(※写真はイメージです/PIXTA)

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高齢の親を支える方法として、子どもとの同居を選ぶ家庭は少なくありません。家賃や生活費を抑えられる一方で、家事、通院、見守り、精神的な負担が一人に偏ることもあります。親を大切に思う気持ちがあっても、自分の生活や仕事を守れなくなれば、同居の継続が難しくなることもあります。

「一緒に暮らせば安心」のはずが…母との生活で消えていく時間

真由美さん(仮名・54歳)は、独身で会社勤めを続けてきました。月収は約39万円。決して余裕がないわけではありませんが、老後のための貯蓄や自分の住まいの家賃を考えると、自由に使えるお金は限られていました。

母の照子さん(仮名・77歳)は、夫を亡くしたあと一人暮らしをしていました。年金は月13万円ほど。大きな持病はないものの、足腰が弱くなり、買い物や通院に不安が出てきます。

「一人だと心配だから、しばらく一緒に暮らそうか」

そう言ったのは、真由美さんのほうでした。

最初は、うまくいくと思っていました。照子さんの年金から食費や光熱費の一部を出してもらい、真由美さんが家賃や大きな支払いを負担する。母の様子も近くで見られる。何より、母が安心してくれると思ったのです。

ところが、同居から半年ほどで、生活は少しずつ崩れていきました。

朝は母の朝食を用意し、薬を確認してから出勤。仕事中にも「郵便物が来た」「ガスの点検と言われた」「病院の予約日が分からない」と電話が入ります。帰宅後は夕食の準備、家計の確認、通院の付き添いの調整。休日は買い物と掃除で終わりました。

「一緒に住んでいるんだから、これくらい普通でしょ」

照子さんに悪気はありませんでした。しかし、その言葉が真由美さんを追い詰めました。

総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得約11.8万円に対し、消費支出は約14.8万円で、平均では毎月約3.0万円の不足となっています。年金月13万円の照子さんも、医療費や日用品代が重なる月には、年金だけで余裕があるとは言えませんでした。

その不足を埋めるように、真由美さんの負担は増えていきました。

「母のため」と思って始めた同居でした。それでも、気づけば自分の貯蓄は増えず、友人と会う時間も減り、夜は疲れて何もできなくなっていました。

ある日、真由美さんが残業で遅く帰ると、照子さんは不機嫌そうに言いました。

「こんな時間まで仕事? 私は一日中ひとりだったのよ」

「見捨てる」のではなく、共倒れを避けるための別居

真由美さんが限界を感じたのは、会社で小さなミスが続いたころでした。

会議の資料を取り違え、取引先への返信を忘れる。夜眠れず、朝になると動悸がする。上司から「少し休んだほうがいいのでは」と言われたとき、真由美さんは初めて、自分が相当疲れていることに気づきました。

「このままだと、私が働けなくなる」

そう思い、地域包括支援センターに相談しました。母の状態を伝えると、介護保険サービスの利用や、見守り体制の整備、将来的な住まいの選択肢について説明を受けました。

内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和7年時点で65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%と推計されています。高齢の親が一人で暮らすこと自体は、珍しいことではありません。大切なのは、家族だけで抱え込まず、必要な支援につなげることです。

真由美さんは、照子さんに別居を提案しました。母は最初、強く反発しました。

「私を追い出すの?」

「親不孝だと思わないの?」

真由美さんは泣きながら答えました。

「親不孝かもしれない。でも、このまま一緒にいたら、私も母さんも壊れてしまう」

話し合いの末、照子さんは高齢者向けの賃貸住宅に移ることになりました。家賃はかかりますが、見守りサービスがあり、買い物や通院の支援も受けやすい場所です。真由美さんは毎週末に訪ね、平日は電話で様子を確認する形に変えました。

親の生活を支える方法は、同居だけではないのです。

別居後、照子さんはしばらく寂しそうでした。それでも、近所の人と話す機会が増え、配食サービスも利用するようになりました。真由美さんも、仕事帰りに自分のための時間を少しずつ取り戻していきました。

親を思いやることと、自分自身の生活や将来を犠牲にすることは、イコールではありません。介護や見守りは、家族の愛情だけで続けられるものではなく、時間、体力、お金、心の余裕が必要です。

同居を終わらせる決断は、冷たい選択に見えるかもしれません。しかし、共倒れを防ぎ、親子の関係を守るために、距離を置くことが必要な場合もあります。

親のために何ができるかを考えるとき、自分がどこまでなら続けられるのかも同時に考えることが大切なのかもしれません。