【中村 清志】”サイゼよりお高い”カプリチョーザ、業績まさかの絶好調「値上げしても客が逃げ出さない」ファン戦略とは
店名の由来はイタリア語で“きまぐれ”――陽気で明るい南イタリアのトラットリア(大衆食堂)をコンセプトとした、人気のイタリアンチェーン「カプリチョーザ」が、その店名とは裏腹に、堅実な成長を遂げていることをご存じだろうか。
同チェーンを運営するWDI社によれば、2026年3月期の売上高は前期比8%増の345億1000万円、営業利益は同66.2%増の12億4500万円として、業績予想を大きく上方修正し、増収増益を達成する見込みだという。
これまでは同じ業界に絶対王者「サイゼリヤ」が君臨していることもあって、けっして目立つ存在ではなかった「カプリチョーザ」。それがなぜ近年、その存在感を強めているのか。外食業界に詳しい中村コンサルタント代表・中村清志氏が解説する。
【前編記事】『不穏つづきのサイゼリヤ「不味くなった論争&株価大暴落」そのウラで“宿敵”カプリチョーザが下剋上か』よりつづく。
イタリアンは外食業界屈指の“激戦区”
まずは、「カプリチョーザ」がその身を置く、国内のイタリア料理店の市場環境を俯瞰しておきたい。イタリア料理店は、1990〜1991年の「イタメシ」ブームと共に拡大し、今や日本の食文化に無くてはならない市場となっている。
市場が拡大した要因は主に3つ挙げられる。1つ目はリーズナブルな価格とオシャレな雰囲気で食事を楽しむことができる店が多い点、2つ目は日本人が好む麺料理、すなわちパスタが料理の中心となっている点、最後に3つ目がオリーブオイルや有機野菜などの食材が健康志向と合致している点などだ。
ちなみに中小企業整備基盤機構の調査によると、年代・性別で見て利用率が最も高いのは、20代女性と40代女性で74%、つづいて30代女性(71%)、50代女性(68%)の順に利用率が高くなっている。また、男女ともに、概ね若い年代ほど利用率が高いという傾向も見られる。
そんな日本人とマッチしたイタリア料理店の市場だからこそ、個人店のみならず、大手チェーンも集結し、日々しのぎを削っている。断トツ人気の「サイゼリヤ」は言うに及ばず、ゼンショーグループの「ジョリーパスタ」や「オリーブの丘」、ユニシアHD(旧串カツ田中)の「ピソラ」などなど。
無論、そんな熾烈を極める市場ゆえ、没個性であったり、顧客満足度の低い業態などはすぐに淘汰されてしまう。では、その中で「カプリチョーザ」はどのようにして成長を続けているのだろうか。
こだわりゆえ「客単価はサイゼの2倍以上」だが…
あらためて「カプリチョーザ」の強み、競合他社に対してどう差別化を図っているのかを見ていきたい。
まず特徴的なのが、国内に90店舗を構えるチェーン店でありながら「セントラルキッチン」を持たないという点だ。これは、創業当時からのこだわりである“手作り”を重視する方針に依るもので、仕込み・調理・盛り付けまでを一貫して店舗内で行っているという。
使う食材にも独自のこだわりがある。イタリアンの味の要は、トマトをじっくり煮込んでつくるトマトソース。カプリチョーザで使用されるトマトは、イタリアで栽培されたものを、同社が衛生指導する工場で色や形、大きさで選別。さらにその年ごとの水分量や糖度、酸味に応じて濃縮度などを調整し、ソースへと最終加工しているそうだ。
こうして作られたトマトソースを象徴する料理と言えば、カプリチョーザの看板料理『トマトとニンニクのスパゲティ』ではないだろうか。濃厚なトマトの旨みと香ばしいニンニク……。「中毒性がスゴい」と言われるのも頷ける。
それでいて、こうした定番メニューも、市場ニーズの変化に合わせて定期的にブラッシュアップを図っているという。新メニューと合わせて、顧客への提案をタイムリーに行うことも怠らない。これが意外にも出来ていないチェーン店も少なくはなく、やはりカプリチョーザの堅実さがうかがい知れる。
だが、これらの調理や食材へのこだわりは、そのまま価格に直結することも事実だ。現に、「値上げをしない」宣言で知られる「サイゼリヤ」は、どの外食チェーンも物価高騰にあえぎ値上げを余儀なくされる中、今も客単価800円台という驚きの安さを維持している。では「カプリチョーザ」はと言えば、想定している平均客単価は約1800円。数字で見れば、実に2倍以上“サイゼより高い”ことがわかる。
なぜ値上げしても客が逃げないのか
やはり「カプリチョーザ」も他チェーンと同様、原材料費や人件費の高騰を受け、段階的な値上げを行っている。
先ほど紹介した『トマトとニンニクのスパゲティ』にしても値段は税込1280円(レギュラーサイズ)。他のグランドメニューを見渡しても、メインとなるパスタやピッツァで1000円未満の商品は見当たらなかった。
それでも業績が好調なのだから、1000円以上でも“お値打ち感”があると思える美味しさ、高品質さを顧客が認めているのだろう。付け加えるならば、料理とは別に、「カプリチョーザ」はホスピタリティあふれる接客と、快適な雰囲気づくりに成功している。これも客離れを起こすことなく、顧客満足度を高めている要因だ。
また、毎年7月に開催される「大創業祭」も、高めの価格設定による心理的なハードルを下げる役割を果たしているのではないだろうか。同イベントは、『トマトとニンニクのスパゲティ』を全サイズ、定価の半額で販売。まだ来店したことのない顧客を誘導し、まず一度食べてもらうことでその価値を理解してもらうのが狙いだ。
こうして「カプリチョーザ」の動向を分析していくと、外食業界は「とにかく安ければ消費者に受け入れられる」時代はとっくに終わり、「多少高くても、満足度が高ければ行く」時代にシフトしたことがよくわかる。
もちろん“値上げをしない”ことを第一に掲げ、企業努力によってそれを維持する「サイゼリヤ」の経営戦略は素晴らしい。その一方で、“値上げをしても”創業以来かわらない「美味しい」「量が多い」「お値打ち感がある」といった商品を、ただ堅実に提供し続ける「カプリチョーザ」の経営戦略もまた、やはり評価されるべきものだ。
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