【山本 直彌】都心タワマンで「修繕積立金の値上げ」を阻む投資勢… ”マンションで稼ぎたい人”の大量流入がもたらす「資産価値の下落」

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新築マンションの価格高騰が止まらない中、中古マンションへの注目が高まっている。

購入を検討する際、多くの人が気にするのは価格や立地、築年数といった条件だろう。だが、中古マンションの価値を長期的に左右するのは、実はそうした条件と同じくらい、所有者同士の合意形成がうまく機能するかどうかにかかっている。

しかしながら、修繕積立金の値上げを一つ決めるだけで、総会が膠着し、何年も話が進まないマンションがある。折からのインフレと工事費の高騰で値上げの必要性は高まる一方なのに、合意にたどり着けないケースが増えているのだ。

なぜここまで揉めるのか。そしてなぜ今、所有者同士の対立が深刻さを増しているのか。

前編記事〈「修繕積立金の値上げは私が死んでからにして」…シニアと現役世代の対立が激化《人気の中古マンションの深刻な現状》〉から続く。

住戸の半分が賃貸のケースも…

このような所有者間の摩擦は、郊外の中古マンションに限った話ではない。都心の大規模タワーマンションでも、異なる構図の対立が生まれている。というのも都内では、住戸の50%以上が賃貸に出されている物件も存在する。

そのような背景がある中では、マンションに付加価値をつけるバリューアップ工事の合意を取ることすら困難となってしまう。

実際に住んでいる人は歓迎する一方、投資目的の所有者はコスト増を嫌って反対に回りやすい。「マンションに住む人」と「マンションで稼ぎたい人」では、同じ工事に対する受け止め方がまるで違うためだ。

さらに再開発で建てられたマンションにも、独特の事情がある。

もともとその土地を持っていた地権者が、土地の権利と引き換えに住戸を取得する「等価交換」という仕組みだ。つまり高い金額を支払って購入した住民と、等価交換で取得した地権者とでは管理費や修繕積立金に対する感覚が根本的に異なることになる。値上げの議論がかみ合わなくなるゆえんでもある。

修繕費を今上げないというリスク

ここまで見てきたとおり、場所や所有者構成は違っても、所有する目的が異なる人たちの間で一つの方針を決めなければならない、という難しさが生じる。だが、どれほど意見が割れていても、建物の老朽化は待ってはくれない。修繕が必要な時期は確実にやってくるし、その費用は年を追うごとに上がり続けている。

新所有者もシニアも投資家も、「できることなら修繕積立金は上げたくない」という思いは同じだろう。

だが、実は選択肢は二つしかない。

今上げるか、後でもっと上げるかだ。工事費はインフレと人手不足を背景に上がり続けている。今の安い積立額を維持すれば、将来の不足分は年を追うごとに膨らむ。

先送りにした分だけ、最終的に必要となる値上げ幅は大きくなっていく。大幅な一括値上げか、一時金の徴収か、借り入れか。いずれの手段を取るにしても、後になるほど所有者の負担は重くなるという構造は変わらない。

これは投資家にとっても同じことだ。維持管理が行き届いたマンションは賃貸市場でも競争力がある。早い段階で適正額に引き上げておくことは、将来の急激なコスト増を避け、収益の安定につなげることでもある。目先のランニングコストだけを見て判断するのは、長期的にはかえって不利に働きかねない。

先送りで管理計画が行き詰まる

では、そのツケが実際に回ってきたとき、マンションには何が起きるのか。最も深刻なのは、「必要な修繕ができなくなる」という事態だ。

外壁タイルが剥がれたまま放置されているマンションを見て、購入に踏み切れるだろうか。エレベーターの動作に不安を覚えるマンションに、積極的に住みたいと思えるだろうか。修繕の先送りは、所有者一人ひとりの資産価値を直接毀損することになる。

やむを得ず一時金を徴収するにしても、数百万円規模になれば払えない住戸が出てくることは避けられない。一時金ありきで修繕計画を組むこと自体、すでに計画として成り立っていないと言わざるを得ない。

借り入れという選択肢もあるが、金利と保証金の負担がかさむうえ、返済のためにどのみち積立金の引き上げが必要になる。

結局のところ、先送りは問題を解消するどころか、将来の選択肢を狭めていくだけなのだ。早い段階での適正な額の設定がいかに重要だったか、事態が深刻化してから初めて痛感させられる、という管理組合のケースも少なくない。

合意形成のための3つの対策

マンション管理における対立への備えは、大きく三つ考えることができる。

(1)購入前に議事録を必ずチェックする

これからマンションを購入する方にとっては、理事会議事録や総会議事録の確認が一つの手がかりになる。売買時の重要事項説明書には管理の概況は載っているものの、管理組合内でどんな議論が交わされているかまでは記載されていないことが多い。議事録を確認すれば、揉め事の有無や過去のトラブルをある程度つかむことができる。

ただし、わかるのは過去と現在の話であり、将来の問題までは予測できない。だからこそ、購入後に管理組合の運営へ積極的に関わることが大切になる。

(2)対立にはルールと第三者の力で対処する

あるマンションでは、管理規約を見直して理事の再任を制限した。理事会の中で「誰の意見が正しいか」という争いが続き、活動が停滞していたためだ。多くの所有者が交代で理事を務める形にしたことで、分断を解消した事例である。

また、対立している当事者同士では平行線だった議論も、私たちさくら事務所のような第三者が間に入ることでスムーズに合意へと導けるケースは少なくない。感情がもつれた状態では、誰が言うかで受け止め方が変わるものだ。

現実として、トラブルの中心にいた所有者が退去したことで好転するケースもあり、マンションの流動性を高い状態に保つこと自体が、合意形成のしやすさにつながるという側面もある。

「日々の挨拶」の偉大な効果

(3)最大の予防策として「日々の挨拶」を習慣づける

前編で触れた、郊外マンションでの「新旧所有者の衝突」のように、対立の根底には感情のもつれがある。裏を返せば、日頃から所有者同士の関係を築いておくことが、最も確実な予防策にもなり得るのだ。

廊下での挨拶、管理組合の行事への参加…日々の積み重ねが大きな意味を持つ。顔の見える関係があるかないかで、いざ意見が割れたときの受け止め方は大きく変わっていくと心得ておきたい。

総会の運営ルールを事前に整えておくことも有効だ。

発言は1人何分までとする、質疑のタイミングを明確にする、といった取り決めがあるだけで、議事の紛糾を防ぎやすくなる。また新所有者の要望とシニア世帯の負担感を両立させる工夫もある。

例えば、予定していた修繕工事の中で、建物の状態が良好な箇所は実施を見送り、浮いた予算で住環境の改善に充てる。こうした柔軟な予算配分は、対立を回避しながら双方の納得を得る現実的な方法だ。

なお、インフレ下では修繕積立金の運用を検討する管理組合も出てきている。マンションすまい・る債や国債などが選択肢に挙がるが、あくまで現金価値の目減りを防ぐことが目的であり、「稼ぐ」ための運用ではない。検討する場合は、目的とルールを住民全体で共有しておくことが前提になる。

住まいの未来を他人事にしない

マンション価格の高騰が所有者構成の多様化を一気に進め、かつてなら自然にまとまっていた合意形成を難しくしている。この流れ自体を止めることは難しいかもしれない。

しかし、対立の多くは所有者同士の「前提のズレ」や「感情のもつれ」から生まれている。

裏を返せば、日頃のコミュニケーションとルールの整備で、防げる対立は少なくないということだ。まずは次の総会に足を運ぶこと、隣の住民に挨拶すること。その小さな一歩が、自分の住まいの資産価値を守ることにつながっていく。

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