今季から、いわてを率いる松原監督。目標は「J3優勝」だ。(C)IWATE GRULLA MORIOKA

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 1998年のフランス大会で、日本人初のワールドカップ(W杯)スコアラーとなった中山雅史(現アスルクラロ沼津監督)を筆頭に、数多くの元Jリーガー指揮官がひしめく今季のJ3。いわてグルージャ盛岡の松原良香監督もキーパーソンの1人である。

 ここまで7試合を戦い、沼津のほか、服部年宏監督が指揮する福島ユナイテッドFC、戸田和幸監督が率いるSC相模原などと対戦し、それぞれに個性あるサッカーが展開され、J3のレベルアップを実感したという。

「もともとJ3は指導者の質が高かったと思いますが、今年から中山さんや戸田さんたちが参戦したことで、『勝ちたい』という野心を押し出す傾向が強まったと感じます。

 特に中山さんは55歳にして勇気あるチャレンジをされた。ホントに凄い人だと感じたし、大きな刺激を受けました。沼津ではボールをつないで主導権を握るスタイル、ポジショナルプレーを志向している。スタッフに鈴木秀人コーチら元ジュビロ磐田出身者が複数いるので、同じサッカー観を持っていて、やりやすい環境なんだと感じます。

 戸田も非常に頭が良い男で、選手・解説者としても非常に素晴らしかった。その能力を活かして、選手たちに自分のやりたいことを表現してもらうべくトライしていると思います。1年早くJ3に参戦したハット(服部監督)も奮闘していますが、僕も負けてはいられない。監督同士のバチバチ感は選手にも必ず伝わると思います」
 
 彼らのような知名度の高い指導者が全国各地のクラブに赴くことで、サッカーへの注目度は高まるはず。元有名Jリーガー監督のJ3参戦は、そんなプラス効果も期待できそうだ。

 松原監督が目下、熱視線を向けるのは、上記3チームだけではない。今季J3初昇格の奈良クラブと、岡田武史氏が代表取締役会長を務めるFC今治も興味深い存在だと見ているようだ。

「奈良は32歳のスペイン人指揮官であるフリアン・マリン・バサロ監督体制3年目で、チームのスタイルが確立されている。同じ路線を継続してきた分、選手たちの戦術理解度が高く、チーム完成度が高い。4月16日のアウェー戦では惜しくも0−1で負けましたが、本当に良いチームだなと思いました」と松原監督も最大級のリスペクトを口にする。

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 一方の今治は、京都サンガF.C.や湘南ベルマーレ、ガイナーレ鳥取で指導経験のある高木理己監督が今季から就任。今治里山スタジアムも完成し、町ぐるみでJ2に上がろうという熱気が色濃く感じられる。

「目に見えて改善している環境が、高木監督や選手たちの背中を押している部分があるなと強く感じます。それはカマタマーレ讃岐も同じですね。

 でも、僕はいわてにも大いなるポテンシャルがあると思います。今年はJリーグ開幕30周年の節目ですけど、後発地域のクラブがより発展して新たなサッカー文化を作っていくのが次の30年なんだと思います。そのために秋田(豊)さんが社長になったし、僕もここで働く意味を脳裏に刻みつけながら、指導にあたっています」

 2021年度の営業収入が6億弱のいわての場合、クラブ力という意味ではまだまだ脆弱な部分があるのは確か。練習場やクラブハウスがなく、ホームゲームの観客数が1000人を割り込む時もある。だからこそ、地域の関心を高め、強固な支援体制を構築していくことが喫緊の課題と言えるのだ。
 
「いわてのクラブ力を10点満点で評価すると、まだ5くらいでしょうか。今は5を6に上げる作業をしているところです。ピッチ内では内容をブラッシュアップして、勝利することが大事ですが、クラブとしての底上げがないとJ2に定着し、J1を目ざすことはできない。その土台を築くべく、僕は2年間の契約の中でできる限りのことをやっていくつもりです」と松原監督は語気を強める。

 ウルグアイやクロアチアなどに赴き、日本国内も下部リーグを経験した彼は、必ずしも恵まれた環境ばかりではないことを熟知する人間。目の前にあるものを前向きに捉え、前進できる強さを備えている。

 持ち前のバイタリティを武器に、J3から上のカテゴリーに駆け上がるという成功モデルを体現できれば、まさに理想的。彼や中山監督、戸田監督らの成否が今後、Jリーガーから指導者に転じる指揮官たちの未来にもつながるはずだ。

「今まではアカデミーで指導してトップのコーチになり、監督になるというモデルが1つありましたけど、J3→J2→J1という監督の成功例もあっていい。J3は今年からJFLへの降格制度もできましたし、決して楽なリーグではありません。みんな目の色を変えて取り組んでいるし、ちょっとしたミスも許されない。本当に一つひとつの試合が大事なんです。

 僕は将来的には海外で監督をやりたいと思っていますし、より高いレベルで勝負したいという夢がある。それを現実にするためにも、今のチームで結果を出さなければいけない」と自らを奮い立たせている。

 松原監督が考える「指揮官の成功ポイント」は、ズバリ、マネジメント力。解説者時代は自分が担当するチームの試合をチェックするなど、ルーティンをある程度こなしていればよかったが、監督業は仲間の助けなしに成り立たない。だからこそ、日本代表を率いたジーコ、アルベルト・ザッケローニ監督らは常に自分のチームで動いていたのだ。
 
 しかし、J3の場合は必ずしもそういうわけにはいかない。いつ誰に何を指示すればいいか、どういう声掛けをすればいいかなどを松原監督は細かく考えながら対応しているという。

「スタッフにはコーチ、分析担当、トレーナー、ドクターなどいろんな人がいますけど、指示の内容やタイミングや話し方なども含め、ベストだと思う方法を模索し続けています。一番大事なのは人と人のつながり。ファミリーが全員イキイキと動けてこそ、組織として機能できる。そういう組織を作れたら、結果もついてくると僕は確信しています」

 今季のJ3で「勝てる組織」を作れる指揮官は一体、誰なのか。松原監督の一挙手一投足を含め、興味深く見守りたいものである(続く)。

取材・文●元川悦子(フリーライター)