名波浩監督が明かす、ジュビロを救った「奇跡のゴール」秘話
解説者・福田正博氏が直撃!
ジュビロ磐田・名波浩監督の本音に迫る(2)
ジュビロ磐田がJ1自動昇格を決めたJ2最終節の大分トリニータ戦は、壮絶な戦いだった。奇跡の勝利をつかんだその試合の舞台裏について、解説者の福田正博氏がジュビロの名波浩監督を直撃し、話を聞いた。さらに今回は、名波監督がどうやってチームを建て直してきたのか、その手腕にも迫る――。
福田:ジュビロ磐田がJ1昇格を決めた大分トリニータ戦(第42節/11月23日)は、本当に凄まじかった。1−0とリードしながら、土壇場で大分に同点ゴールを決められた。しかし、あのFWパウリーニョのゴールはびっくりしたね。正直、事故だなと思った。あれが入っちゃったら、仕方がない。
名波:ほんと、事故ですよ。しかも、パウリーニョはすごくコンディションが悪かったらしくて、最終戦が今季2試合目の出場ですから。もちろん、パンチ力があって、シュートがうまいのもわかってはいたんですけどね......。でも、それにしたって......、ですよ。
福田:ゴールを決められた瞬間、どういう気持ちだったの?
名波:「持ってねぇなぁ〜」って。
福田:自分が?
名波:前日ミーティングで(J1昇格を逃した)昨季の映像(※)を見たばかりだったし、「うわッ、持ってねぇな、オレ」って思いましたよ。
※昨年のJ1昇格プレーオフ準決勝、ジュビロはモンテディオ山形と対戦。土壇場で山形のGK山岸範宏に決勝ゴールを決められてJ1昇格を逃す。
福田:前日に見た、モチベーション向上ビデオが悪かったわけだ。
名波:いやいや、そんなことは思わないですよ(笑)。考えていたのは、交代枠がもうひとつあること。
福田:同点にされて、すぐに(選手交代に)動いたもんね。
名波:そういう状況に備えて、パワープレーの練習をしていましたから。本来DFの藤田義明をフォワードのポジションに入れて、ロングボールやサイドからのクロスで(藤田の高さを生かして)どうにかしようと思っていたんですよ。それで、最初はMFアダイウトンと(藤田を)代える予定にしていたんですが、アダイウトンはペナルティーボックスの中までボールを運べば、最後にドカーンっていうパワーを持っているから、ボランチの上田康太を引っ込めることにしたんです。
ところが、ベンチで交代の準備をしていると、試合が再開されて、左サイドバックの宮崎智彦からアダイウトン、康太とつないで、康太のシンプルなクロスからMF小林祐希がシュートを決めた。あの場面、左サイドでアダイウトンがタテのスペースに走り込んだ康太につないだんだけど、大分のボランチがバテていて、康太にはパウリーニョが(マークに)ついていかざるを得ない状況になった。もし普通にボランチの選手に対応されていたら、(上田が)潰されているか、スローインになっていた。選手がみんな前向きだったこともあるんですが、あれはラッキーでしたね。
福田:あっという間の同点劇だった。何が起きたんだって感じだったよ。それでも、同点に追いつかれたときも、名波監督はすごく冷静に見えていた。
名波:冷静でしたね。
福田:バタバタしちゃうというか、慌てるような感じはなかったの?
名波:腹の中では「オレ、持ってねぇな」って、その連呼ですよ(笑)。とにかく「これは、オレが悪い」って、それだけ。昨年のことも含めてね。
福田:でも、最後に点を取りにいかなければいけない状況を想定して、準備していたわけだから、冷静だったんじゃないの?
名波:確かに、頭の中はクリアでした。
福田:ベンチが慌てたり、バタバタしたりすると、それがピッチにいる選手に伝わるでしょ。それで、選手も慌てたりするんだけど、そういう雰囲気がまったく感じられなかったから。
名波:そうですね、選手も、ベンチも、落ち着いていましたね。
福田:だから、再び勝ち越すことができたんだろうね。選手もほんと、よく決めたと思うよ。
名波:最後のゴールは、決めた小林本人も言っていましたけど、1年間、あの練習をずっとやってきていましたからね。コントロールシュートの練習を。
福田:いいシュートだった。あのシュートを決め切れるのは、すごくいい選手だと思ったよ。
名波:いい選手ですよ。ゲームを作る選手として「常にボールサイドに顔を出して、ボールを触りながらゴール前に行け」ってずっと言ってきて、やっと殻を破った感じ。まあ、最後の5、6試合ですけどね、よくなってきたのは。
福田:何にしても、無事J1昇格を決めてよかったよ。それで、ちょっと話を戻したいんだけど、J2での2年目のシーズンを迎えるにあたって、それまで主力だった選手が結構チームから移籍することになったでしょ。特に、FW前田遼一(FC東京)をはじめ、攻撃陣の主力がたくさんいなくなって、不安はなかった?
名波:もちろん、ありましたよ。でも、彼らのサッカー人生だから、こっちが強引に引き止めるわけにはいかないし......。それに、一度"チームを壊す"という意味でも、そこから新たなチームを作り上げるという意味でも、大きな柱がなくなることが、ひとつのいいきっかけになるのかな、と思うようにしました。それで、(川崎フロンターレにいた)デカモリシ(FW森島康仁)にすぐ声をかけて、FWジェイも獲得した。
福田:元イングランド代表でもあるジェイ・ボスロイドね。彼は、どういう経緯で獲得したの?
名波:詳しく話すとちょっと長くなるんだけど、簡潔に言うと、ジェイはタイでプレーしていたんですが、契約を解除して「日本でプレーしたい」という希望を本人が持っていたらしいんですね。そうしたら、シゲヨシ(※)から電話があって、彼を通じて(ジェイが)会いたいと言ってきたんですよ。それで実際、1回は会ったんですが、実はすでにうちの外国人枠は埋まっていて、最初は断ったんです。ところが、ジュビロの鹿児島キャンプが始まってみると、契約を前提としていたパラグアイ人のDFが今ひとつだった。いい選手だったんですが、幸か不幸か、合格には至らなかった。そこですぐ、ジェイに「鹿児島に来い」って連絡したんです。そして、次の日くらいには契約したんですよ。
※望月重良/SC相模原代表。現役時代は主に名古屋グランパスで活躍。元日本代表。名波監督とは清水市商高時代の後輩でもある。
福田:それは、ラッキーだったんじゃないの。最終的にはJ2の得点王を獲得できたわけだから。そういう意味では名波監督も"持ってる"ね。
名波:そこは、持ってましたね(笑)。GMの加藤久さんや強化部長のハット(服部年宏氏)とかは、一切(ジェイとは)会ってもいないんですが、「とにかく、オレを信じてくれ」と説得して、獲得してもらった。
福田:そうして、シーズンを戦うメンバーが決まって、どういったことをメインに取り組んできたんだろうか。
名波:まずメンタル的なことを言えば、J1昇格プレーオフで負けた「昨季のあの悔しさは忘れるな」と言ってきましたね。あと、相手がもう、うちを過大評価してリスペクトして戦ってくるわけじゃないってことも言いました。戦術的には、いかに高い位置でボールを奪って、いかに速くフィニッシュまで持っていくか。その点は特化してやってきたので、最初の15試合くらいは非常にいいものが出せていましたね。たぶんJ2の中では、ボールを奪うエリアが一番高かっただろうし、ボールを奪ってからフィニッシュまでの時間も一番速かったんじゃないかな。そこは、選手も自信を持っていたと思います。
福田:選手に対して、口酸っぱく言っていたこととかある?
名波:仲間意識。チームへの忠誠心。
福田:その仲間意識っていうのは、どういうこと?
名波:細かいことで言えば、言葉遣いに気をつけるとか。例えば、福田さんがミスしたとして、周りから「おい、何やってんだ、フク!」とか言われて、そのあと、チッって舌打ちされたりしたら気分悪いでしょ。
福田:ああ、わかる、わかる。
名波:そういうのは、許さない。即、注意する。
福田:そういえば、選手たちに、みんなで一緒に食事に行くようにうながしていた、という話も聞いたけど。
名波:そこは、ベテラン選手をつかまえて、相当言いました。「おまえら、多くもらっている意味を考えろ」って言っていましたね(笑)。
福田:今の若い子って、ベテラン選手とかと一緒に食事に行ったりしないでしょ?
名波:それが、行くようになったんですよ。今では「行き過ぎだろ」っていうほど、みんなで一緒に食事に行っている。良いか、悪いかは別にして、寮生たちも先輩に連れて行ってもらって、どんどん外食するようになった。でも、そうすれば、先輩たちにいろいろ教えてもらえるじゃないですか。それに、絶対にサッカーの話をするでしょ。前の試合を振り返ったり、次の対戦相手のことを話したりして、自分たちのサッカーや、プレーについても語る。そこで、キャリアのある選手が、若手にアドバイスをしてあげればいい。そういう中で、疑問に思っていたことが解決できるかもしれないし、それぞれどんなことを考えているかがわかれば、それがピッチ上でも必ず生きると思う。
福田:そこで得られるモノって、結構多いからね。
名波:多いんですよ。でも、福田さんは代表のとき、全然食事に連れて行ってくれなかったね。井原さん(正巳/現アビスパ福岡監督)は、よく連れていってくれたんだけどなぁ〜(笑)。
福田:だから、井原は今、成功しているんだよ!
名波:福田さんも成功しているじゃないですか!
福田:してないよ!って、いいんだよ、オレの話は(笑)。とにかく、改めて振り返ってみて、J1昇格を果たせた最大の要因は何だと思う?
名波:月並みですが、仲間意識が生まれて、チームが同じ方向を向いていた。そして、ファンやサポーター、フロント、現場スタッフと選手、それら三位一体になってやっていけたのが大きかったと思います。あとは終盤、大宮アルディージャ、福岡と三つ巴になって、互いに刺激し合ったことで、それがまたいいモチベーションになった。
福田:最終的には、昨季の悔しい経験も生きていたんじゃない?
名波:最終戦、残り1分で生きていましたね。同点にされても、選手誰もがピッチ上にひれ伏すことなく、すぐにボールを取りに行って、みんなが前向きになっていましたから。実は、昨季も(山形の)GK山岸にゴールを決められたあと、まだ時間があって、1チャンス、2チャンスは作れていたと思うんですよ。でも昨季は、そういう雰囲気が作れなかった。
福田:名波監督自身はどうなの?
名波:昨季は確かにボーッとしていましたね。交代枠を使い切って、ベンチワークとしてはやることがなかったんですが、選手への声かけや、いろいろな指示を与えることができたはずなんです。でも、ゴールを決められて、30秒くらいはボーッとしていた。それが、今季は頭の中もクリアでしたから、あの経験は生かされていたんでしょうね。
(つづく)
渡辺達也●構成 text by Watanabe Tatsuya
佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki
