求刑27年の内田梨瑚・判決現地レポ「傍聴希望者はまるで井戸端会議のようだった」
6月22日、15時過ぎ――。旭川地裁の前で並んでいた筆者のスマートフォンに「内田被告を懲役27年に処す」という判決の速報が通知された。その途端、何人もの警察官が慌ただしく敷地周辺を駆け回った。周囲にたちまち緊迫した雰囲気が立ち込める。日本中の注目集めた凶悪事件を裁く法廷は、その判決日にも異例の騒ぎを巻き起こしていた。そして、筆者の目の前を新たな“容疑者”を乗せたパトカーが走り去ったのだ――。【取材・文=白鳥純一】
【写真】あたりは一時騒然となり…“新たな容疑者”を乗せて旭川地裁の敷地内を走るパトカー
2024年4月、北海道旭川市の神居大橋で、留萌市の女子高校生(当時17)を車に監禁した後に川に転落死させた主犯格として、殺人などの罪に問われていた内田梨瑚被告(23)の裁判員裁判の判決が、6月22日に旭川地裁で言い渡された。

「立ち去った後に被害者が川に落ちた」と主張する内田被告に対し、その“舎弟”だった小西優花受刑者(懲役23年が確定)は「内田被告が被害者の肩甲骨付近を、両手のひらで押した」と殺害行為を供述しており、大きく異なる証言の真偽性が焦点となっていた。
これに対し検察側は、内田被告が問われていた殺人、不同意わいせつ致死、監禁の罪はいずれも成立し、「心身共に極限まで追い詰めた上で確実に死に至らしめ、その痕跡すら残らない方法で殺害しており、極めて残虐・悪質である」(田中結花裁判長)と指摘。
「人格や尊厳を踏みにじる犯行は非常に残虐で卑劣。被害者の死亡に直接つながる行為を決定して指示し、役割は共犯者より大きい」として、内田被告に求刑通りの懲役27年を言い渡した。
傍聴希望者は300人超え
凶悪な事件に法の裁きが下された旭川地裁は、旭川駅から約4キロ離れた場所に位置し、戦没者を祀った北海道護国神社や、旭川で育った通算300勝投手のヴィクトル・スタルヒン投手(巨人など)の名前がつけられたスタルヒン球場などが近隣にある、緑に囲まれたエリアにある。判決が下された当日も、梅雨のない北海道らしく過ごしやすい気候で、この街で生まれ育った凶悪な犯罪者が法の裁きを受けるとは思えないような、穏やかな空気が立ち込めていた。
このような残虐な事件を起こした主犯が、自身に下される判決をどのような表情で、受け止めるのか。はるばる旭川を訪れた筆者も、13時から配布される傍聴券を求める列に並び、運命の時を待った。
旭川地裁に向かうと配布の20分前にもかかわらず、傍聴券を求める長蛇の列が地裁のビルを囲んでいた。正面のA棟から建物沿いに列を作った人々の行列は、目測で150人ほど。発表によると、今回の裁判で最も多い373人がこの日の抽選に参加したそうだが、列に並ぶ一個人としても、さまざまな世代の老若男女が次から次へと列に加わる様子を垣間見て、当該事件に対する関心の高さを改めて感じさせられた。
カフェで井戸端会議に花を咲かせる傍聴希望者も
旭川地裁のB棟1階にある食堂で、傍聴の抽選番号が書かれた黄色いリストバンドを手に巻かれ、職員から当選後の手続きについて説明がなされると、傍聴希望者は建物の外へ。
抽選の申し込みは13時30分に締め切られ、結果が発表される14時まで30分ほどしかなかったものの、想像以上の希望者が地裁を訪れたこともあってか、敷地内の掲示板ではなく、インターネットでの結果閲覧を懸命に訴える職員の姿が印象に残った。
そのような背景もあり、当選者が決まるまでの30分間は、地裁の前で偶然出会った知人に挨拶を交わす人々の姿や、抽選に申し込んだ証しでもある黄色いリストバンドを腕に巻いた人々が、地裁の近所にあるカフェやファーストフード店に次々と押しかけ、井戸端会議に花を咲かせる光景も随所に見られた。それでも地元が生み出してしまった凶悪犯が、どのような法の裁きを受けるのか。一見普段と変わらない日常を過ごしているように見える中にも、近隣に住むものにしか共有できない複雑な気持ちや、事件によって少なからず傷つけられてしまった故郷の“悪評”に対するやり場のない思いをどこにぶつけるべきなのか。事件をきっかけに抱いたさまざまな感情の落とし所を、傍聴者もまた必死に探し求めているようにも感じられた。
乱入者に地裁前も騒然
結論から言うと、残念ながらわずか24席しかない一般傍聴席の抽選に漏れ、筆者は法廷内に立ち入ることは叶わなかった。
だが、地裁の前で開廷時刻の15時を迎えたころ、冒頭の展開に見舞われた。主文が言い渡された直後に、自称北九州市門司区、配達業を名乗る48歳の男性が法廷内に立ち入ったのだ。
後に村山哲志容疑者と身元が判明する男は、傍聴席の柵を乗り越えて裁判官の席に向かうと、「こんな判決があってたまるか! 死刑やろうが、何が(懲役)27年だ。生ぬるいこと言ってんじゃねえ! 家族が報われないだろう!」と叫ぶと、ほどなく警備員や裁判所の職員に取り押さえられて現行犯で逮捕される。そして、村山容疑者は15時35分頃に警察車両に乗せられ、旭川地裁を後にする。容疑者は後部座席に乗っていたが、車内は暗く表情は読み取れなかった。
約45分間の中断を経て法廷が再開されると、旭川地裁は内田被告に求刑通りの懲役27年の判決を言い渡し、注目の裁判は幕を下ろした。
司法の限界に課題も見えた
判決文では「人格や尊厳を踏みにじる犯行は非常に残虐で卑劣。被害者の死亡に直接つながる行為を(内田被告は)決定して指示し、役割は(小西受刑者らの)共犯者より大きい。多大な絶望感や恐怖心を味わわせ、繰り返し死を迫った、残虐で卑劣な犯行だ」
「(内田)被告の言動は、被害者が橋から誤って落下したか、みずから落下したかのいずれであっても、殺人の実行行為にあたると認められる」(田中結花裁判長)と記され、内田被告には有期刑の最長である30年間に迫る懲役27年間の判決が下されたが……。極悪非道な所業や、事実関係の否定を続け、真摯に反省する姿が見られない内田被告に対しては、さらなる厳罰を望む声も絶えない。
SNSの投稿を機にトラブルに発展し、自分勝手な理由で被害者を殺害に追いやったこの事件。その手口の残虐性や、裁判員裁判だった性質もあって、多くの注目を集めたが、司法制度と感情の乖離については、課題を投げかけるものであった。
内田被告の弁護人が「判決文を見てゆっくり考える」とした控訴の期限は、判決の翌日から数えて14日目にあたる7月6日まで。仮に控訴を取り下げた場合には、第一審の懲役27年の判決が確定することとなる。世間を轟かせた裁判を終え、平静を取り戻した旭川の街にはパラパラと雨が降り始めていた。
ライター・白鳥純一
デイリー新潮編集部
