東京ドーム

写真拡大

 5月1日、築地市場跡地(東京都中央区)の再開発事業者による会見が行われた。総事業費が約9000億円にもなる大規模開発の目玉は、何といっても約5万人が収容可能な屋内全天候型の多目的交流施設「マルチスタジアム」だ。その事業予定者の一員として読売ジャイアンツの山口寿一オーナーが登壇したから、“ある期待”が高まった。

 ***

【写真をみる】日本の「天然芝」球場が少なすぎるワケは? 「人工芝」にこだわる球団側の“思惑”

 築地市場は2018年10月に豊洲に移転し、その跡地は広さ約19・4ヘクタールの都有地となった。東京ドームおよそ4つ分の広さだ。都は23年8月までに事業者を募集し、三井不動産、読売新聞グループ本社、鹿島建設、清水建設、朝日新聞社、トヨタ自動車など11社が名を連ねた。

東京ドーム

 山口氏は読売新聞グループ本社代表取締役社長であるから会見に出席するのは当然だが、ジャイアンツのオーナーでもあるため、巨人の本拠地球場を東京ドームから移転させようと考えているのではないかとの質問が飛んだ。スポーツ紙記者が言う。

「山口オーナーは『魅力あるスタジアムを使ってみたいという気持ちはある』としつつも、『巨人軍の本拠地移転を前提にしたものではございません』と否定しました。とはいえ、1988年に完成した東京ドームはすでに開業37年目。改修工事はしているものの耐用年数の30年はとっくに過ぎているので、移転も考えざるを得ない時期です」

 そこで期待されるのが、天然芝の野球場だ。巨人ファンのみならず天然芝の球場でプロ野球を楽しみたいというファンは多い。SNS上ではこんな声を見かける。

《ジャイアンツの新球場、天然芝になるといいな》

《巨人の本拠地移転について。理想は自前で野球専用の天然芝のグラウンド、開閉式ドームが望ましい。ただ、築地の新球場は多目的施設だからおそらく東京ドームとの併用の可能性が高い。築地はアクセス問題の懸念があるし。とにかく東京ドーム以上にプロ野球の魅力を発信できるように工夫してほしい。》

《球界の盟主なんだからこそ野球に対して真摯であってほしい。総天然芝でプレイさせてほしい。》

 前出のスポーツ記者が続ける。

「築地のマルチスタジアムについて山口オーナーは『屋根は開閉式でなく閉じたままの形。天然芝でなく人工芝』と説明しました。野球だけでなくサッカーや格闘技、コンサートなど、用途に応じて客席やフィールドの変更も可能な多目的型ですから仕方ないのでしょう」

MLBでもドーム球場が流行った

 本当に天然芝は不可能なのだろうか。MLB研究家の友成那智氏に聞いた。

「12球団ある日本のプロ野球の本拠地球場で天然芝を採用しているのは、阪神甲子園球場と宮城球場(楽天モバイルパーク宮城)、広島市民球場(MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島)、そして北海道日ハムファイターズのエスコンフィールドHOKKAIDOの4つのみ。一方、30球団ある米メジャー(MLB)の本拠地球団で“人工芝”を採用しているのは、わずか5つ。割合としては真逆と言っていい状況です。日本のプロ野球はよくMLBのマネをしますが、これだけはマネをしません 」

 なぜこれほど違うのだろう。

「MLBでもかつては屋根が開かないドーム型球場が流行った時期がありました。ところが、いずれも不人気でした。開放感はありませんし、やはり天然芝のほうが綺麗ですからね。ファンは青空の中を飛んで行くボールを見たいわけですよ。天然芝はボールの勢いを殺すので、野手の動きも見応えがあります。そして何より、選手にとっては堅い人工芝よりも体への負担が少ない。そのためMLBでは次々と屋根を外して天然芝に変えていきました。そうすることで観客も増えていったのです」(友成氏)

 日本ではなぜそうならないのだろう。

経営側はどちらを向いているか

「天然芝は専門のグラウンドキーパーがいなければいけませんし、コストもかかりますからね。シカゴ・ホワイトソックスには3代続く優秀なグラウンドキーパーがいます。井口資仁さんがホワイトソックス時代、そのグラウンドキーパーのアドバイスを聞いたらピタリと当たったと語ったことがありましたが、対戦相手に合わせて芝の長さを変えることもメジャーではよくある。そこがまたファンにはたまらない魅力になっています」(友成氏)

 もっとも、人工芝でもコストをケチると酷いことになりかねない。

「神宮球場はヤクルトの本拠地のみならず大学野球や高校野球の東京大会にも使用されます。元ヤクルトの内野手・宮本慎也さんは『人工芝なのにハゲてるからイレギュラーして困った』と言っていました。一方、昨年から日ハムの本拠地になったエスコンフィールドは、北海道にありながら開閉式の屋根で天然芝を採用して人気になっています。今は寒さに強い芝も、暑さに強い芝もあります。やってできないことはないはずです」(友成氏)

 それには経営側の考えが重要という。

「経営者がどちらを向いているかということもあるでしょうね。野球ファンなのか、営業成績、つまりお金儲けなのか。MLBのオーナーには、人工芝は絶対に避けたいという人が少なくありません。ボストン・レッドソックスのオーナーであるジョン・ヘンリー氏はもともとヘッジファンドや先物取引で儲けた人として蔑まされたこともありましたが、オーナーになってからは人が変わったように球団やMLBの経営改善に取り組みました。テレビの放映権料を30球団で分配するなどして、今ではすっかりスポーツ企業家として名士となっています」(友成氏)

球場に必要なノスタルジー

 一方、築地のマルチスタジアムは多目的だから天然芝は無理だという。

「ニューヨーク・ヤンキースの本拠地として知られるヤンキー・スタジアムは2012年に改装された天然芝の球場ですが、実はMLS(メジャーリーグサッカー)のニューヨーク・シティFCの本拠地にもなっています。サッカーの時には内野にも天然芝を敷くことで対応しています。アメフトの試合も行われますし、東京ドームほど頻繁ではないけれどイベントも行われていますよ」(友成氏)

 開閉式の屋根にすれば、天然芝でもイケたかもしれない。開閉式にするのに費用がかかるというなら、小池百合子都知事が推す太陽光パネルでも屋根に張れば、それくらい回収できるかも。もっとも、東京は屋根がなければ夏は暑すぎるという問題がある。

「1988年に完成した東京ドームは、ミネソタ・ツインズの本拠地だったメトロドームを真似たものでした。ミネソタは非常に寒い地域なので、ドーム型で人工芝を採用しました。東京ドーム同様、風船のように気圧で屋根を押し上げる構造です。ところが、屋根のおかげで寒さはなくなったものの、ファンにはカッコ悪いとバカにされていたんです。あまりにも不評なため現在のターゲット・フィールドを建設し、屋根なしで天然芝に変えると客足が増えました。昨年までツインズにいた前田健太投手がぼやいていたほどの寒さですが、それでもファンは厚着をして天然芝の球場に足を運んでいます」(友成氏)

 やはり東京にも天然芝の球場を望む声は少なくない。

「次はファンも納得する球場にしてもらいたいですね。MLBでは天然芝の球場に建て替えるにあたり、その多くが左右非対称の“ネオクラシック”のデザインを採用しました。プロ野球にはノスタルジーも必要なんです。どうせなら天然芝だった頃の後楽園球場 にようにしてもいい。ON(王貞治・長嶋茂雄)が活躍したノスタルジーを味わいたい人だっていると思います」(友成氏)

デイリー新潮編集部