じつは、このからだは「たった5種類の素粒子」の集まり…人類数千年にわたる問い「この世は何からできているのか」…素粒子物理学の、「現時点での最新回答」がこちら
物理学者たちが長年追い求め、そしていまだに未達成である「四つの力の統一」を説明できる可能性をもった、物理学の最新理論「ホログラフィー原理」。それは「重力が司っているこの世界は、じつは重力とは関係ない力とその力を受けて運動している物質からなるホログラムの像のようなものである」というもの。
量子力学よりもさらに不思議でつかみどころのない最新理論を、人気の物理学者である橋本幸士教授がわかりやすく解説した『ホログラフィー原理とはなにか』(講談社・ブルーバックス)が刊行されました。
この記事シリーズでは、本書の解説から、とくに興味深いトピックを厳選して、ご紹介していきます。今回は、ホログラフィー原理が生まれた背景にある、そもそも「この世は何からできているのか」という問いに対する、現時点での素粒子物理学の答えを確かめていきます。
*本記事は、『ホログラフィー原理とはなにか 宇宙と素粒子を統一する最新理論』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
素粒子物理学の研究者たちが「ホログラフィー原理」に注目する理由
素粒子物理学は、最もミクロな世界の法則を研究する分野ですが、まだまだたくさんの謎が残っています。そもそも素粒子が入っている“箱”であるこの空間も、素粒子的なものからできている可能性がありますが、この問題も未解決です。
そんな素粒子物理学の研究者たちが現在、最も注目しているのが「ホログラフィー原理」です。ホログラフィー原理は、素粒子や空間に対するこれまでの考え方を根底から覆すものだといえます。
研究者がホログラフィー原理に注目している理由は、もしこの原理の正しさが実証されれば、「宇宙は何からできているのか?」という問いに答えることができるかもしれないからです。
まずは、宇宙が何からできているのかに対する、素粒子物理学の現時点での回答について見ていきましょう。
モノは何からできているのか?
日常生活では原子の存在を意識することはあまりないでしょう。電車に乗ろうとして駅のホームで並んでいるときに、電車がどんな種類の原子からできているのかを考える必要はないですからね。
しかし、私を含めた素粒子物理学者と呼ばれる職業の人たちは、常にそのようなことを考えています。素粒子というのは、「人類がそのときの技術で到達した最も小さいモノ」のことです。
例えば、豆腐を半分に切ったとしましょう。さらに半分、さらに半分と切っていけば、いずれは目に見えないほど小さくなります。そうなると包丁では切れなくなりますから、もっと優れた技術を使ってさらに細かく割っていきます。「もうこれ以上、割ることはできない!」というところまで行った最後の粒のことを、私たちは素粒子と呼んでいます。
17種類の素粒子で自然界のほとんどすべての現象が説明できる
私たちは学校で「身のまわりのすべての物質は原子からできている」と学びます。原子はその性質の違いから100種類ほどに分類されます。これらの様々な種類の原子を並べた表は、周期表と呼ばれています。
ここで驚くべきことは、おおよそ身のまわりのすべての現象は、わずか100種類ほどの原子が引き起こしている、という事実です。洗濯機や電車、あなたの体すらも、すべてこれらの100種類ほどの原子でできているのです。
古代ギリシャ人は、世界は火、空気、水、土の四つの要素からなると考えていましたが、原子の種類(元素)は、四つではありませんでした。しかし、ここで重要なのは、4と100の大きさの違いではなく、有限の数しかない要素で、無数ともいえる現象を説明することが可能になる、という点です。
素粒子物理学は、実験で原子をさらに割って、その結果を見る、ということを繰り返して発展してきました。そして、現代の素粒子物理学では、電子やクォーク、光子、ヒッグス粒子など、わずか17種類の素粒子のみが登場します(図「素粒子物理学に登場する17種類の素粒子」)。
17という数が多いのか少ないのかについては個人の感覚にもよりますが、先ほどもいったように、ここで重要なのは「わずか17種類の素粒子によって、私たちの知りうるほとんどすべての現象が説明できる」という驚くべき事実です。
素粒子は極めて小さい
素粒子の大きさは分かっていません。なぜなら、素粒子を見た人がいないからです。
ところで、なぜボールには「大きさがある」といえるのでしょうか。それは、ボールには表面があり、それを見たり手でつかんだりすることができ、「大きさがある」と考えることが自然だからです。
一方、素粒子とは「小さすぎてどんな科学技術によっても、まだその構造が観測できていないもの」と定義できます。ボールの表面を見たり触ったりすることは、物理学でいうところの「観測」に相当します。素粒子に対してはそのような観測ができていないのです。
ただし、「あるものを割ったら素粒子が出てきた」といった実験から、その素粒子の大きさがどれくらいのサイズよりも小さいのか、つまり大きさの上限は分かります。
例として、原子を考えてみましょう。原子を割ると、原子核とそのまわりに存在する電子に分解できます(図「素粒子とは?」)。
さらに原子核を割ると、陽子と中性子という粒子に分解できます。
そして、陽子や中性子はさらにクォークという素粒子からできていることが分かっています。
ということは、素粒子であるクォークは、陽子よりも小さいはずですね。
陽子の半径は実験で測定することができます。測定された陽子の半径は、おおよそ1フェムトメートルでした。1フェムトメートルは、10のマイナス15乗メートルです。これは、小数点の後に0が続き、ようやく15桁目で0ではない数字が現れるという、とても小さな値です。
つまり、クォークの大きさは、10のマイナス15乗メートルよりも小さい、ということができます。クォークは極めて小さなものなのです。
「この世界は何からできているのか?」に対する現時点での答え
では、人の体がいくつの素粒子からできているのかを考えてみましょう。
体重をおよそ100キログラムとして計算してみます。100キログラムは重すぎると思うかもしれませんが、物理学ではまずおおざっぱな桁数だけを考えることがよくあります。細かな値が知りたいなら、その後にさらに計算を行えばよいのです。陽子と中性子はほぼ同じ重さ(質量)で、電子の約1800倍もあります。
そのため、原子の重さ、そして人体の重さは陽子と中性子の重さでほぼ占められているといえます。
100キログラムは、陽子と中性子の数でいうと、おおよそ10の29乗個に当たります。10の29乗個は、1の後に0が29回も連なる、とんでもなく大きな数です。1兆が10の12乗ですから、1兆の1兆倍のさらに10万倍ということになります。
陽子一つ、または中性子一つはクォーク三つでできています。また、原子の中に、電子は陽子と同じ数だけ存在しています。以上を踏まえると、体に含まれる素粒子の数もおおよそ10の29乗個だといえます。素粒子の数は、陽子と中性子の数の合計のたかだか数倍にすぎないことになるからです。
ここで大事なことは、この数が単に大きいということではありません。わずか数種類の素粒子がそれだけたくさん集まることで、みなさんの体が形づくられているという事実です。
「体を構成している素粒子は何種類なのか?」と問われれば、素粒子物理学者の答え は「5種類(電子、アップクォーク、ダウンクォーク、光子、グルーオン)」ということになります。みなさんの体は、結局はたった5種類の素粒子が非常にたくさん集まることで機能しているのです。
古代ギリシャの時代から連綿と考え続けられてきた「この世界は何からできているのか?」という問いは、現代では、このように答えられているのです。
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「この宇宙は物質から浮かび上がってくる、ホログラムの像」という、ホログラフィー原理。一体どういう意味でしょうか。次回は、このホログラフィー原理とはどういうものなのか、その解説をお届けします。
ホログラフィー原理とはなにか 宇宙と素粒子を統一する最新理論
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