アルゼンチンが激闘を制して36年ぶりにW杯優勝 メッシは大会MVPに

写真拡大 (全8枚)


Photo by Fareed Kotb/Anadolu Agency via Getty Images

 サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会は12月18日、アルゼンチン代表の36年ぶりの優勝で幕を閉じた。

 ドーハ近郊のルサイルスタジアムで行われた決勝で前回王者のフランスと対戦。延長3-3の末に突入したPK戦を4-2で制して、1978年、1986年に続く3度目の栄冠を獲得した。

キャプテンで7得点もマークしたMFリオネル・メッシ(PSG)が大会MVPに選出され、優勝に華を添えた。

 なお、大会得点王は決勝でのハットトリックを含めて8得点を叩き出したフランス代表FWキリアン・エムバぺ(PSG)が獲得した。

 水色と白のストライプのシャツやスカーフに身を包んだサポーターの歓喜に満ちた大合唱がルサイルスタジアムに響きわたり、その歌声に合わせてピッチ上のアルゼンチン代表選手たちが満面の笑顔で飛び跳ね、踊り続ける。

 36年の時を経てアルゼンチンが悲願のW杯優勝を遂げた祝いの宴だ。


Photo by Chris Brunskill/Fantasista/Getty Images

 アルゼンチンもフランスも通算3度目の優勝が懸かった決勝は、延長の末にPK戦に突入する激闘となった。

アルゼンチンがメッシのPKとアンヘル・ディマリア(ユベントス)のゴールで前半のうちに2点のリードを奪い、後半半ばまでフランスに大きな決定機も作らせない試合展開だった。

 だが、そこからフランスが反撃を始めると、息をもつかせない緊迫した展開に一変。

 後半終盤にエムバぺがPKを決めて1点差に詰め、その1分後には23歳FWが強烈なシュートをゴールネットに突き刺してフランスが追いついた。

 延長に入ると、アルゼンチンが盛り返して攻勢を強め、延長後半3分にゴール前に詰めたメッシが味方のシュートリバウンドに反応して3-2とした。


Photo by Dan Mullan/Getty Images

だが、延長後半終了目前に、エムバぺがこの日2本目のPKで再び追いつく脅威の粘りを披露して、望みをつないだ。

 エムバぺの決勝でのハットトリックは1966年大会決勝でイングランド代表のジェフ・ハースト以来という快挙だ。

 だがしかし、PK戦では、今大会ラウンド16のオランダ戦を含めて過去6回のうち5回で勝っているアルゼンチンが強さを見せた。

 GKエミリアノ・マルティネス(アストン・ビラ)がフランスの2番手のFWキングスレイ・コマン(バイエルンM)のキックを止め、3番手のMFオーレリアン・チュアメニ(レアル・マドリード)が外した。

 一方、アルゼンチンは1番手のメッシをはじめ、FWパウロ・デバラ(ASローマ)、MFレアンドロ・パレデス(ユベントス),DFゴンザロ・モンティエル(セビージャ)が次々と決めて、4-2で決着をつけた。


Photo by Amin Mohammad Jamali/Getty Images

 大会の最優秀GKにも選ばれたマルティネスは、「苦しい試合だったが、PKを止めることができた。こんなに素晴らしいことはない」話した。

 世界タイトルのかかった、緊迫度の高いPK戦にも、30歳のGKは「チームメイトを信じていたし、自分は冷静になるようにした、PK戦ではそれが大事だから。この結果はすごくうれしい」と喜びと安堵の入り混じった表情を見せた。

ディマリアの起用


Photo by Catherine Ivill/Getty Images

 アルゼンチンは先発にグループステージ最終のポーランド戦以来の出場となるディマリアを3トップの左に置く布陣で起用すると、これが的中。

 前半20分には34歳FWが左サイドで仕掛けて、先制点となるPKを獲得。前半36分には、自陣でのボール奪取からのカウンター攻撃からディマリアがゴールを決めて2-0とした。

 しかし、ディマリアが60分を目前にしてベンチに下がると、そこからフランスがボールを持つようになり、徐々に試合に復権。

 フランスはボールを運べるコマンと20歳のMFエドュアルド・カマヴィンガ(レアル・マドリード)を投入してアルゼンチンを押し込む時間が増え、それが後半終盤のPKと、その直後のエムバペの強烈な同点ゴールにつながった。フランスが個人の強烈な個性とパワフルな突破力を活かして反撃した。

 エムバペは前回2018年大会決勝に続いて2大会の決勝で得点をマーク。

 2つの大会の決勝で得点を決めたのは同郷のジネディーヌ・ジダン(1998、2006年)に続いて5人目だが、23歳363日での達成は最年少記録だ。

 56年ぶりの決勝でのハットトリックといい、非凡なことを改めて感じさせる数字だろう。フランスはPK戦で敗れはしたが、エムバペのみならず個性的な選手を擁したフランスは、今後へ期待を抱かせるチームの一つであることを示した。


Photo by Jose Breton/Pics Action/NurPhoto via Getty Images

 大会連覇を逃したフランス代表のディディエ・デシャン監督は「接戦だっただけに結果は残念。死んだような状態から素晴らしい反撃をした。それだけに最初の75分が悔やまれる。若い選手の力で試合を振り出しに戻して延長PK に入ったが、勝つには十分ではなかった。アルゼンチンは経験もあり巧みさもあった。彼らをほめるべきだろう」と振り返った。

アルゼンチンの一体感

 2度も追いつかれながら、落ち着いて激しく戦い続けたアルゼンチンのプレーは、フランスのような派手さはないが印象的だ。


Photo by Julian Finney/Getty Images

 特に、チーム全体に見られる献身的な守備のハードワークが今大会の成功の土台にあることは見逃せない。35歳で今大会が自身最後のW杯になると宣言していたメッシも、時には自陣ペナルティエリア前まで戻って相手ボールを奪うなど激しく競り合った。

 決勝に限らず、今大会のメッシのプレーには、この大会にかける気迫すら感じられ、その思いとプレーに、メッシの周囲で攻守にハードワークしたロドリゴ・デパウル(Aマドリード)やFWフリアン・アルヴァレス(マンチェスターC)、MFエンソ・フェルナンデス(ベンフィカ)らチーム全体が呼応。

 試合を経るにつれて、強い一体感が感じられるチームになっていた。

 グループステージ初戦でサウジアラビアに1-2と逆転負けを喫しながら挽回での優勝で、同じように大会を黒星スタートで優勝したのは2010年スペイン以来だという。

 メッシはその逆境もチームにとってはプラスに働いたとして、「負ければ終わりの状況が続いて、初戦の黒星がチームを成長させた」と語っていた。

 そのチームを率いた44歳のリオネル・スカロニ監督は、セザール・メノッティ監督が1978年に39歳でアルゼンチンを優勝に導いたのに次ぐ若さでの偉業達成となった。

 南米チームの優勝は2002年大会のブラジル大会以来20年ぶりで、通算3度目の優勝はブラジル(5回)、ドイツとイタリア(各4回)に続いて4チーム目だ。

 スカロニ監督は、「フランスは世界王者でタフな相手で苦しめられた」と話したが、苦しい状況にもチームには「楽観的でいろ。自分たちのゲームをすればチャンスはできる」と伝えていたと明かし、「PK戦ではみんな自分からやりたいと言って、とてもポジティブだったし、GKが止めてくれた。素晴らしかった」と振り返った。

 アルゼンチン指揮官は「選手たちは国のために、同じ方向を見て戦った。これ以上のことはない。みんな何をすべきか分かっていたし、W杯王者にふさわしいプレーをした。とても誇らしく思う」と選手を労い、戦い抜いたチームに胸を張った。


メッシの喜び

 ピッチ上でサポーターと喜びを爆発させて歌い踊る選手たちの中央で、無邪気に喜びを弾けさせていたのがキャプテンも務めたメッシだった。

 その顔は喜びと充実感で輝いていた。表彰式では授与される前に展示された優勝トロフィーに近づいて、愛おしそうにキスをした。

 2014年ブラジル大会決勝でドイツに敗れて8年、このチャンスは逃さなかった。今大会ではプレーヤー・オブ・ザ・マッチに5回選ばれる活躍で、大会MVPは2014年に続いて2度目の受賞となった。

 メッシはこの日の試合でW杯史上最多26試合出場も達成。

 大会得点王こそ1得点及ばずに逃したが、1大会7得点はアルゼンチン代表史上最多で、大会通算13得点は歴代4位タイ。しかも、同一大会でグループステージから決勝までの各ラウンドでの得点は大会史上初だという。

 メッシはクラブではPSGを含めて11回のリーグ制覇や4度のUEFAチャンピオンズリーグ優勝、3度のクラブワールドカップ優勝などの多くの成功を収め、個人でも7度のバロンドールと2度のFIFA年間最優秀選手賞受賞なども手にしてきた。

 代表でも昨年コパアメリカ南米選手権で優勝を遂げたが、そのなかで、2005年の代表デビューから170試合以上を戦ってきて、「これだけがなかった」(メッシ)というのがW杯のタイトルだった。

 それを手にしたメッシは、「みんなが望んでいたトロフィーを手に、国に戻ることができる」と喜んだ。

 アルゼンチン代表では1986年大会優勝の立役者となった故ディエゴ・マラドーナ氏が長年英雄として認識されてきた。

 早くから才能を示していたメッシは、その後継者として常に偉大な英雄と比較され、周囲から大きな期待を寄せられてきた。そして5回目の挑戦でやっとW杯優勝を手にした。

 これでようやく、マラドーナ氏との比較や呪縛、重責から解放されるに違いない。

 アルゼンチンとフランスの決勝は互いに一歩も譲らずPK戦にまで突入したが、両チームのエースが活躍した接戦、大会の締めくくりにふさわしい見ごたえのあるものとなり、今後への期待を抱かせるものでもあった。

 その思いはメッシも同じなのか。決勝後のアルゼンチンのTV局の取材に、代表活動を続けたい意向を口にしたと英紙などが報じた。

その一つ、英紙ガーディアンの電子版では、「僕はサッカーを愛しているし、代表チームの一員でいることを楽しんでいる。世界チャンピオンとしてあと数試合を経験してみたい」と語ったとされ、「これ(W杯)で自分のキャリアを締めくくりたかったし、これ以上望むものはない。こういう形でキャリアを終えるのは感動的だ。コパアメリカもW杯も獲った。これ以上何がある?」と語ったと報じられた。

 アルゼンチン代表のスカロニ監督は、試合後にメッシの代表続行の可能性を訊かれて、「彼が続けたいのなら一緒にやる。まずは代表を続けるかどうか、自分のキャリアで何をしたいか、彼に決める権利がある。彼と仕事をするのは私にとっては大きな喜びだ。選手として、人として、彼ほどチームメイトに大きなものを与える人はいない」と賞賛。

 2026年大会へ向けて彼の「枠」を取っておきたいと話して、メッシの代表続投を支持する姿勢を示した。

 32チーム制で最後のチャンピオンとなったアルゼンチン。メッシの去就は気になるところだが、2026年はアメリカ、カナダ、メキシコで開催され、出場は48チームに拡大される。今度はディフェンディングチャンピオンとしての戦いが待っている。


取材・文:木ノ原句望