【難波 猛】「上司が怖い」が25.4%…”退職代行”利用者こそ陥る、終わらない「上司ガチャ」の落とし穴
メディアでたびたび取り上げられるようになった「退職代行」。しかし、退職代行に頼ってばかりいると、問題が解決しないまま、先送りにされてしまう恐れがある。人事コンサルタントで、著書に『ボスマネジメント』がある難波猛氏が、退職代行を頼もうと思ったときに必ずやってほしいことを教える。
利用者が急速に増えている「退職代行」
「退職代行」も、近年メディアで取り上げられるようになったキーワードです。
本人ではなく、第三者が代わりに退職の意向を伝えるという行為そのものは、昔からありました。
主に家族や弁護士が本人に代わって伝えていましたが、近年の特徴は、退職代行をビジネスとして請け負う専門業者が現れ、その手軽さから利用する人たちが急速に増えている点にあります。
退職代行を利用すること自体、私は一概に悪いことだとは考えていません。
会社側にも「採用プロセス代行(RPO/Recruitment Process Outsourcing)」というサービスが存在していますし、「何かしらの業務をアウトソースする」こと自体は否定されることではないと考えています。
むしろ、自分の意見を伝えることも難しい上司や、心身を壊すような環境から抜け出す手段があることは、大切な安全装置だといえるでしょう。
上司と対話しないまま辞めていいのか
退職代行を利用する理由のひとつにあるのが、上司に対する心理的負担です。弁護士法人mamoriが実施した「退職代行に関する意識調査」では、退職を自分で言えない理由として最も多かったのは「上司が怖い・高圧的」(25.4%)でした。
「上司と話す気力がない」「上司が怖い」「どうせ言っても理解されない」「上司とはこれ以上関わりたくない」……。その気持ちに至るには相当理不尽なことがあったのかもしれませんし、その感情自体を否定はしません。
しかし、上司との対話を一回も行わず、向き合うことを避けたままの選択だとしたら、職場を変えたとしても、また同じことを繰り返す可能性があります。
たとえ転職時に「経営者が魅力的だった」「採用担当者が素敵だった」と感じても、実際に入社すると、日々一緒に働く上司は別にいます。
また、採用面接で直属の上司や同僚と話す機会があったとしても、シビアに言えばお互い「採用用の顔」と「面接用の顔」で短時間接するにすぎません。
上司への不満で転職するという行為は、いわば「上司ガチャを引き直す」行為ともいえます。どこかで「しっかり対話して信頼関係を自分から構築する努力」は必要です。
退職代行は、費用さえ払えば比較的簡単に会社を辞めることができます。その手軽さゆえに、対話を経ないまま環境を変えるという選択が、安易に繰り返されてしまうこともあります。
キャリアについて上司と真剣に話してみる
上司との対話が負担に感じられるのは、自然なことです。特に転職してほとんど初対面の上司とは、話すだけでも勇気が必要でしょう。
しかも、自分の考えを言葉にしなければならず、相手の反応も受け止めなければなりません。話の内容によっては、上司との間に摩擦が生じることもあります。
しかし、この摩擦を避け続けると、あなたのキャリアは運任せになります。なぜなら、新しい職場には新しい上司がいて、また新しいことを求められるからです。最初から、自分の希望やスキルと会社の期待が100%一致することなど、ほとんどありません。
ましてや、転職したてで何の実績も上げていない自分の要望を何でも実現してくれる夢のような上司に出会うのは、奇跡的な幸運でしょう。
現在は一般的に売り手市場ですから、20代ならポテンシャル採用に救われることがあるかもしれません。
しかし、年齢を重ねた30代後半〜40代での短期的な転職の繰り返しは、「ジョブホッパー(バッタが跳ねるようにジョブを転々とする人)」とみなされ、戦略性がない場合は「なぜ、短期で職を変えるのか」と、採用する側にとっては大きな不安材料になります。
このループを断ち切るのもまた、上司との対話です。できれば最初の会社であることが理想ですが、何社目の転職であったとしても、どこかで上司とキャリアについて腹を割って真剣に話してみる必要があります。
「上司ガチャ」を引き続けないために
退職代行を繰り返してきた人の中には、「上司は怖い存在」「対話は避けたい」「自分は間違っていない」という感情もあるかもしれません。
しかし、上司や会社が自分のどこを評価して、何を期待して、どこに不満や不足を感じていたのかを、一度も聞かないまま職場を離れる選択は、自分にとって貴重なフィードバックの損失になるかもしれません。
「自分の認識している期待役割と強みはこれですが、会社の期待や認識はいかがでしょうか?」と上司に確認することで、お互いのズレを修正することはできたかもしれません。
自分のやりたいことを伝えることで、希望の部署や役割に配置転換されたかもしれませんし、自分が知らなかった人事制度やロールモデルになる先輩を教えてもらえたかもしれません。
退職代行を使われた側の上司や人事は、「話してもらえれば、一緒に解決策を考えられたかもしれないのに……」「せめて一度、事前に相談してほしかった」と言います(そういう話し合い自体が辞める側にとって精神的な負担になる、という気持ちも理解はできますが)。
退職代行を利用すること自体は否定しませんが、運任せの「上司ガチャ」を引き続ける前に今の上司と対話しても損はしないと思います。
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