れなスタッフでも最適な商品情報を提供できる環境を整備。これにより、リアルタイムデータに基づいたパーソナライズされた顧客対応が可能となり、より一貫性のあるブランド体験を提供している。さらに、スヴァンストローム氏は、リアル店舗でもECと同レベルのデータ活用が必要であると指摘。H&Mは、従来のECでの消費者データ(クリック履歴や滞在時間など)と同様に、店舗内での顧客行動データを分析し、より深いブランド体験の創出に活用する戦略を推進している。H&Mは、デジタルとリアルを融合させたブランド戦略を加速し、リアルタイムデータを活用することで、よりパーソナライズされたショッピング体験を提供。これにより、顧客は店舗とオンラインを自由に行き来しながら、一貫したブランド体験を享受できるようになっている。◆ディズニーコンシューマープロダクツ:ストーリーテリングを軸としたブランドの信頼構築

写真左から:リサ・バルジッキ氏(ディズニーコンシューマープロダクツ パークス製品開発および小売担当シニアバイスプレジデント)、タティア・アダムス・フォックス氏(アメリカン・エキスプレス バイスプレジデント)
ディズニーコンシューマープロダクツは、ブランドの信頼構築においてストーリーテリングが果たす役割について解説した。同社は、映画やテーマパークを通じて築いたブランドの世界観を、消費者の商品体験へと拡張することで、ブランドとのつながりを深めている。セッションでは、キャラクターや映画の物語を活用し、商品を単なる消費財ではなく、「ストーリーの一部」として提供する戦略が紹介された。具体例として、ゲストが自分だけのライトセーバーを作成できるなど、「スター・ウォーズ」や「マーベル」シリーズのグッズ販売では、映画の世界観を忠実に再現するだけでなく、消費者がブランドのストーリーをより深く楽しめる体験が提供されていることが説明された。また、ディズニーはデジタルとリアルの融合にも注力しており、D2C戦略の強化により、公式オンラインストアやテーマパークでの限定商品提供を行うことで、消費者に特別な体験を提供する施策について言及された。こうした施策により、ディズニーはブランドの世界観をストーリーとして一貫性のある形で消費者に届ける取り組みを進めている。(Harnessing Brand Power and Building Trust: Insights from Disney Consumer Productsより)◆トミー・ヒルフィガー:コミュニティとストーリーテリングによるブランド構築

写真左から:マシュー・シェイ氏(全米小売業協会CEO)、トミー・ヒルフィガー氏(トミーヒルフィガーグローバル 創設者兼主任デザイナー)
NRF 2025では、トミー・ヒルフィガー氏が登壇し、ブランドが消費者のコミュニティとどのように結びつき、ストーリーテリングを活用してブランド価値を高めてきたかについて語った。彼は自身のブランドが誕生した当初から、音楽・ファッション・アート・スポーツ・エンターテインメントと結びついたライフスタイルブランドを築くことを目指していたと説明した。ヒルフィガー氏は、「我々はファッションと音楽を結びつけ、消費者のライフスタイルの一部になることを目指してきた」と述べ、消費者と共にブランドを成長させる姿勢が、ブランドの信頼とロイヤルティの向上につながったと強調した。また、ブランドが単なる衣服の販売ではなく、消費者が自己表現をするためのプラットフォームとして機能することが重要であるという考えを示した。さらに、トミー・ヒルフィガーは、ストーリーテリングを活用し、ブランドのアイデンティティを明確に伝えることが消費者との深い関係構築につながると述べた。ブランドが長年にわたり音楽やスポーツの世界と密接に結びついてきたことで、ファンはただ服を買うだけでなく、ブランドのストーリーに共感し、コミュニティの一員としての帰属意識を持つようになった。ブランドを単なる商品販売のプラットフォームではなく、コミュニティの形成とストーリーテリングにより、消費者が参加し、自己表現できる場へと進化させることがブランド構築において不可欠な要素であることが強調された。(The Visionary 2025: A 40-year journey with Tommy Hilfiger and NRF President and CEO Matthew Shayより)◆ケンドラスコット:ブランドの本物らしさ(Authenticity)とコミュニティの活用

写真左から:トム・ノーラン氏(ケンドラスコットCEO)、ジョシュ・クレポン氏(スティーブンマッデン D2C社長)、サラ・エンゲル氏(January Digital + January Consulting CEO)
このセッションでは、消費者の購買行動において、ブランドの本物らしさ(Authenticity)がロイヤルティの向上に直結するという点が強調され、オーセンシティの重要性を示すデータや市場の変化についても説明された。創業者であるケンドラスコットが、自身の価値観や経験をブランドの核として位置づけ、それを顧客と共有することで、ブランドのオーセンシティを確立している。これにより、消費者との信頼関係を深め、継続的な関係を築くことが可能になることが説明された。ブランドが本来持つ価値を超えた拡大を避け、顧客のニーズに合致した進化をすることが重要であり、無理な拡張(ジャンプ・ザ・シャーク)を避けながら、ブランドの根幹を守りつつ成長する戦略が求められると語られた。また、ブランドコミュニティとの関係構築の一環として、SNSを活用し、ブランドのオーセンシティを顧客と共有する戦略や、地域コミュニティと連携したイベントの実施についても言及された。ケンドラスコットは、全国150店舗で年間2万5000回のイベントを開催し、地域密着型のブランド体験を提供している。特に慈善活動を通じて顧客との強い絆を築いており、その代表的な取り組みのひとつとして、「Kendra Cares」プログラムでは、小児病棟でジュエリー制作の体験を提供し、患者やその家族に希望と喜びを届けている。ケンドラスコットは、創業者の価値観をブランドの核として据え、本物らしさを守りながら、地域コミュニティとの結びつきを深め、消費者との信頼関係を築いている。これにより、単なる買い物の場を超えたブランド体験を提供し、長期的な顧客ロイヤルティを高めることに成功している。(Driving a Superior Customer Experience with Brand Authenticityより)◆ターゲット:企業文化の強化がブランド成長の原動力に

写真左から:マイケル・ブッシュ氏(Great Place To Work CEO)、ブライアン・コーネル氏(ターゲットCEO)、アブバカール・バングラ氏(ターゲットコーポレーション グループバイスプレジデント)
ターゲット(Target)のセッションでは、企業文化が変化の激しい市場環境を乗り切るための基盤となり、長期的な成長を支えていることが語られた。CEOのブライアン・コーネル氏は、「企業文化が従業員の意思決定を導き、ブランドの方向性を決定する重要な要素である」と強調した。セッションでは、ターゲットの企業文化の中核として、「Care」「Growth」「Winning Together」の3つの価値観が紹介された。これらの価値観が組織全体に浸透することで、従業員が一貫した顧客体験を提供し、企業の成長を支える役割を果たしている。また、ターゲットでは、従業員の意見を積極的に取り入れる文化を形成するため、リスニング・プログラムやチームメンバー・サーベイを実施し、現場の声を企業の意思決定に反映している。こうした仕組みを通じて、従業員が企業文化の担い手となり、組織全体のパフォーマンス向上に貢献している。さらに、ターゲットは企業文化を維持しながらも進化させることを重視し、市場環境の変化に適応しつつも、企業としてのアイデンティティを維持することの重要性を強調した。ターゲットでは、従業員の成長を促進し、個々のキャリア開発を支援することで、組織全体の文化を形成し、ブランドの価値を高めている。コーネル氏は、「リテール業界は人々の人生を変える力を持っている」と述べ、ターゲットの企業文化が単なるビジネスの成功にとどまらず、従業員の成長と人生そのものを豊かにするものであることを強調した。(Game changing: Culture’s influence on navigating volatility and fueling long-term growthより)◆ベストバイ:企業文化を通じたブランドの持続的成長

写真左から:マシュー・シェイ氏(全米小売業協会CEO)、コリー・バリー氏(ベストバイCEO)ベストバイ(Best Buy)のCEOコリー・バリー氏は、企業文化が変化の激しい市場環境のなかでいかに成長を支えているかを語った。ベストバイは、「学び続け、変化に適応すること」を基本理念とし、柔軟な働き方や従業員の成長を支援する企業文化を醸成している。従業員のキャリア開発を促進するため、複数の店舗で働ける「マーケットベースモデル」を導入し、柔軟性と安定性を両立。また、スキルアップ支援や社内昇進の機会を増やし、75%のジェネラルマネージャーがエントリーレベルから昇進するなど、成長の場を提供している。バリー氏は、「リーダーの役割は、従業員が最善の仕事をできる環境を整えること」とし、企業文化が従業員のエンゲージメントを高め、長期的なブランドの競争力を生み出すと強調した。ベストバイは、適応力と成長を重視しながら、持続的な発展を目指している。ターゲット、ベストバイの事例は、企業文化を単なる内部方針としてではなく、ブランドの一貫性を保ち、消費者との信頼を築くための重要な要素として活用することが、長期的なブランド価値の向上につながることを示している。(Stewardship in action: How CEO Corie Barry guides Best Buy with purpose and visionより)
松田 誠(まつだ・まこと)Rokt合同会社 日本マイクロソフトでOffice 365を始めとした各種ソフトウェア・サービスのビジネスをリード。ケルヒャーでコンシューマービジネスの責任者を担当した後、2019年にRokt合同会社に入社。ビジネスデベロップメントとして日本市場におけるRoktビジネスの立ち上げと拡大に従事している。写真:Rokt提供
