これ以上事故を起こさないために…日本のインフラに欠かせない頑丈なコンクリートのつくりかた
日本はこのまま崩れ去ってしまうのか? 道路、鉄道、水道、インフラ、橋……なぜ全国各地で次々に事故が起きるのか? お金も人も足りない……打つ手はあるのか?
注目の新刊『日本のインフラ危機』では、私たちの暮らしを揺るがす「大問題の正体」を豊富なデータと事例から解き明かす。
(本記事は、岩城一郎『日本のインフラ危機』の一部を抜粋・編集しています)
複合防御網によるコンクリート構造物の高耐久化
私たちはこのような対策を「複合防御網によるコンクリート構造物の高耐久化」と称して、国土交通省に説明しました。
凍結防止剤散布下におけるコンクリート床版では、凍害、塩害、アルカリシリカ反応、さらには疲労という劣化が重なって、早期劣化に至る複合劣化が懸念されます。このような厳しい環境においては、各劣化に対して一つの対策を講じただけでは不十分です。なぜなら一つの対策の防御が破られたら堰を切ってその他の劣化も進行してしまう恐れがあるからです。
そこで私たちは、対策として、水セメント比(水結合材比)の低減、フライアッシュの利活用、膨張材の使用、防錆鋼材の使用、十分な空気量の確保を挙げ、一つの劣化に対してこれらの対策が網目状に張り巡らせるよう提案しました(図表3-1)。そして、2015年についに日本初の高耐久コンクリート床版の施工が始まったのです。今回は東日本大震災からの復興という有事において、長持ちするコンクリート構造物を実現するためのプロジェクトが進められました。平時であればなかなかこうした動きにはつながらなかったでしょう。また、現場の総責任者である佐藤和徳さんの理解と実行力が壁を動かしました。新たな技術が誕生するときにはこうしためぐりあわせが必要なのです。
高耐久床版の実装
現場に選ばれたのは岩手県の向定内橋でした。この橋は釜石市の中心部から西へ約5キロメートルにあり、花巻と釜石を結ぶ復興支援道路の一部でした。現場を総括する国土交通省東北地方整備局南三陸国道事務所(現・南三陸沿岸国道事務所)の所長にはあの佐藤さんが就任していました。
施工にあたって、まずははじめて製造する生コンを工場でしっかりと出荷できるかがポイントでした。遠野レミコンの工藤和信工場長が何度もプラント(生コンを実際に製造する設備)での実機試験をおこない、試行錯誤を繰り返した結果、当日はこちらが提示した品質管理項目をすべて満たす完璧な生コンを安定して供給してくれました。
このコンクリートを受け入れ、現場で施工する総指揮を執ったのは大林組の榊原直樹工事長でした。榊原さんは良いコンクリート構造物を施工するための周到な施工計画を立て、かつ現場においてミニチュアのモデルを用いて何度も試験施工をおこない、最適な施工方法を見出しました。
施工当日、私たち研究者が固唾を飲む中、周到な準備をおこなった現場の作業員たちが何事もなく、粛々と工事を進め、その日のうちに完了しました。
出来上がったコンクリート構造物はとてもすばらしいものでした。コンクリートがすばらしいといっても、一般的には伝わりづらいところかと思います。実際どういうものになったかといえば、固まった後のコンクリートに対し、(水や空気を通しにくい)緻密な組織を形成しているか、ひび割れは発生していないかなどの測定を慎重におこないましたが、すべての項目で満点の結果を得ました。
改めて、日本のコンクリートの製造、施工技術のレベルの高さに感嘆するとともに、こうした構造物は良いコンクリート構造物を造りたいとする技術者の心意気によって成し遂げられることを実感したのです。
さらに、「日本はこのまま崩れ去ってしまうのか…意外と気づかない「インフラ危機」本当の実態」」では、いま大問題として迫っているインフラ老朽化問題をひきつづき見ていく。
