いま富裕層がタワマンには目もくれず、「地方の一軒家」を建て始めたワケ
※本稿は、藤野英人『14歳の自分に伝えたい「お金の話」』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
■僕が東京のタワマンから逗子の家に引っ越した理由
僕自身は今、何にお金を使っているのか?
会社の社長をしていると言うと、「豪華な家や車にお金をかけているんでしょう」と思われがちですが、実はそういったものへの執着はそれほど強くありません。
今、僕が一番お金を使っている対象は「つながり」です。
家族とのつながり。
会社の仲間とのつながり。
友人とのつながり。
地域とのつながり。
自分の心や体とのつながり。
この1年を振り返って、大きな買い物だったなあと思い出すことの一つが、自宅の庭をアウトドアガーデンに改修する工事をお願いしたことでした。
キッチンとつながる窓の外にひさしをつけて、床に石を敷き詰めて。
雨の日でもアウトドア感覚で、家族や友人とバーベキューを楽しんだり、サンドイッチをほおばったりできるスペースをつくったのです。
こういうスペースをつくったのは、これまで以上に家族との時間を豊かに楽しめそうだし、お客さんも呼んでゆっくりと会話を味わえる時間をつくれそうだと考えたから。あれこれプランを描きながら少しずつ改修をするのも、ワクワクする時間でした。
ちなみに、僕の家は神奈川県の逗子市にあります。海と山に囲まれ、陽光と穏やかな風に恵まれた、空気もきれいな地域です。
とてもお気に入りのわが町ですが、実は1年前までは東京の高層マンションに住んでいました。
マンションの中には好きなピアノを運び込んだり、景色のいい部屋を選んだりしていて、それなりに満足できる生活を送っていました。ところが、2020年の春を境に、僕の人生のデザインが根本から変わったのです。
きっかけは全世界を襲った新型コロナウイルスでした。
■お金の使い方の変化は、「人生の変化」そのもの
僕が社長をやっている会社、レオス・キャピタルワークスでは、働き方のルールを原則在宅勤務に変えて、僕自身もオフィスに行かずに自宅で仕事をする日々に。これは大きな大きな変化でした。
そして、気づいたのです。これまでの生活はすべて「東京にあるオフィスで毎日働き、東京に暮らす」という一つの“型”を前提にしていたんだと。その型の中での幸せの最大化を目指していたのだと。
型はたった一つじゃない。いろんな選択肢があっていい。
そう考えた結果、暮らしの拠点を自然豊かで明るいエネルギーが溢れる場所へと移してみようという新しいアイディアが浮かんだのです。
引っ越しをした後には、新たな家族として犬を2匹迎えました。名前は「だんご」と「おもち」です。愛くるしい2匹は、家族に笑いと安らぎをもたらしてくれました。
新しい町に引っ越したり、住まいに合わせて家具をそろえたりするのには、結構なお金がかかります。でも、僕は積極的な自分の意思として「新しい暮らしのデザイン」にお金を使おうと決めたのです。
そして、この新しい暮らしの目的はやはり、「家族や仲間とのつながりを深めたい」というものでした。
在宅勤務で家にいる時間が激増したので、日常の中の楽しみとして「食」にもお金をかけるようになりました。
と言っても、野菜は家庭菜園で育て、パンはホームベーカリーマシンで焼くというものなので、年間何百回も会食目的の外食をしていた頃と比べたら、全然お金はかかっていません。
野菜の苗や園芸用の土、肥料にこれほど出費したのも人生で初めてでした。
お金の使い方の変化は、そのまま「人生の変化」なのだと実感しています。
■成功者の変化「ヤフー川邊社長は房総半島の自宅で動物たちと戯れる」
同時に、周りを見渡してみたときに、いわゆる「成功者」と呼ばれる人たちの「お金の使い方」が変わってきていることにも気づきました。
僕は投資家という仕事柄、超がつくほどの大金持ちの社長さんとも交流があります。彼・彼女たちのお金の使い道の象徴といえば、10年前には「都心の一等地の豪邸」や「豪華な専用クルーズ」の所有でした。
ところが、インターネットの発達により、「いつでもどこでも仕事ができる」という新しい前提が広がる中で、都心から離れた郊外に土地を買って、広い家に住み、都会にはない時間の流れや交流を楽しむ人たちが増えてきたのです。
ヤフー社長兼Zホールディングス社長の川邊健太郎さんは、房総半島の海辺にカントリー調の家を建てて、動物たちと戯れながら暮らす生活を始めました。
都会のように充実したインフラがない分、不便もあり、ある意味「非合理性」を追求した生活なのかもしれませんが、緊急会議にはヘリコプターを飛ばして参加するという「合理性」も兼ね備えたハイブリッドライフです。
川邊さんの枠にとらわれない自由な発想力に、僕も刺激をもらいました。
「つながり」のほか、お金をかけているのは「自分磨き」です。
英語を勉強したり、本を読んだり、トレーニングマシンの上に乗って歩いたり走ったり。自分の心と体を磨くための時間とお金は、この1年でとても増えました。
ただ、この自分磨きも「なんのためにやっているか?」と突き詰めて考えると、「つながりをつくるため」だと思います。
英語を勉強すれば、たくさんの人とコミュニケーションが取れるようになる。本を読んでいろんな知識をつければ、会話が楽しくなる。定期的な運動で健康を維持すれば、いつまでも人に会いに行ける。こうした目的意識の元、楽しみながら続けています。
「人間」という字が表すように、人は“人との間”にいろいろなものを生み出す中で、その生涯を満たしていく生き物です。
長い人生を、人とつながり、つながりから豊かさを生み出せるように。
僕は意思をめぐらせながら、つながりにお金を使っています。
■「寄付」は困った人も自分自身も助ける
お金の使い方として、「寄付」という選択を考える人も増えています。
君は「寄付」と言うとどういうものを思い浮かべますか?
駅前などの街頭で「募金のご協力よろしくお願いします」と呼びかける人たちを見たことはきっとあるでしょう。コンビニのレジの横に募金箱が置いてあることもありますよね。
最近はインターネットを通じて、寄付活動をする団体も増えました。2020年に新型コロナウイルスの影響で社会の状況が激変したときには、収入が途絶えてしまった人たちや、マスクなどの物資不足に困る医療関係者のために、たくさんの寄付プロジェクトが立ち上がりました。
君のお父さんやお母さん、あるいは君自身も寄付に参加したことがあるかもしれません。素晴らしいことだと思います。
僕が寄付を「素晴らしい」と考えるのは、困った人を助ける行動だからというだけではありません。
寄付は、社会全体の経済を活性化する行動でもあるのです。さらにいえば、その循環は、まわり回って自分自身を助けてくれます。
そう、君が寄付したお金は、実は君のお財布の中に返ってくる。場合によっては、寄付した金額以上になって返ってきます。
■お金はまるでドミノ倒しのように影響する
寄付は自分のお金を誰かにあげる行動なのだから、お金は減るだけなのでは?
そう感じたかもしれません。では、わかりやすい例を紹介しましょう。
NPO法人グッドネーバーズ・ジャパンが2017年に始めた「グッドごはん」というプロジェクトがあります。
これは、困窮するひとり親家庭に向けて、食品を定期的に届ける活動です。個人や企業、学校などの団体から集めたお金や食品が、食費を十分に払えない家庭に届き、家族の健康を守るために役立てられています。
この活動の様子を報告する動画を僕は見たのですが、そこには「これまで食材を買うので精一杯だったけれど、食品の提供を受けられたことで、子どもにゲーム機を買ってあげられた」という声が紹介されていました。また、ホームページには「娘に暖かいコートを買いました」というコメントも掲載されています。
つまり、誰かが誰かに行う寄付によって、ゲーム機やコートを買うという“消費”が新たに生まれたのです。
その消費は、やがてゲーム機やコートをつくる会社、売る会社で働く人たちの給料になります。その給料を受け取った人たちがまた、何かを買い、そのお金がまた誰かの給料になり、世の中全体を潤していく。
このサイクルの起点の一つになっているのが「寄付」。そう、昨日、君がコンビニの募金箱に入れた10円なのかもしれないのです。そして、まわり回って、君のお父さんやお母さんの給料にもなって、君のお小遣いとして返ってくる。
面白いでしょう。お金はまるでドミノ倒しのように次から次へと誰かの生活に影響していくのです。
■日本の未来は「共助」の循環にかかっている
NHKで放送されている「ピタゴラスイッチ」という番組があります。軽快な音楽とともに、わずかな運動エネルギーをきっかけに様々な仕掛けが順番に動き、最後は「ピ」の旗が上がる。僕はあれを見るたびに、「お金の循環と一緒だなあ」とワクワクするのです。
AがBを倒し、BがCを回転させ、CがDを転がして、最終的にZになる。途中はどうつながっているのかがよく見えない場合も多いのだけれど、実は全部ちゃんと連鎖構造になっている。
僕たちはこのつながりの連鎖によって、お互いを助け合うことができるのです。
「自助・共助・公助」という言葉を聞いたことはありますか?
一番目の自助とは、個人が自分で自分を助けること。困ったときには、まずは自分でなんとかしようと頑張ってみる。これは、ファーストステップとして持っておきたい心構えですね。
三番目の公助とは、国や公的機関が個人を助けること。お金がなくなって困ったときに、国の補助があると安心ですね。でも、皆が皆、国のお財布を頼ったらどうなるでしょう。国のお財布の財源は税金です。日本は高齢化社会にすでに突入していて、働く世代が減っているので財源にゆとりがあるわけではありません。
そこで、重要になるのが二番目の共助です。民間の力での助け合い。ゆとりのある個人や企業が、困っている人や企業を助けていく。この共助の循環をいかに活性化していけるかどうかに、日本の未来はかかっていると僕は考えています。
共助の例の一つが、毎日の買い物であり、寄付であり、投資というアクションでもあるのです。
僕が経営するレオス・キャピタルワークスでも、寄付の流れを促進する貢献ができないかと考え、今まさにプロジェクトが立ち上がったところです。
僕がやろうと旗を振ったわけではなくて、一緒に働く仲間たちから、アイディアの提案が上がってきたことはとてもうれしいことでした。
社会全体が苦しい状況になったとき、きっと僕たちは試されているのだと思います。
お金を誰のためにどう使い、どう回していくのか。その先にどんな未来をつくれるのか。
君もまた、その輪の中に入っている一員なのです。
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藤野 英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークス 会長兼社長・最高投資責任者
1966年富山県生まれ。1990年早稲田大学法学部卒業。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。主に日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。JPXアカデミーフェロー、東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師。一般社団法人投資信託協会理事。
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(レオス・キャピタルワークス 会長兼社長・最高投資責任者 藤野 英人)