精液を飲み込むことで「一人前の男性」になれる…「同性愛」がルール化されたサンビア社会の“常識を揺さぶる性教育”〉から続く

 亀頭に穴を開け、木を差し込む――ボルネオ島のプナンに伝わる「ウトゥン・ニィー」と呼ばれるペニスへの施術だ。「女が気持ちいいと、男も気持ちいい」と語る男たちと、装着を夫に“リクエスト”する妻たち。離婚の理由にもなるというこの性具の実態を、フィールドワークをもとに明かす『人類学者が教える性の授業』(ハヤカワ新書)より一部抜粋してお届けする。

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痛みを伴うウトゥン・ニィーの施術

 プナンにおけるペニス・ピン、すなわちウトゥン・ニィーについて具体的に見ていきたいと思います。

 ウトゥン・ニィーは「ペニスに突き刺すもの」という意味であることからわかるように、亀頭に穴を開けて、その左右に脱着可能な横木をつけるスタイルがとられています。ウトゥン・ニィーの施術は、それに熟達した者によって行われますが、痛みを軽減するために早朝の涼しい時間帯に川に入り、術部を冷やし、なるべく人目に付かないように施されます。初日は、先端の尖った金属を、尿管を傷つけないようにして、亀頭に突き刺します。翌朝にはそれよりも大きな金属を刺し、2つのピンをつけられるほどの穴に広がるまで、およそ1週間、毎朝、同じ施術が繰り返されるのです。


写真はイメージ ©︎AFLO

 プナンでは男性のうち、誰がウトゥン・ニィーの施術を受けて装着しているか、広く知れ渡っています。ウトゥン・ニィーの装着は私秘的に行われる一方で、それは公的な関心事でもあるのです。

「ウトゥン・ニィーをつけると、女が気持ちいい」

 では、プナンの男たちは、何をきっかけにウトゥン・ニィーをつけるようになるのでしょうか? 先ほども述べたように、ウトゥン・ニィーは射精することができる成人男性の勃起「アガック」が見られるようになって以降、性器に施される変工です。また、初めてセックスをするような若い男女の間では、ウトゥン・ニィーをつけたセックスはまず見られません。

 ある30代のプナン男性は、子どもがふたりできると、妻からウトゥン・ニィーをつけるようにと言われたが、自分はつけたくなかったので、「離婚」したと話してくれました。

 別の40代のプナン男性は、父と兄がつけていたため、20歳頃に自然とつけるようにしたと言います。また、「ウトゥン・ニィーをつけると、女が気持ちいい。女が気持ちいいと男も気持ちいい」とも語りました。

 あるいは、現在の妻と「結婚」した際に、妻から前の夫がつけていたから、つけてほしいと言われたので、施術を受けたと語る50代のプナン男性もいます。

 私のフィールドワークでは、女性たちから直接、ウトゥン・ニィーについての意見を聞くことはできなかったため、データに偏りがあることは否めませんが、少なくとも男性たちのウトゥン・ニィーをつけるきっかけとなった見解を聞く限りでは、女性につけてほしいと請われて行うか、男性の家族がつけていたので自然とつけるようになるか、そのいずれかのようです。

セックスに不慣れな女性には「苦痛」でしかない

 また、先ほどの40代のプナン男性の発言にもあるように、プナンはしばしば、ウトゥン・ニィーを用いてセックスすると、女性がより快楽を感じ、そのぶん、男性も気持ちよくなるのだと語られます。つまり、女性の快楽はもとより、男性の快楽をも高める道具として、ウトゥン・ニィーを捉えていることになるでしょう。

 私も実物を見せてもらいましたが、実際にウトゥン・ニィーを目の当たりにすると、ピンの先端はなめらかに削られているとはいえ、これを装着したペニスをヴァギナへ挿入することは、生やさしいものではないように思えます。おそらく、女性にとっては大きな苦痛を伴う挿入となるでしょう。それゆえに、ウトゥン・ニィーは若い女性には不向きだとも語られます。若い女性はセックスに不慣れなため、ウトゥン・ニィーは「苦痛」でしかなく、出血し死に至ることもあるとされます。他方、セックスに慣れた女性には、その「苦痛」が逆に快楽になるのだとも言われるのです。

〈「プレゼントがもらえるかも」とついていった少女を待ち受けていたのは…「拒否すれば売春婦」今も続く女子割礼の“想像を絶する施術”〉へ続く

(奥野 克巳)